外伝
(畜生、畜生、畜生が!何をやってもうまくいかねえ!何なんだ、一体!?それもこれも俺の命令一つ碌にこなせない不甲斐ない手下共が悪い。あのボンクラ共が俺の足を引っ張ってやがんだ。あの役立たず共がぁ!)
周囲を武装した村人に囲まれ、山賊の頭目ことバカスは内心で毒づいていた。
切っ掛けは酒宴を開いている時だった。ここのところ実入りの良いシゴトが立て続きに続き、少々気が大きくなっていた。攫ってきた女達に酌をさせながら次のシゴトの獲物を好き勝手に並べ立てていたら、部下の一人がとある村の名前を出した。
「王都北部にある山ん中に小っせえ村があるんですがね、どうやらそこで作られた品にゃ貴族のファンがついているって話でさぁ。村への道は険しいせいか碌に兵も置けないとかで。どうです?馬車を狙うより、いっちょ村そのものを狙うってのは?……へぇ、クルタ村といいやす」
悪くない案だとその時は思った。馬車を襲うのは当たり外れがある。金持ちや商隊の馬車は一目見れば分かるが護衛が厄介。なので専ら駅馬車を狙うが、客の質により稼ぎにばらつきが出てしまうのが難点だった。
その点、村ならば家々に蓄えがあるだろうし、女が確実に居る。貴族のファンがついているなら闇ルートでも欲しがる奴は確実に居るだろう。
バカスは唇の端が吊り上がるのが止められなかった。
(それなのに兵を置いてないだと?どんなマヌケな状況だ?狙って下さいと言ってるようなもんじゃねえか。王都に近いからと安心してるんだろうが、山は俺らのテリトリーだ。のろまな騎士サマが来る前に、いや、来たとしても一当てして逃げる位は余裕だろうよ)
部下達も同じ意見なんだろう。皆が皆、ニヤニヤとほくそ笑んでいる。
「ようし。じゃあ次の獲物はそれにするか。村の場所やその人気の品ってのは何か、分かってんのか?」
「村への道はイドゥンからほぼ一本道なんで迷う事はないそうで。あと裏道があるとか言ってました。そっちは地元の人間くらいしか使わねえような道らしいですが。品物については聞いてません。今からちょいと調べてきやしょうか?」
「いや。狙うおたからが何か分からねえってのも面白え。あれこれ想像すんのも楽しいじゃねえか」
「それに貴族のファンがいるんだろ?なら、そいつはきっと豪華なもんだろうから見りゃあ判るさ」
「じゃあ賭けるか?当てた奴から捕らえた女を選べるとか」
「そいつはいいな!」
下卑た笑い声をあげながら盛り上がる馬鹿共を見渡してバカスが声を張り上げる。
「それじゃあ次の獲物は、クルタ村だ!野郎共、励めよ!」
「「「応!」」」
(そう。宴の時までは良かったんだ。なのに、誰だ?裏道から登ろうなんて言い出した馬鹿は!……畜生、頭に靄が掛かってるみてえだ。考えがちっとも定まらねえ)
登れども登れども辿り着かない村に、昼あたりからブツブツ文句を言っていた連中も、いつの間にやら声を出す気力も根刮ぎ奪われた。そんな終わりの見えない行進に誰しもが辟易してる中、目の前に広がった断崖絶壁にポッキリと心を折られる者まで出る始末。
(あんなものは道じゃねえ。あんなものを道扱いする地元の連中はイカれてる。渡れずに残った腰抜け共や落っこちた間抜け共も、情けねえっちゃ情けねえが、何より情けねえのは村の目と鼻の先で、へばって動けなくなった根性なし共だ)
体力の限界に達したのだろう、まず一人が足元に崩れ落ちた。それを皮切りにバタバタと座り込む者が続出した。既に意地だけで足を動かしていたようなもので、一度足を止めてしまえば、バカスや高レベルの幹部陣がどんなに怒鳴り散らしても、もはや動けなかった。
ここでバカス達も休憩を挟めば良かったかもしれないが、既に正常な判断が下せなくなっていたバカスは足を止めたら動けなくなるのを何より怖れ、今残っているメンバーでの強襲に踏み切った。
(村に辿り着くまでに半数以上が脱落とか冗談じゃねえぞ!ここまで来て手ぶらじゃ帰れねえ。小娘一人じゃ割に合わねえ。……ああ、頭が回らねえ。俺は何を奪いに来たんだっけか?)
奪いにきた立場の筈なのに、何故か自分が追い込まれている。
(くそっ!どいつもこいつも生意気な面しやがって!クソ生意気に抵抗しやがって!襲われた立場ならそれらしく固まって震えるか逃げ回りやがれ!)
これはバカスが今まで襲っていたのが馬車ばかりだったから陥る考えだ。
出先で賊に襲われた場合ならどうにかやり過ごそうとするだろうが、自分達の生活が懸かってくるなら、死に物狂いで抵抗するのが当然だ。
そんな村人達の必死の抵抗に遭い、腕に抱え込んだ村娘を盾にしているこの状況まで追い込まれた。その事実はバカスを酷く苛つかせた。
(ふざけやがって!ふざけやがって!今に見てろ。村の近くにゃまだ転がってる連中がいるんだ。アイツらを引き連れて今度は根絶やし奪ってやる!)
一旦仕切り直しだと自分に言い聞かせ、村人共へ向き直る。
「どけよ。この嬢ちゃんに余計な怪我をさせたくなけりゃな」
ジロリと周囲を睨み付け、道を譲れと威嚇する。
村人達は捕まった娘を思い、葛藤や躊躇を滲ませながらも、緩やかに、しかし少しずつ道を開いていく。
(忌々しい連中だ!さっさと道を譲りやがれってんだ!)
ジリジリと包囲を抜け出そうとした矢先、視界の端で呆けたように立っていた黒髪の男が激昂して殴りかかってきた。
「……っぁああ!!」
咄嗟に斧を振るったが、疲れの為か動きは鈍く、斧ではなく腕に当たった。男はそのまま建物の中に吹っ飛ばされていく。
「この野郎!人質がどうなっても……ガアッ!?」
倒れた男を睨み付けようとした瞬間、村娘を抱えた腕に鋭い痛みが走り、娘を落としてしまう。腕を斬りつけたのは黒い猫妖精族。身のこなしからして高レベルである事が窺える。それに阻まれ、バカスの拘束から抜け出せた少女は脱兎の如く逃げ出してしまった。
痛む左腕を押さえながら吠えたてる。
「ふ、ふざけやがってえ!」
(コイツ、冒険者か!?なんでこんな辺鄙なトコにこんな高レベルの奴が出てくるんだよ、畜生が!)
「ふざけてんのはてめえだ、屑が。……【自由自在】」
先に吹っ飛ばした男が魔術を発動させる。一般人なら一つでも当たれば致命的な瓦礫の塊が、その数、十を越えて宙に浮く。
(な、何なんだよ、コイツ。まるで親の仇を見るような目ェしやがって。それにこりゃあ魔術……なのか?し、知らねえ、こんな魔術は見たことも聞いたこともねえぞ!?コイツ、ただの村人じゃねえのか?)
「ひ、ひいぃっ!?何なんだ手前ェ!?や、やめ……」
『死にさらせ、カス』
聞いたこともない言語を耳にしたが最後、一斉に殺到してきた瓦礫に、バカスの意識は刈られ、闇に呑まれた。




