さんざん噺
父と子の話をします。
好きです、落語。寄席に行ったことはないけど。日曜朝のラジオ『サンデーフリッカーズ』で落語ショートオンショートを聞くぐらいだけど。
最近、その「けど」の中に「アニメ『あかね噺』を見るくらいだけど」が加わった。先日、最終回を迎えたけれども。女の子が主人公で、能力バトルをしない漫画が週刊少年ジャンプで大ヒットなんてオジサンびっくりだよ。
ところでうちの父もそれなりに落語が好きなのだが、たぶん『あかね噺』は見ないだろうなあと思っていた。女の子が主人公なのが嫌とかそういうことではなく、もっと別のところに問題があった。
主題歌担当が桑田佳祐氏だという点である。
うちの父と桑田氏との因縁については、ずっと前に、父の口から聞いたきりである。
かつてサザンオールスターズが山形でライブを開催した際、客の入りが想定を下回ってよろしくなかったらしい。そのことについて、桑田氏がMCで「貧乏、貧乏山形」という、山形県民は金がないからチケットを買えなかった旨の発言をしたのだという。父はそれが許せなくて、サザンオールスターズが関わるコンテンツは避けているのだと語った。
それを聞いた私は、子どもながらに「お、大人げねえ!!」と思った。
だいたいそれが年端もいかない子どもに、誇張したモノマネでTSUNAMIのサビを歌いたい盛りの子どもにする話か。憎しみの連鎖を後世に繋げようとするんじゃあないッ。
というか、私はこの話、眉唾だと思っている。父はライブに行くような趣味を持っていないし、「貧乏、貧乏山形」の件は人づてに聞いたものだと思われる。知らない人の話を真に受けて感情を拗らせるのは今も昔もそう変わらないだろう。
まあでも、「桑田さんはそんなこと言わない」と思っているわけでもない。
だって言いそうだもん「貧乏、貧乏山形」くらい。
「マンPのGスポット」が言えるんだもん、言うよ「貧乏、貧乏山形」くらい。
私がこの話の信憑性を疑っているのは、そもそもサザンオールスターズって山形に来るもんなのか、という点においてだ。全国ツアーをするときも、だいたいのアーティストがそうであるように宮城は仙台止まりで「東北を制覇!」ということにしていたと思うし。
だから、山形に来ていない以上「貧乏、貧乏山形」と言う機会はないし、来てもいないのに「貧乏、貧乏山形」と言ったならそれはもうただ性格が悪いだけで別問題なので、私としては父と桑田氏の因縁は、単純に誤解であると思っている。
かといって、それを改めて父に説くつもりはない。
だって「俺は一生許さなかったぞ」と言って死んでいくのってめちゃくちゃ「粋」じゃないですか。
そういった事情があり、私は録画しておいた『あかね噺』第一話を視聴したあとさっさと消去したのだが、次の日、父に「お前『あかね噺』一話消したんか!?」と祠を壊した勢いで詰められてしまった。見るつもりだったんかい。でも桑田佳祐だぞ、と言ったら「それがどうした」ときょとん顔。私に因縁を押し付けておいて……。
やはり負の連鎖は断ち切らねばならぬ。私は父に「桑田佳祐は『貧乏、貧乏山形』なんて言ってないんだよ!」とわからせるために、裏付け調査を開始した。
とはいえ、サザンって山形でライブしたことある?なんて誰に聞いたらわかるのか。したことがないならそれは悪魔の証明であり膨大な時間が――かからなかった。「サザンオールスターズ 山形」で検索したら、LiveFansなるライブ・セットリスト情報サービスサイトに辿り着いた。どうも1979年にデビューコンサートをやっていて、その中の会場に山形もあるようだ。まさか、こんな簡単にマンPのGスポットを探り当ててしまうとは。
しかし……デビューかあ。そりゃ人は入らないだろうな。ライブ会場も仙台が無い(逆に、仙台を埋めるのは無理でも山形なら、ということでこっちにしたのかもしれない)し。ライブレビューでもそのように書かれているし。
私はライブに行く趣味はないが、ライブのMCが「お前らそんなもんか!?」と客を挑発してボルテージを上げるテクニックがあることは知っている。なんていうか、ライブする人たちは「客に呑まれるな!」を信条にやっているらしく、それは裏を返せば呑まれそうな勢いが客側にないと調子が出ないということなのかもしれない。その真偽はともあれ、ノリが悪かったり合いの手の声が小さかったりすると行われるようだが、会場にあまり人が入っていない状況はそれに合致すると思われる。と、いうことは。
あー……ね。
これ言ってるな。「貧乏、貧乏山形」言ってるわ。
むしろ言わない理由がないもんな「貧乏、貧乏山形」って。
うっかり『あかね噺』の録画を消したばっかりにこんなことに……。
私はこれから、なんやかんやで桑田佳祐氏に対面した際は、父に代わって、
「どうして『貧乏、貧乏山形』なんて言ったんですか」
と、問いただす役割まで背負わされてしまったのだろうか。マジで祠を壊して呪われた気分だ。
まったく、サんザンな噺である。オアトガヨロシイヨウデ……。




