『第一回帰』
土の焦げた匂いがした。既に視界は霞み、地に着いた手は震えていた。
近くに転がっていた銀の剣を手に取り、なんとか立ち上がる。
腹部を押さえると、裂けた革衣の下から血が滲み、塞いだ指の間を伝って落ちた。
上げたはずの脚は鉛のように重く、前に進んでいるのかさえよく分からなかった。歩くことすら、ままならなかった。
その場所には、自分以外の息遣いは聞こえなかった。
かつて帝国の兵士だった複数の残骸。鱗の皮膚を持った人外の女であったもの。
どれもどす黒く染まり、焦げた肉片と化していた。
人外の女の様子を観察した。首は胴から切り離されていた。それは、近くに転がり、石塊のように微動だにしなかった。
魔力は感じない。勝手に身体の修復が始まる様子もない。完全に息絶えている。
ため息が出た。安堵なのか、諦めなのか、よくわからなかった。
そして、その中で探した。彼女の姿を。
少し前の記憶を頼りに、周囲を彷徨った。足元の輪郭が揺れ、何度も歩みを止めた。
——次第に狭くなっていく視界の中で、見つけた。
先ほど起き上がった場所から二十歩程。こんなに近くに、居た。
まるで、眠っているかのようだった。
彼女の傍らに膝をつき、握っていた銀の剣を地面に置いた。
しかし、上半身を支えきれず、思いのほか体勢が崩れる。
震える腕を支えにし、彼女の横顔を近くで見た。
——不思議だった。
鉄鎧を纏った兵士は焼けた肉と化しているというのに、彼女は最初に出会った姿のままだった。
白金の髪。白い肌。降り注ぐ光を閉じ込めたかのように神聖であり、まるで天上の存在のようだと思った。
ただ、息遣いは感じない。以前感じていた僅かな魔力も、今は感じ取れなかった。
彼女の首筋へ指先を当てたものの、震えがひどく、脈があるのかさえ確かめられない。何度か指の位置を変えてみたが、結果は同じだった。
やがて、彼女の背中と膝の下へ両腕を差し入れ、ゆっくりと抱き起こした。
軽い身体は抵抗なく胸元に収まり、力なく傾いた頭を支えるため、残された力を腕に込めた。
「——、——。」
息を吐くが言葉にならない。鉄のような味が舌を痺れさせ、生温かいものが口元から溢れた。
自分の身体の下へ視線を落とした。鮮烈な赤が広がっていた。
痛みは無い。既に死が始まっているらしい。
息を吐くと、身体の力が抜けた。地面の冷たさも、もはや感じない。
それでも腕の中の少女を離すことはなく、僅かに動く指先で、その小さな身体を感じ取った。
すると、声が聞こえた。自分の足音や衣擦れさえも、いつの間にか聞こえていなかったことに気づいた。
その言葉だけがはっきりと届いた。
「——まだ、眠るな。シエン」
……このままでは終われない。終わるつもりもない。
「君のやるべきことは、まだ残っている」
——言われなくても、わかっている。
深くなっていく暗闇の中で、静かに目を閉じた。




