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イドゥンの町


 村を出てからの帰り道では安全な道での下山を俺が主張した。往路とは違う道を進み、日が暮れる頃には王都の北東に位置するイドゥンという小さな町に到着した。

 まずは宿に向かい部屋を取り、宿の一階にある食堂へ向かう。丁度飯の時間になっていた為、他の宿泊客の姿も多くあった。

 混み合う中でなんとかテーブルを確保し、出された食事に舌鼓を打っていたら、向かいに座るクリスの表情が一瞬翳った事に気付いた。


「どしたの?何か食べれない物でもあった?」


「……トオルさんは暢気ですね~。いいえ~、周りの話に聞き耳を立てていたんです~。こういった場所で交わされる噂話は~馬鹿にできないものも多く含まれているので~。その中にちょっと気になる話があったんです~」


「ああ。アレだよね。街道に出没する野盗の話。最近流れてきたみたいだけど」


「山の方から来て、山の方に去っていくから何処ぞの山賊じゃニャいかと言われているニャ。……クリスもソイツらは連中の残党だと思うかニャ?」


 ひそひそと交わされる台詞にリオも頷いている。

 え?何それ。スキル【聞き耳】は淑女の嗜みですか?俺なんか目の前の食事に全神経集中してたよ。

 山賊ってのはクルタ村を襲ってきた奴等の残りか?襲ってきた連中は漏れなくリオ達に斬り伏せられたか、捕らわれた後、崖下に投げ棄てられ、物言わぬ骸になっている筈だが。

 ホントこっちの人ってやる事が過激だし、投げ棄てるだけで経験値が入るこの世界の理はマジ鬼畜仕様。村の皆さん一切躊躇しないんだもん。いや、レベルってのが村を防衛するに当たり、どんだけ重要かってのは解るよ。だけどね。年若い娘さんまで一緒になって「重い~」なんて言いながら泣き叫ぶ男を運んでる姿を見た時の気分といったら。こんな世界でも慈しみの心は育めるのですか?

 話が逸れた。

 確か(肉体に)聞いた話では、崖道で何割か脱落してたんだっけ?

 え?つー事は何?一度逃げ出しておいて、それでも行くとこ全然なくて、一稼ぎしつつ健気に頭目達の凱旋を待ってんの?こんな王都の鼻先で?馬鹿なの?死ぬの?


「その残党がここらで暴れ回っているのだとしたら、少々厄介だな。王都近辺は騎士団の管轄だが、いかんせん連中は確実性を重視するあまり初動が遅い。そのくせ、冒険者や傭兵といった戦闘職には余計な真似はするなと牽制を入れてくるから始末が悪い。……もっと詳しく聞くか?」


「いんや。別にいい」


 つまり発言力の強い実力はあるがノロマな騎士サマが幅を利かせているから、他の組織はあまり自由に動けないワケだ。面子が大事なんだろうが、一般の人の本音は「誰でもいいから早く何とかしてくれ」なんだけどなー。


「ならアタシはちょいと駅馬車の様子を聞いてこようかね。明日にも王都行きがあったらそのまま予約してくるよ」


「頼んだ。私達はもう少し情報を集めていよう」


 ふらりと何気なく立ち上がり宿を後にするケイの背を見送ってから、小声で聞いてみる。


「情報を集めるってどうやって?」


「聞き耳を立てたり、その話の輪に入ったり、だな。丁度その話をしている者も居るぞ」


 と、チラリと一瞬後方に視線を飛ばす。って真後ろかい。全然気付かんかった。それとなく聞き耳を立ててみるが、駄目だ。周囲の音まで拾ってしまい上手く聞こえない。何でこんなに混み入った店内で狙う話題を拾い上げる事が出来るのやら。

 お役に立てそうもないのが残念だが、折角の機会だと思い、このまま聞き耳の練習でもしていよう。

 軽く落ち込んだ気配を察したのか、苦笑を浮かべクリスが席を立ち、他のテーブルの話の輪に入っていった。美人さんとお話しできる、とテーブルに居た男達は相好を崩して喜び、問われるままにあれこれ答えている。

 俺の方はといえば、【天賦之才】の効果のお陰か少しずつではあるが聞き取れるようになってきた。漸く狙いを絞り単語をある程度拾えるようになったところで、よし!と気合いを入れ直し背後の会話に集中する。


 既に話題、変わってんじゃん!!


 一気に脱力し、額をテーブルに打ちつける。痛い。


「やっと気付いたニャ」


 ニヤニヤと笑うルーを恨めしげに睨む。くっそー、完全に道化じゃないか。





「ただいま」


 暫くしてケイが帰ってきた。その姿を見て、別のテーブルに居たクリスも戻り、それぞれが得た情報を統合する。結果、色んな事が分かった。

 駅馬車の方はここ数日で何度か被害を受けているそうで現在は運行を見送っているらしい、とか。王都には既に早馬を飛ばし連絡を取り合っており、近々騎士団が派遣されると噂になっている、とか。でもこれはどうも眉唾っぽい。一日でも早く王都方面に行きたい商人が護衛を募っている、だとか。


「因みに~護衛を募っている方は奴隷商人です~。馬車を二台持っているので~乗せてもらう事は可能です~」


 むう、やっぱり居るのか奴隷。人権的に良くないイメージと性的なエロいイメージが同時に湧いてきて反応に困る。邪な考えが顔に出ない事がせめてもの救いだな。……ムッツリスケベ?その通りです。


 その商人が食堂内に居るようなので、話を聞いてみる事になり席を立つ。クリスの案内したテーブルでは、四十代くらいの柔和そうな雰囲気のご主人と、気っ風の良いおかみさんが待っていた。ご夫婦で経営をなさっているらしい。

 クリスに交渉を任せ、一歩下がった場所から様子を窺う。うーん、ルーがピリピリしてんなー。

 ルー達猫妖精族は、その見た目から愛玩用に求める者が多く、中には非合法な手段を用いてくる連中まで居る。元来、好奇心の強い種族である猫妖精族が隠れ里に引き籠る程に、連中の欲には際限がなかったそうな。

 そんな事情をしっているのだろう、夫妻はルーの態度に理解を示し、必要最低限の交流のみに控えてくれた事で、漸くルーの機嫌は持ち直した。



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