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無能聖女の失敗ポーション  作者: 矢口愛留
第六部 黄金色の夜明け編

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124. エピローグ


 バタバタと忙しい日々が続いたが、私とギル様の結婚式は予定通りの日程で開かれることとなった。

 なんと、本格的に雪が降る前のことである。聞けば、冬には魔物への備えが必要で忙しくなるから、その前にという理由らしい。


 それなら春を待っても良いのではないかと思ったのだが、ギル様はどれだけ忙しくても結婚式の日取りだけは頑として変更しようとしなかった。

 目が回るような日々の中で準備に奔走し、私たちはなんとかこの日を迎えることができた。


 会場は、フォレ領の最大都市、中央の街(セントラルシティ)の庭園。ギル様とデートで行った、公爵家所有のあの庭園である。

 フォレ城は無骨なところだからということで、ギル様が手配してくれたのだ。

 それに、フォレ城はただでさえ色々と忙しい状況で人員を割く余裕はないし、中央の街(セントラルシティ)の雇用機会創出やら経済効果ももたらすということで、外注するのは一石二鳥だか何鳥だかになるのだそうだ。


 雪はまだ降らないとはいえ、初冬に外で結婚式なんて寒いのではと思ったが、ギル様は空を飛んだときと同じ風の魔法で、私たちのいる空間を快適な温度に保ってくれるという。なんというか、至れり尽くせりである。



 式当日は、よく晴れた、空が綺麗な日だった。

 空気は澄み、冬に咲く花たちと緑と大地のコントラストが青に映える。


 純白のウエディングドレスを着た私のヴェールを下ろしてくれたのは、ジェーンだ。


 私が無能聖女として神殿から追い出されたその日から、無知で世間知らずな私の世話を焼いてくれた。

 私にとってはそばにいるだけで安心する、祖母のような人。

 その優しい茶色の瞳には、たしかに薄く膜が張っていた。

 ジェーンも、もしかしたら私に対して、同じように親しみを感じてくれているのかもしれない――そう思ったら、なんだか私もぐっときて目頭が熱くなってしまった。


 ギル様のところまで、私をエスコートしてくれるのは、ウォード。


 フォレ城までの護衛としてタンク職の冒険者を探していたのが、彼と出会ったきっかけである。

 いつも寡黙で巌のような表情を崩さないが、とてつもなく真面目で、頼りになる護衛。

 彼が実は私の叔父だったことを知ったのは、つい最近のことだ。


 庭園の石畳に敷かれたヴァージンロードを、ゆっくりと歩いてゆく。


 招待客の中に、アンディとリアの姿を見つけた。私と目が合うと、リアは小さく手を振り、アンディはニカッと笑う。


 私にとって、初めてできた友人たちだ。


 持ち前の明るさと世話焼きな性格で、私をいつも楽しい気持ちにしてくれたアンディ。

 護衛任務についてくれてから、ずっと私と行動を共にしてくれた、誰よりも強くて真っ直ぐなリア。

 二人とも、私が持っていない輝くものを持っている、自慢の友人たちである。


 ヴァージンロードの先には、白いタキシードに身を包んだギル様が待っていた。


 穏やかな笑みを浮かべて私を迎える彼は、この世の誰よりも愛しいひと。

 彼にとっての唯一の番が私だったというけれど、私にとっても、彼は最初からずっと特別で、唯一だった。

 優しさと強さを併せ持ち、常に私や領民や仲間たちのことを気に掛け、自分が苦労するのも努力をするのも厭わないひと。


「――ティーナ」


 黄金色の瞳は陽光を浴びてきらめき、艶のある紺色の髪は風でやわらかく靡く。

 端正なかんばせには幸せの色をのせ、甘い微笑みを惜しげもなく浮かべ、私へ真っ直ぐに手を差し出していた。


 力、地位、頭脳に容貌。

 全てにおいて恵まれた立場にありながら、大きな秘密を抱え、誰よりも孤独だった彼。


 けれど、今はもう、一人ではない。

 これからは、私がそばで彼を支えてあげられる。


「ギル様」


 私は彼の名を呼んで、その手をとった。

 黄金色の瞳が、さらに蕩けるように甘さを増す。


 神父役を買って出てくれたシニストラ卿が、おほんと小さく咳払いをした。

 シニストラ卿に促されて、私とギル様は誓いの言葉を交わし合う。


 私が軽く頭を下げると、ギル様が私のヴェールをそっと上げる。

 そのまま口づけを交わすと、招待客から割れんばかりの拍手が鳴り響く。


「ティーナ、必ず幸せにするよ」

「ふふ、もう幸せですよ?」

「いいや、まだまだ、もっとだ」


 皆が見守る中で、私とギル様は微笑みあう。


「私も、ギル様のこと、もっともっと幸せにします」

「――ああ。二人で、世界中の誰よりも幸せになろう」

「はい!」


 予告なく再び降ってきた口づけに、招待客は再び拍手をしている。

 幸せに満ちた会場は、本来の季節も忘れてしまうほどあたたかくて、まるで常春のように思えたのだった。





 そして、フォレ城に戻ってから一夜明けて――。


「水は巡る、愛も巡る、命も巡る――」


 夫婦の部屋に備え付けられたミニキッチンで琥珀珈琲(アンバーコーヒー)を用意しながら、私は何度も歌ったあの歌を、小さく口ずさむ。


「――とこしえに巡る」

「おはよう、ティーナ」

「あ、おはようございます、ギル様」


 ちょうど琥珀珈琲(アンバーコーヒー)を作り終えたタイミングで、ギル様が起きてきたようだ。

 寝起きであっても国宝級に麗しいお顔には、やわらかな笑みが浮かんでいる。


 ギル様は、私が琥珀珈琲(アンバーコーヒー)をテーブルに置いたところを見計らって、長い指を私の頬にすっと伸ばした。

 そのまま形良い唇を耳元に近づけ、囁く。


「それより、敬語なしで話してはくれないのか? ――昨夜のように」

「あっ、その、あれは、だって」


 凶悪なほどの色気を孕んだ吐息交じりの一言に、私は昨夜のことを思い出して、一気に顔が熱くなる。


「――ふ。君の初心(うぶ)な反応も好ましいから、ゆっくりで構わないよ。これから、時間はたっぷりあるのだから」


 ギル様はやさしく微笑んで、私の頬にそっと口づけをする。


「とこしえに巡る、か。君と私は、何度巡っても、きっとまた巡り会い、惹かれ合うのだろうな」

「私も、同じこと思ってました。次の生でも、私はきっとあなたに恋をするんだろうな、って」


 私とギル様の視線が重なる。

 甘い熱の余韻が、じくじくと痛いほどに胸を高鳴らせてゆく。

 ギル様は、私をぎゅう、とその腕の中に閉じ込めた。


「……蜜月休暇をとろうか」

「だ、駄目ですっ! まだ色々片が付いていないでしょう?」

「それはそうなのだが……」


 冬の魔物への備えもそうだし、私には筆頭聖女関連の引き継ぎや業務の整理もまだまだたくさんある。

 それに、ギル様の方も、誘拐事件の犯人たちの取り調べは終わったものの、爆発事故との関連性の調査と検証が思うように進んでいないらしい。

 何やら、魔石に瘴気を込めて魔物を召喚したとかなんとか……とにかく、ギル様も知らない技術が使われていて、マクファーソン侯爵家の元執事グレイと、他領や他国との関連まで調べることになってしまったそうだ。


「もう少しティーナと一緒にいたい……ああ、もう、君が可愛すぎるのが悪い」

「ええっ!?」

「というわけだから、今夜も頼むよ、私の可愛い奥さん?」

「は、はい……」


 顔を赤らめる私に満足したのか、ギル様はようやく私を解放し、ソファーに座って琥珀珈琲(アンバーコーヒー)のカップを手に取った。

 白い湯気がほわほわと立ちのぼり、部屋を良い香りで満たしてゆく。


「ああ、そうだ。私たち宛てに、珍しい手紙が届いていたぞ」

「珍しいお手紙……ですか?」

「ああ。これだ。差出人の名に覚えはあるか?」


 そう言ってギル様が取り出したのは、神殿の印章が押された、ごく普通の手紙だった。

 差出人は――、


「あれ? これ、あの日私に出て行くようにと言った神官様のお名前です」

「そうか。――不思議な御仁だな」


 ギル様の言葉に、私は首を傾げながらも、差し出された手紙に目を通す。


「不死鳥の愛し子よ、幸せを祈る。我が愛し子と、番同士末永く――え、どうして……?」


 書かれていた文言に、私が目を丸くしたのと同時。


「あ……手紙が……」


 私もギル様も読み終えたからだろうか、手紙は黄金色の光の粒となって、さらさらと端から崩れて消えていった。

 黄金色の光が、窓から差し込む夜明けの光と混じり合って煌めき、幻想的な光景を織りなす。


「まさに、君の言っていた通り、女神の導きがあったということかもしれないな」


 伝承では女神様と伝わっているが、例の神官様は中性的な容貌の男性だったと記憶している。

 いつから神殿にいたのかも覚えていないが、私を拾ってくれた老神官様と同じく、本当に困ったときにはさりげなく助けてくれていたような気もする。

 けれど、神様にとってみれば、自分の姿を変えることなど造作もないだろう。それこそ、神殿は地上における神様の住まいなのだから。


「見守ってくださっていたのですね、ずっと」


 黄金色の光は、それに応えるように、ひときわ強く輝きを放って空へと消えていったのだった。


「さて……本当にそろそろ行かないと、ルーカスに怒られてしまうな」

「ふふ、そうですね。私も、冬に備えてポーションをたくさん作っておかないと」


 私たちは、微笑みを交わし合った。

 無能聖女だった私が、今はたくさんの人に必要とされて、そして世界で一番愛おしいひとに愛されている。


 神殿を出たその日は、こんな幸せが待っているだなんて、全く思わなかった。

 人を愛する幸せが、人に必要とされる喜びが、こんなにも心を満たすものだなんて知らなかった。


「閣下、奥様、お寛ぎのところ申し訳ございません」


 扉の外から、シニストラ卿の声が聞こえてくる。

 噂をすれば何とやらだ。


「どうした」

「王宮から急使の方がお見えです。アンブロジオ王国の王族とおっしゃる方から、国王陛下、及び閣下と奥様へ拝謁の申し入れがあったとか」

「――そうか、わかった。すぐ行く。ティーナ」

「はい。行きましょう!」


 私とギル様は、顔を見合わせ頷き合う。

 凛とした表情で前を向くギル様の後に続いて、私も部屋を出た。


 私たちの人生は、旅は、まだまだこれからも続く。

 けれど出来るならば、その旅は前を歩く愛おしい人と共に歩みたい。

 私が輝ける場所を与えてくれた、この人と共に――。




 【完】





 最後までお読みくださり、ありがとうございました!

 これにて、「無能聖女の失敗ポーション」本編完結となります。

 今後は気が向いたら番外編や続編も書けたらなあとぼんやり考えております( *´艸`)


 連載中、じわじわと増えていくご評価とブックマーク、そしてリアクションに物凄く励まされました。

 皆様にあたたかく見守っていただいたおかげで、なんとか完結まで書き切ることができました!

 本当に本当にありがとうございました♪


 それでは、名残惜しいですが、失礼いたします。

 改めまして、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
完結おめでとうございます! 楽しまさせていただきました。 これからも活動頑張って下さい!
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