練習あるのみ
神殿に戻った後は、朝食も摂らずに即行でベッドにダイブ。
何だかんだで俺だけ徹夜仕事になったからな。いや、他の皆はきちんと仮眠をとっていたんだけど、未来の我が家(予定)の状態を詳しく調べる必要があったからね。色々資料を揃えていた方が交渉を有利な方向に持っていけるかも?という下心のせいです。
金無し、コネ無し、知名度無し。ポンと即金で家を買えるような御大尽様が出てこないとも限らない。にこやかな営業スマイルの裏、内心かなり必死で口約束までこぎつけました。
後は強引な御大尽様が出てくる前に正式な契約を交わしたい。ローン契約って出来るんだろうか?
それに新手の鼠ちゃん達も警戒しないと。今夜から自主的に巡回を始めてみようかな。
そんな事をうつらうつら考えていたが、次第に強まる睡魔にあっさりと意識を刈り取られた。
「くぁ~。うー、まだ眠い」
大口開けて欠伸を零し、大きく伸びをする。霞んでいる目をゴシゴシ擦りながら、視線の先で遊んでいるティア達の姿を眺める。
なんでも昨夜の伝声管を使った悪戯が楽しかったようなので、紙と糸で糸電話を作ってみたら大変お気に召したらしく、ルーやクリス相手に飽きもせず遊んでいる。ほのぼのとした気持ちで眺めていたら、隣に立つケイが話し掛けてきた。
「あれも『デンワ』って言うんだね。トオルの持ってるケータイとはだいぶ仕組みが違うようだけど」
「ああ、うん。あれは言わば子供の玩具だし。えーと?声を伝える糸の代わりに電波を使ってたんだっけか?詳しい仕組みは俺にも分からん。向こうじゃその電波を送受信する塔をあちこちに建てて、その範囲内にお互いが居れば瞬時に連絡を取り合う事が可能だった。国内の殆どが範囲内に入ってたんじゃないかな?」
「はー。信じられない世界だね。成程ねー。こっちにはその塔がないからアンタのデンワは使えないんだね。……でも、それこそアンタのヘンテコ魔術でどうにかならないのかい?」
「ヘンテコとは失礼な。まあ、どうにかなりそうなんだけどさ。というか既に【即席】では試した。まだ練習が必要だけど感覚を掴んだら【刻印】でもきっとうまくいくと思う」
使った言葉は【以心伝心】。これにはちょっと苦戦した。唯と一緒になって、あーでもない、こーでもないと理屈と魔力を捏ねくり回して、漸く望む機能を発揮した。
でもなあ、あれ同時掛けが必要なんだよな。ただでさえ【刻印】は魔力を食うし、魔力暴発の危険性を内包しているのに、更に消費の激しい同時掛けを施しつつ、魔力の制御をしながら、端末同士を魔力で繋ぐイメージを保持し続けなければならない。
ステータスが少し増えた今の状態でも、魔力を満タンまで回復させて精々三つ同時が限界なんじゃね?しかも結構ギリギリで。下手したら意識喪失からの魔力暴発の未来も有りうる。
……うん、やっぱ今すぐは無理だな。まずは【即席】での同時掛けに慣れるべきだ。その後に【刻印】に取り掛かり、数が必要なら対の端末を複数用意する方針でいこう。
魔力暴発は体内をズタズタにするって聞くし体感なんかしたくない。
出来ればティア達が旅立つ前に一つ用意したいところではあるが、無理は禁物、安全第一。
もう少しでコツを掴めるような感触はあるし、焦らずじっくり集中して頑張ろう。




