理解不能
冒険者ギルドを後にして、漸く本日のメインイベント『~頑張り屋さんを労う会~主催・ワクワク☆買い物大作戦!』が発動。
ネーミングセンスが無い?んなこた知ってんよ!
さてさて、ティアは喜んでくれるでしょ~か?
◇
誰か教えて下さい。一体何故このような事になったのでしょうか?
「ティア、ちょっと頼み事をしていいかな?実はね、俺としてはもう少し唯に服を持たせたいのだけど、困った事に俺はそういうセンスがからきし無くてね。本人に選ばせようとすると遠慮されるから、ティアさえ良かったら唯の服を見繕ってやってくれないか?」
勿論、代金は俺が出すから、と困ったように頭を掻きながらお願い事を口にするトオルさん。そのような事でお役に立てるなら、と引き受けてみたのですが、何故か思わぬ方向に話が転がってしまいました。
「あら、本当にティアが選んでくれるの?それはとても嬉しいわ。なら選んでもらうお礼に、私からも服を贈らせて欲しいわね。透さん、お代は借金につけておいてくれる?」
「ん?そういう事なら俺も、日頃お世話になっているお礼として出すぞ。ここは仲良く折半といこう」
「透さんがそれで良いなら」
決まり、と仲良く顔を合わせ笑みを交わすお二人。まるで事前に打ち合わせされていたかのような自然な流れに、口を挟む事も忘れていました。
目の前で交わされたトオルさんとユイさんの会話。そんな些細な事に「ああ、本当にお二人は同郷の方なのですね」と強く思い知らされました。
正直に白状しますと、私達ではトオルさんの言葉にすぐさま反応出来ない事がままあります。
「一体何を言っているのか?」又は「どうして今の発言に至ったのか?」
発言の内容や思考の筋道を、前後の会話から推測するといった段階を踏む必要があるのです。時にはその段階を経てもなお、理解が及ばない事もあります。そう、まさに今、この時のように。
ですがユイさんにはそういった間がありませんでした。お互いの言葉や思考を瞬時に理解し、当然のように受け止め、会話を続けています。
同じ国に生まれ、同じ価値観を持つ、おそらく、この世界では唯一の同胞。
お二人の間にある、目には見えない絆を強く感じると同時に、とても困ってしまいます。
だって、本当に意味が分からないんです。どうして服を選ぶだけで、お返しに服を贈るなんて発想になるんですか?あまつさえ、更に借金を被ってまでする必要がどこにあるのでしょう?やはり、ユイさんもアウターの一人。思考が全く理解できません。
ただ、このままだと間違いなく服を贈られてしまう事だけは察し、何とか考え直して下さるようお願いしたのですが、「ろーん」だの「りぼばらい」といった訳の分からない単語を交えた説明を受けるのみ。「だから大丈夫!」と二人は笑顔で言ってくれましたが、言葉の意味が全く理解できません。頭が混乱し過ぎてもう泣きそうです。
「だって、ティアみたいな可愛い子には何かプレゼントしたいと思うのが普通でしょう?」
「いえ、本当に意味が分からないのですが。その理屈」
心底、困り果ててそう返すも、「何か変な事言った?」と小首を傾げるお二人の反応に、上手く言葉が出てきません。やもすると、私の常識が間違っているのでは?と思えてくるから不思議です。
他の皆の意見が聞きたい。あまりの心細さにそう思った瞬間、傍で聞いていたルーが大きな声を上げました。
「ちょおっと待つニャ!ウチもティアにニャンかプレゼントしたいニャ!だからオマエラはニャンもする必要ニャいニャ!」
「あら?酷いわね。そもそもこれは私達のアイデアでしょうに」
「ですが私達の方が~ティアとの付き合いは長いんですよ~?ここは先輩である私に譲って下さい~」
「いや、そこはアタシ、達と言うべきところだろ?」
……いえ、あの?止めて下さらないんですか?
なんという事でしょう。暫く会わぬ間に皆は既にトオルさん寄りの考えをするまでに至ったのでしょうか。
自分の常識が通用しない場所にただ一人、という状況は予想以上に心にキます。アウターの方々の孤独が少しだけ解りました。
……やだ、本気で泣いてしまいそう……!!
込み上げる激情に流されないよう、息を止め、必死にやり過ごそうと努めます。
「OK、OK。皆の気持ちは解った。ならばここは、それぞれが別々の贈り物をするというのはどうだろう?俺と唯は服を贈るから、ケイとルー、クリスとリオが組んで、ティアが喜びそうな、もしくは似合いそうな物を贈ればいい」
「それだ!」「それニャ!」
「私もか?……まあ、選ぶのはクリスに任せて私は金を出すだけなら問題ない、か」
「リオはそういった方面はとんと疎いですからね~」
「予算の大まかな上限も決めとこう。あまり高価な物だとティアが気を遣ってしまうだろうから」
「……それでは予算はこの位で~。一時間後に服屋に集合という事で~」
それじゃ、よーいどん。
トオルさんの合図を受け、雑踏に消えていく背を見つめます。何かお目当ての物があるのか、その足取りに迷いはありません。
「それじゃ俺達も服屋に行こうか……って、ティア?」
逆に私は、まるで見知らぬ町で迷子になったかのような不安に駆られ、その恐怖のせいか地面に足を縫い付けられ、一歩も動く事が出来ません。
「……っ!!」
四人の姿が完全に見えなくなった時が限界でした。
息が苦しい。上手く呼吸が出来ない。訳が解らない。怖い。
その場にしゃがみこみ、震える身体を抑え込むように、自らの腕を掻き抱きました。
「どどど、どうしたティア!?どっか痛いのか!?それとも気分が悪いのか!?」
「……いえ、違い、ます。ただ、もう本当に……訳が分からなくて。どうしたら、いいか……分からなく、なって……そ、したら、立っていられなく……なって」
「「……あー」」
震える声で心情を打ち明けますと、それだけでどこか理解を見せるお二人。やはり普段はどんなに平気に振る舞っていても、同じような心境を抱く事があったのでしょう。
「……うん、……うん。これは俺らに非があんな。ちょっと調子に乗りすぎて、話を強引に進め過ぎた。ごめんなティア」
「ええ、きちんと私達が気付くべきだった。本当にごめんなさい。貴女を困らせたかった訳ではないの」
そう言いながら私を優しく抱き締めるユイさん。背中を撫でる手の動きに、先程までの不安が溶かされてゆきます。
「そうだよな。理解できないってのはそれだけで、凄く不安になるよな。他の皆がそれなりに理解を見せているなら尚更だ。そういや俺もガキの頃、勉強がさっぱり解らなくて泣いた事あったなー。……大人になるとこういう感覚が鈍くなっていけない」
トオルさんはそう言って傍らに立つと、私の頭を一度撫で、その後は黙って私が落ち着くのを待ってくれました。
【ちょこっとカミングアウト】
作者は小学生の頃、初めて外国人同士の会話を目にした夜に、言葉が通じない場所に放り出される夢を見てマジ泣きしました(/o\)




