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亘理くんの野望


「ふうん?普段はハズレばっかり掴まされるあんたが、今回は珍しくアタリを引いたようだね」


 旦那さんの熱の入ったセールストークにも踊らされる事もなく、布を見つめて冷静に判断を下すおかみさん。水を掛けられた旦那さんは、先程の饒舌ぶりは鳴りを潜め、ボソボソと抗議の声を上げるのみ。


「いや、あの、おまえの言う通りなんだけどね?その、僕にも外聞とか立場というのがあって、ね?あんまり、よその人の前では言わないでくれると嬉しいなあ、とか、ウチの子の前でも控えてくれると助かるかなあ、なんて……」


「だったら言われる前に自分を律して欲しいものだねえ。何も好きで言ってる訳じゃないんだからさ」


「いや、その。……はい、すみません」


 しゅんと身体を縮こまらせて詫びを入れる旦那さん。

 あー。今の遣り取りで分かった。旦那さんてば俺の同類だ。俺がやらかす非常識が、旦那さんの場合、衝動買いにあたるんだ。

 なるほどなーとウンウン頷いていたら、こちらの視線に気付き、照れたように頭を下げてきた。


「やあ、これは情けない姿を見られちゃったね。でもかみさんの許可も貰えたし、これでトオル君にお願いできるよ。是非頼めるかな?」


「はい。有り難うございます」


 やった!商談成立!


 早速、診断と行水を終えた者から順に列を作ってもらい、魔術を掛けていく。奴隷達の衣服は、大事な部分が隠れる程度のささやかな物であるので、魔力が尽きる心配も無い。

 護衛業の方は【刻印・天網恢々】を託し免除してもらおう。


 行水後の艶姿(年頃の女性限定)にドギマギしつつも、魔術を施してゆく中、ふと旦那さんと俺の共通点に思考が及ぶ。

 逞しい女性陣に首根っこ抑えられて、尻に敷かれているとこまで一緒。でもあの調子だと旦那さんは財布の紐までガッチリ握られていそうだな。


 ……笑えねえ。


 これは決して他人事や笑い事で捉えられない。今までは無駄遣いをしてこなかっただけで、俺にも欲しい物はあるのだ。そう。それは、魔道具。

 特殊な素材と腕利きの付与魔術師が必要なそれらは、一つ一つがどれも高価だ。

 多少なら【刻印】で魔道具モドキを作れるが、『使える言葉は四字熟語のみ』なんて縛りがあるので、どうしても再現できない物もある。それを補う為にも魔道具購入は決定事項だ。全ては快適な暮らしの為に。

 そもそも、向こうの便利で豊かな生活を知っている俺が現状に満足している訳がない。込み上げる不平不満に蓋をして、「今は臥薪嘗胆の時である」と自分に言い聞かせてきただけに過ぎない。


 その理由は大きく二つ。

 一つ。金が足りない。

 あれだけリオ達に振り回されつつ稼いだというのに、欲しい物を揃えようとしたら全然足りない。だからこそ空いた時間があればクリーニング業や運送業などの副業に勤しみ、今もこうして営業を掛けているのだ。


 二つ。居候の身であること。

 現在も神殿の一角に部屋を宛がわれている身としては、耳目を気にしてしまい、大っぴらに高級品を買い揃える事が出来ないでいる。【刻印】で作った品も一見では判らないように偽装を施している。くくく。よもや部屋の片隅にポツンと置かれた古ぼけた木箱(鍵付き)が、上段に氷【刻印・永久不変】を入れた簡易冷蔵庫とは誰も思うまい。

 こんな涙ぐましい偽装工作をしてでも、少しでも快適な暮らしに近付きたいと一心に頑張ってきたが、そろそろ出来る事も限界だ。いい加減本気で独立に向けて動き出したい。

 今までコツコツと蓄えてきた金と、神殿もしくはギルドに後ろ盾になってもらって、どうにか家を買えないものか。

 小さくてもいい。町外れでも構わない。自分の家を手に入れて、大手を振って「悠々自適な暮らし」という野望の為に邁進するのだ。



 そんな事を考えながらクリーニング魔術を施していると、目の前の女奴隷に手を掴まれた。

 しまった。考え事をしながらだったので変な所を触ってしまったか?何も覚えてないのに。何てもっt、ゲフンゲフン。

 手を掴んだままこちらを見つめる娘さんを観察する。

 湿ったままの腰までの髪はくすんだ黒色。驚いたように見開いた目は黒茶色。うっすらと疲れが滲んだ顔立ちは、こちらに来てから初めて会う東洋系の顔立ちだった。って……ええっ!?


『……貴方は、日本人?』


 耳に飛び込んで来たのは、久々に自分以外の口から聞いた、日本語だった。



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