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エレメント皇国物語  作者: rurata
第三章:平穏の終わり
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エピローグ

「そうか、では件の者は死んだというのだな。」


「は、はい、その通りでございます。」


場所はミスト王国の王都ラグナ・セイラにある王宮の玉座の間。


モエラは今王に直々、異邦人とそれを保護していた母娘を捕まえる任務の報告をしている。しかし始めこそはネビアによる秘密の任務だったが、それが確証され三人が逃げたのでこれは王国、ひいては皇国の問題になった。


そのためにモエラは動けるようになるまで回復した後、王都に呼ばれ、こうして王の御前で詳細の報告をしている。


「私がかの者を追いつめ、捕らえる寸前に見た事もないような凶暴な魔物が現れ、二人を強烈なブレスで吹き飛ばしたのです。私は運良く離れていたからこそ助かりました。魔物の攻撃によって気を失いましたが、あれほどの魔物から逃げるのは無理でしょう。私と一緒に二人が見つからなかったと言うのでしたら、二人は間違いなく殺されたのでしょう。」


玉座に座る王は怪訝そうな顔でモエラの話を聞いている。それもそうだろう。モエラの話に出て来るような魔物がそうそう現れるはずがない。それも国境近くで人里から少し離れているとは言え、人の通りが少なくない場所でだ。モエラの話がかろうじて信じられている理由は魔物の他にあの惨状の説明が出来ないからだ。火のエレメント魔法ならば似たようなことができるが、二人のどちらも水の使い手と確認されている。


モエラが王宮まで呼ばれたのは王が彼の口から直接話を聞きたかったからだ。人を見抜くことに自信を持っている王は彼の顔を見れば嘘かどうか分かると考えていた。そして実際に会ってみてどう思ったのかと問われれば、はっきりと分からないと答えるしかない。モエラから伺えるのは彼が確かに恐れを感じていたことくらいだ。ならばどうするかが問題だが、それについて王はもう結論に至っていた。


「分かった。御苦労だったな。貴殿は王都への転属を願っていたのだったな。そうなるよう、計らおう。」


「はっ! 光栄です!」


もう用は済んだとでも言うように王は話を切り上げ、部屋の隅で待機していた人に合図を送ってモエラを退室させる。その指示に従い、モエラは一度王に向かって深く頭を下げながら部屋を出る。そして残るのは玉座に座り、うーむ、と低い声で唸って今後の事について考える王。


王の出した決断とはモエラの報告をそのまま受け入れ、モエラを王都に転属させて満足させることで事件を隠蔽する事だった。


その理由は二通りである。一つは件の者が報告通りに死んだのならば、この事件はそれで終わりだからだ。反対に二人とも生きていてもそれはそれで問題はない。水の魔法使いで報告にあった惨状を作り出したのなら興味はあるし脅威になるかもしれない。だが、報告では彼らはゼファーとの国境を目指していた。それなら、もう大分時間が経った今ではすでにこの国にはいないだろう。だったらこれはもうゼファーの問題であり、ミストが気にすることではない。最低限の義務として事件のあらましは皇都に報告はするが、生存の可能性は除外するだろう。そろそろ始まる次期皇帝の選出のこともある。ここ数百年、ダンスト家から皇帝を出していない。この王は今度こそそうしたいと思っている。だから、わざわざミストの失敗を全皇国に報せ、国の立場を悪くする事はない。


これで後に残る問題は事の発端である第二王子ネビアの処遇だけだ。王がネビアの訴えに取り合わなかったから裏で色々と取引をして件の少年を嵌めようとしていたのを事件が終わった後で分かった。結果としてはネビアの疑いは本当だったが、問題は謀略の隠蔽が粗かったことだ。しかし、全てが悪い訳じゃない。


あの馬鹿息子がこれほどのイニシアチブを見せたことは少々予想外だった。毎日王宮で飛び交う権謀術数に比べれば児戯に等しい物だが、それでも名前だけで付け上がり、調子に乗っていた以前よりましである。前のときも、別にネビアの嫌っていた相手が無実だから捕らえる事に反対した訳ではない。多少の面倒事があっても、王家の力を使えば一人の庶民を消すのは無理ではない。ネビアの要求を拒否すれば彼がどう反応するのか見てみたかったのだ。能力はどうであれ、ネビアは王位継承者第二位であるのに変わらない。第一継承者のもう一人の息子は心配ない。王としての才能があるし、政治の経験もある。だが、彼が次期皇帝に選ばれるとネビアの継承順位が繰り上がってネビアが次の王になる。ただの馬鹿息子のままでは貴族どもの傀儡に成り下がってしまう。それだけは避けなければいけない。継承順位はあくまで暫定であり、これからの事次第で変わるかもしれない。そうなれば次の継承者は弟の第一子。血筋だけはダンストだが、自分の子じゃないのには変わらない。しかし、その時にはもう一人の息子は皇帝になっているので諦めがつく。大事なのはダンスト家の者が王位にあることだ。それからネビアの処遇だが、王は今回のことはあの報告とともに握り潰すことにした。同時に、これから先にもあんな下手な策を実行させない為にももっと勉強させないといけない。


モエラが退室してからの十数分後、王の頭の中にはすでに自分の家の事しかなく、異邦人のことなど微塵もなかった。後になって、皇都への報告書の承認の印を押した時にふとこの出来事を思い出したくらいで、全くと言っていいほど重大視していなかった。数年後、この判断を死ぬほど後悔するようになるとはこの時には夢にも思っていなかったが。



** *



時は遡り、クウリ達がモエラから逃げて国境近くで事前に決めていた合流場所でアクィフォーレが来るのを待っていた。目印として関所を使っていて、関所から南に二キロほど離れた場所で隠れている。周辺は森の木に囲まれていて、上から太陽の光を辛うじて通しているくらいだ。


「エリお姉ちゃん、お母さん遅いね・・・」


「ええ・・・でもきっと来るわ。約束したもの。」


自分でそう言っていてもアクエリは自身の不安を拭えない。


二人がこの場所についてからすでに半日以上経っているのにアクィフォーレが現れる兆しが見られない。アクィフォーレが無事ならもう着いていてもおかしくはない。そのことをクウリとアクエリもよく分かっているからこそ二人はもう僅かな希望に縋ることでしか平静を保っていられない。


そうして二人は一言も喋らず、じっとアクィフォーレを待ち続けた。三十分が過ぎ、それが一時間になる。それもまた数時間に変わり夜が訪れ、ついには夜も明けてしまった。


早朝の靄の中、クウリとアクエリは寄り添いながら朝を迎えた。周りには起き出してきた鳥のさえずりが聞こえ始めていて、木々の隙間から朝日の光が漏れている。


「エリお姉ちゃん、朝だよ。」


「そうね・・・それじゃあ、そろそろ行きましょうか。」


「えっ?!」


アクエリの言葉を聞いてクウリは一瞬耳を疑ってしまった。


今何を言われた?


まさかアクィフォーレを置いていくと言ったのか?


「エリお姉ちゃん?!」


「どうしたの、クウリ? もたもたしてると置いていくわよ?」


「でも、エリお姉ちゃん、お母さんが! もう少し待ったら来るかもしれないのに!」


「来るかもしれない。でも来ないかもしれない。けれど、これ以上待てば今度こそ私達が捕まるかもしれない。そして一カ所に留まる時間が長ければ長いほどその危険は増す。お母さんが来ていなくても、私達はもう行くべきなのよ。」


「でも、それじゃあ俺たちがお母さんを助けた意味が・・・!」


アクィフォーレを助けるためにここまで来たのだろう? 今更諦めるなんてクウリにはできない。アクエリも同じ気持ちだと思っていたから、クウリはどこか裏切られたかのように感じた。それはアクエリが何でもないように言ったからもあるだろう。


違うと分かっていてもクウリは思わずアクエリがアクィフォーレの事を何とも思っていないかと考えた。


実際には、アクエリのそれはただの強がりと空元気で、普段のクウリならば簡単に分かるものの、今のクウリはとても正常とは言えず、それを見抜けなかった。


「前とは状況が違うわ。お母さんがまた捕まったなら、もう王都の監獄に連れて行かれたでしょう。護送とその護衛数名を奇襲で襲うのとは違うわ。」


「でも俺の魔法があれば!」


ニトロを作るクウリならば独房の壁を壊せるし、ウォーターカッターなら格子を切れるだろう。


「それでどうやって逃げるの? 王都からはどの国境も懸け離れているわ。それに王都の監獄から逃げ出せば軍まで出てくるでしょう。私達が一度お母さんを助けた事で向こうも警戒しているだろうし。それから逃げ切れると思うほど愚かじゃないわ。」


「エリお姉ちゃんはそれでいいのか?!」


「そんな訳ないでしょう!!!」


「うっ・・・」


アクエリの態度に焦りを感じ、クウリは思ってもいないことを言ってアクエリがついに切れた。


「私だってお母さんのことが心配よ! まだここにいないってことは、お母さんは捕まったか、怪我をしているか、もしくはもう・・・」


どちらもが見たくない現実をアクエリがクウリに突きつける。


見たくはなくともそれは事実であり、二人がアクィフォーレと会う事が二度と無いのを受け入れないといけない。じゃないと今度こそ二人も捕まってしまう。それだけはあってはならないことだ。


しかし、アクエリはできればいいたくなかったのだろう。彼女の顔を見たクウリにはそれが分かった。アクエリの顔はその言葉の辛さに歪んでおり、クウリはアクエリにそれを言わせてしまったことを後悔した。


「ごめん、エリお姉ちゃん、言い過ぎた。」


「もういいわ・・・とにかく行きましょう。」


「うん・・・」


「国境を越えたら近くの街でお母さんを待ちましょう。他国なら追手の目も少ないし、お母さんが無事ならそこに行くわ。」


「そうだね、行こう、エリお姉ちゃん。」


話が終わると二人は立ち上がり、剣や杖という持ち物を拾った。そしてそれが終わり、二人が出発しようとするとき、アクエリは真剣な顔でクウリに話しかけた。


「クウリ、これからはお互いだけが頼りよ。きっと辛い事がいっぱいあるし、今までのような生活も出来ないでしょう。でも、これだけは約束しましょう。」


「やくそく?」


「ええ。何があっても、二人だけはずっと家族で味方であると。それだけは約束して、お願いよ。」


アクエリは母ともう会えないかもしれないという不安に押しつぶされそうになっていてクウリとの絆を確認したくなったのだろう。


だから、これは儀式の一種だ。


二人がただの家族、ただの姉弟からお互いに恋人とはまた違う唯一の存在になる儀式。


アクエリがそれを言い終わってから数秒、クウリは目を瞑り一度深呼吸をしてから目を開けてアクエリに答える。


「うん、約束するよ、エリお姉ちゃん。俺とエリお姉ちゃんはずっと家族だ。」


「ありがとう、クウリ。」


「当たり前のことだよ。」


「ふふ、そうね。今更言わなくてもよかったわね。さ、それじゃあ行きましょう。一刻でも早く国境を越えたいわ。」


アクィフォーレのことが悲しいのは変わらないが、二人ならばなんとかやっていけるだろうという気持ちになっている。


未来が何をもたらすかは分からないけど、少しだけ希望が出始めているのは確かだ。


「でも、早くするのはいいけど、ちゃんと気を引き締めないとだめよ? まだまだ安全じゃないわ。」


「うん、分かってる。絶対に無事に逃げ切ろう!」


「ええ。」


短い言葉でアクエリは話を終わりにし、クウリと一緒に昇る太陽の方向へと歩き出した。


水の国編はとりあえずこれで完結です。

続きは簡単なプロットだけはあるのですが、いつ書けるかは分かりません。今はもう一つの小説「オリ主の・・・」を完結まで持って行ってからでないと続きは書かないだろうだけは分かってます。

それでは、最後まで読んでくださって本当にありがとうございました。

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