サポーターの働き
「で、今日の相手は、っと。……これまた厄介そうな」
手で庇を作り空を見上げれば、そこに居たのは人間と然程変わらぬ大きさの、腕の代わりに翼を持った鳥型の魔物、ハーピィの群れだった。同じ方向から次々と飛来し、ぐーるぐると上空を旋回している。どうやら数が揃うのを待っているようで、今のところ仕掛けてくる気配はない。
「ああ、確かに厄介だな。遠距離攻撃の手段が無い俺とレイはあまり役に立たん。ソルとお前らの弓にかかってくる」
「んー。俺らの弓は弱いからなあ。あまり高度を取られるようだと、唯は火を使った方がいいかもな」
「確かにそうね。瞬火を使ってもいいかしら?」
瞬火と言うのは唯のオリジナル魔術?で、本人曰く【炎の矢】+【火炎球】のイメージ。ヒュッと飛んで行きパンッと弾ける、ロケット花火のようなもの。速度も威力も段違いだが。
因みに同じくオリジナル魔術で【乱火】というものがあり、こちらは打ち上げ花火のように広範囲に火炎を撒き散らす。
あまりに火魔術が上達しない事に焦りを感じた唯がやらかしたちゃった結果だ。こないだの走竜戦でコツを掴んだ模様。クリス帰還の日が怖い。
「それにしてもハーピィってこんなに群れる事もあるのね。それにこれほど好戦的な面があるとは知らなかったわ」
それは俺も思った。ハーピィって基本単独、たまに番いで居るのを見るくらいだ。性質は臆病かつ慎重。稀に人気のない道を行く旅人が襲われたなんて話は聞くが、白昼堂々、群れを引き連れ砦を襲撃なんて聞いた事がない。
「何処かのコロニーで異常繁殖すると、飢えの為か凶暴化するんです。そうなると人里すら襲うようになります。餌が豊富にありますからね」
「それ、開拓村の方は大丈夫なのか?」
「異常を伝える狼煙は今のところ上がってはいないわ。つまり救援の必要なし。心配だと言うならここで一匹でも多く削るべきよ」
「分かった。……とはいえどうしようか? 飛行生物相手はこれまでした事ないんだよな」
【自由自在】で空は飛べても、流石に空がフィールドの連中に空中戦を仕掛けるのは無謀極まる。俺よかよっぽど強いサニーでも、「空飛びながら戦闘は無理」ってきっぱりはっきり言ってたし。
「遠距離手段以外だと、こちらを狙って急降下してきたところにカウンター入れるってのが常套手段だな。翼さえ手折ってしまえば簡単だ。あとハーピィの足の鉤爪にゃ毒があるから、食らわないように注意しろよ」
毒持ち相手が簡単、って言ってくれるなあ。まあ、あんなでも鳥の一種だから、骨も頭もスッカスカで耐久力はあまり無いと勝手に期待しているが。
……うん、鳥? 鳥、か。
「サニー、レイ。石投げは得意か?」
「人並みだな。何だよ? またなんか面白いもんがあんのか?」
「相手が鳥類ならうってつけのものがある。飛距離補正、自動追尾。一度で二羽を確実に撃ち落とせる」
「はっはー! そりゃ面白そうだ。是非掛けてくれ」
とは言え、一つ一つ石に籠めるのも面倒だな。試しに手袋着けてもらってそれに掛けてみるか。……上手くいくかな?
「くるぞ! 戦闘準備!」
誰かの上げた警戒の声に場の空気が研ぎ澄まされてゆく。考えてみれば、これほどの大人数での戦闘は初めてだ。ただ居るだけで肌がピリピリしてくる。
一度だけ深呼吸して気持ちを落ち着かせ、サニーとレイの手袋に触れた。
「まず一回だけこれでいけるか試させて。【一石二鳥】」
手袋に魔力が籠った事を確認して一つ頷く。それを受けたサニーが軽く助走を付けながら石を投げると、まだかなりの距離があったにも関わらず、一羽のハーピィに真っ直ぐ飛んでいった。そして当たった瞬間に石は軌道を変えもう一羽も無慈悲に撃ち抜く。石を当てられた二羽のハーピィはそのまま羽ばたく事なく墜落していった。
「よっし! いける! サニー、レイ。どんどんいこう」
「おうよ!」
「わかりました。が、何て無茶苦茶な……」
レイにはやや呆れられながらも、有効である事は認められ。ソルの弓、唯の瞬火も共に火を吹き、次から次に射落としてゆく。俺はせっせと手頃な石を拾い集めて渡す役回り。なんだか玉入れを思い出すなー。
渡すついでにこまめに延長を掛けている為、こちらの攻撃が止む事は無い。たまに投石では仕留めきれず地面でもがいているのも居るが、手の空いてる者がすぐさま駆けつけて容赦なく屠ってゆく。味方が多いってのは頼もしいね。
戦場のあちこちで矢や魔術が撃ち上がってゆく光景が繰り広げられている。それに対しハーピィ側は数に物を言わせた飽和戦術で向かってくる。
いつ終わるやも分からなかった長い戦闘は、耐え忍んだ砦側に軍配が上がった。
激戦をくぐり抜け、今は戦後処理の真っ最中。そんな中で俺は唯を引き連れ、怪我人が犇めく医療所に足を運んでいた。
本人の強い希望で連れてきたが、呻く患者の状態にショックを受けた蒼い顔を見ていると、やっぱ置いてきた方が良かったか、とちょっぴり後悔した。
それでも気丈に唇を引き締め、遅れる事なく付き従う唯に無言の感謝を捧げ、声を張り上げる。
「えー、解毒魔術はいかがッスかー!」
「おう、こっちこっち! こいつに頼まあ」
俺の声に反応した男が大きく手を上げ呼び寄せる。そんな彼の傍らには、肩口を深く抉られた男が、熱に浮かされた目で壁に凭れ掛かっていた。
水筒【人畜無害】を唯から受け取り、中身をトプトプと傷口に掛けていく。それからコップに中身を注ぎゆっくりと飲ませた。全て飲み干す頃には目に力が戻ってきていたので、後は治癒術師の出番だろう。礼を言う二人に会釈を残し立ち上がると、一部始終を見ていた周囲から我も我もと声が掛かる。
重篤そうな者から優先して手当を施したおかげか犠牲となった者は少なく、後日大勢の人から感謝の言葉を頂けた。




