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名前をつけよう


 ひとまず場所を変えようと提案し、畑からだいぶ離れた所で自己紹介。先に俺達から名乗り、今の立場──村に一時滞在していて、村人達のお手伝いで今夜見回りをしていた事──を伝えた。

 お次は相手の事情を聞く事にする。


「ワシはズーンドゥッコ=トゥールパグェルゆう者じゃあ。で、こっちが」


「オームノェーガ=チュールペタン」


「うん? いきなり噎せてどがいした?」


「いや、……ごめん。ちょっと、待って……!!」


 何だ、その目のやり場に困る名前!


「……取り敢えず、ズーン、オームと呼んで良いかしら?」


 ナイスだ唯! そこら辺なら響き的にも問題ない。


「差し支えなければ、その理由を教えてほしい」


「それぞれ、親から貰った大事な名、一族を表す有難い名じゃ。出来りゃあ端折らずに呼んで欲しいんじゃが」


 まさかのフルネーム呼びを望まれた。しかしその願いを叶える訳にはいかない。


「あああ、えーと! お説ご尤もなんだけど……えー、……コレ、どう説明すればいいんだ?」


 迷った挙句、思った事をありのままに伝える事にした。

 ──俺達の母国語に音が似ている事。その内容があまり良い意味に受け取れない事。言霊の概念と、ついでに自分が言霊魔術師である事も伝え、良くない意味の言葉を口にしたくない事を何より強調した。


「そんな訳で君達の名を呼ぶのは憚られる」


「むう、成程なあ。しかし、そんな変な意味なんか? 仲間内じゃあ勇ましいと言われよった、ええ名前なんぞ?」


 ズンドコが? 勇ましいのか……そうなのか。


「言霊魔術師である俺がうっかり口にすると、呪いの言葉になりうる可能性があります」


 意識的に口調を切り替え、この説明で納得しろと目に力を籠めて言う。つーかマジで納得してくれ。口に出せるか、あんなもん。

 そりゃあさ、ズンドコなら良いよ。ズンドコだけなら。頭ン中で勝手に演歌がリフレインするだけだから。

 だがしかし! そこに一族の名をくっ付けるだけで極悪な呪いの言葉に変貌するんだよおぉう!!

 ──人を呪わば穴二つ、因果応報などの言葉が示す通り、天に向かって唾吐けば己に返ってくる事になるのだ。 ……絶ッ対に御免蒙る! 生え際を気にするお年頃になるのは、まだまだ先でいたいのだ!


「わ、私は別に言霊魔術師ではないけれど、それでも口にするのは、ちょっと……」


 唯も唯で、一瞬だけ自らの胸の膨らみに目を落とし、困った様子でそっと口添えしてくれた。


「……分かった。それなら、あなたが私達に仮の名前を付けて」


「え、俺が?」


「おう、おう、そりゃえいのう。下手に端折られるくらいなら、別の名を贈られた方がマシじゃわなあ。言霊魔術師言うたか? そんな大層なモンなら、何ぞめでたい名を付けてくれるやろう」


 やめて! ハードル上げないで!! ただでさえ俺にセンスは無いというのに!

 しかし、話し合いをするにあたり、名前を口に出来ないのは不便。何らかの呼び名は必要かと思い直し、ちょっと真剣に名前を考える事にした。


「えー、……牛と馬、牛と馬……茄子と胡瓜?」


「透さん?」


「ごめんなさい今の無しで! えーとえーと、昴と、……桜、ならどうだろうか?」


「…………、まあ、いいでしょう」


 チラリと唯にお伺いを立てると、半ば呆れた口調ではあったが、まあ透さんだし、とのお言葉と共にOKが出た。


「スバルにサクラ。不思議な響きやが、どんな意味なんじゃ?」


「昴ってのは星の呼び名で、桜は樹の名前。可愛らしい花をつけるんだ。俺達の国で最も愛されてる花だよ。あと俺の好きな言葉で「天に星、地に花、人に愛」というのがあってね。それを意識してみた。……どうかな?」


 確かゲーテが『この世に必要なもの』だと謳い、明治の評論家は『美しいもの』と解釈していた。因みに俺はその事を調べるまで『そこにあるもの』だと思ってた。我ながら身も蓋もないな。


「……私のこの姿から花を連想してくれたの?」


「……ああ、うん、そうだ、よ……」


 僅かに嬉しそうに声を弾ませ、尻尾を振るお馬さん。こういう女の子らしい反応をされるとメッチャ返事に困る。……本当の事は口が裂けても言えないな、こりゃ。




「それで話を戻すけど、昴と桜は何処から来たんだ? 喋る動物って初めて見たんだけど」


「ワシらはシーコックゆう島の生まれじゃ。ちゅうかワシら島のもんは皆、何ぞ獣の姿に変身出来るっちゅうだけの、歴とした人間ぞ。喋れて当然やが」


 何処に行けばあるのですか? そのモフモフパラダイスは!


「けんどある日、昼寝から覚めたら全く知らん場所におったがよ。いやあ、あん時は参ったが。ワシもオー……、サクラも急に体調を崩してしもうての。動くんも大儀やったが、島じゃあ見られん変な生き物が襲ってくるけん、必死で逃げ回ったがよ」


 ……おい、それ。


「ここは私達にとっては見知らぬ土地で、体力も落ちている。安全と判っている作物は貴重。畑の作物を食べるのをどうか見逃してほしい」


 ……これは俺達が答えていい問題じゃない。……ないんだけど。話を聞く限り、無視していい問題でもないような気がする。だって彼らは間違いなく──。


(アウター、よね?)


(だな。しかも俺達とも異なる世界ときた。どうやら二人?は同郷のようだけど)


 ヒソヒソと耳打ちしてくる唯に、俺も声を落として返す。

 彼らの状況を鑑みればこのまま放置というのもマズイ気がする。彼らの体調の面でも、地元民の感情の面でも。ついでに神殿の面子的にも。


 思いもよらぬアウターとの邂逅に、どうしたものかと頭を悩ませるのであった。




 名前を考えるのが一番苦手。テキトーに仮の名前を付けてたら定着してしまった一例。


 スバル・牡牛座の中にある六連星むつらぼし

 サクラ・馬肉の別名。


 某歌ってバトって恋をするゲームキャラに非ず。毎年夏と正月に東京まで舞台見に行ったなあ。


 シーコック・作者の棲息地。方言で書くの楽やわ~。


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