276 癖の強い新入生
お読みいただきありがとうございます。
「すみません。遅れました」
「お待たせしました」
そう言って、ヨスクとフリッドが急いで生徒会室に来てくれた。
「弟さんは大丈夫でしたか?」
「はい。大丈夫です」
ヨスクとフリッドにも空いている席に座ってもらい、私は企画の話をした。
各国の文化や特性を理解するために三学年合同でそれぞれの国ごとに生徒が協力して資料をまとめて発表するという企画について説明すると、生徒会メンバーは賛成してくれた。
そして、開催時期や魔法の講義との折り合いの付け方、学年ごとではなく各国ごととなるとどこで相談や作業をしてもらうか、発表の仕方や来賓客は招くかどうかなどを色々と話し合った。
学年合同の企画のため、説明は全校生徒を集めた場で行うことになった。
「しかし、この企画を行うにはもう少し待った方がいいかもしれませんね」
ライオスの言葉に私は首を傾げた。
「どうしてですか?」
「まだ新入生の間引きが済んでいませんから」
「……間引き」
確かに、講師役の魔塔の魔法使いたちが不真面目な生徒や顕示欲が強い生徒たちを強制送還する時期がまだ終わっていないが、ライオスはその時期を間引きと呼んでいたらしい。
ついつい畑から生徒たちが抜かれる姿を想像してしまい、なんだかマンドラゴラみたいだなと思ってしまった。
魔塔の魔法使いによるマンドラゴラ生産もその間引きもありそうだ。
魔塔の魔法使いたちならばマンドラゴラの悲鳴を間近で聞いても平気なようにしっかりと対策はしていそうだし。
「えっと……では、全生徒への説明は二週間後、発表はそのひと月後ということでいいだろうか?」
私は一つ咳払いをしてから言った。
「それで問題ないでしょう」とザハールハイドが頷き、他の者たちも賛同してくれた。
そうして二週間後、念の為にハバルに今年の一年生の強制送還がある程度終わっているのか、まだ強制送還させる可能性がある生徒が残っているのかどうかを確認した。
するとハバルは意味深な笑顔を浮かべた。
「少し癖の強い生徒がまだ残っているんですが、おそらく彼は強制送還にはならないでしょう」
「魔塔の魔法使いたちにとって扱いにくいけれど、魔法の才に長けているということですか?」
「我々にとっては別段扱いにくいということはありません。よく勉強していますし、魔法の技能を習得するのに非常に積極的ですから」
「では、癖が強いというのは?」
「彼が研究している魔法の癖が強いのです」
「すでに独自の研究をしているとは非常に優秀ですね」
「彼は性転換の魔法の研究をしているんですよ」
想定外すぎる言葉に私は「……は?」と間抜けな声で聞き返した。
「魔塔の魔法使いたちは全く思いつかなかった研究です」
「えっと……その一年生自身が自分の性別を変えたいということですか?」
「そうではなさそうです」
「他の者の性別を変えるために研究をしているのだとしたらかなり迷惑なのですが……」
魔法学園の生徒である間にその魔法で悪さをされても、卒業後に悪さをされても面倒そうだ。
「一体何が……いや、誰が目的でそんな研究を?」
「それは本人に聞いてください」
「教師としてそれを聞いたりは……魔塔の魔法使いたちにそこまで求めるのは間違っていますね」
「そうですね。我々は面白そうなことをしている者は見守るだけですから」
「わかりました。自分で確認してみます」
ということで、その一年生を生徒会室に呼んで話を聞いてみることになった。
性転換の魔法を独自研究しているという生徒の名前はミカエル・セールア。
ノアの異母弟だ。
黒髪のノアとは違い、ミカエルの髪は白っぽい金髪でサラサラで、幼い頃のカルロを思い出させた。
さらには、キラッキラッの瞳も似ているような気がする。
「リヒト様に拝謁できて光栄です!」
彼はものすごくキラッキラッした瞳でこちらを見つめてきている。
そして、カルロが警戒モードだ。
「私は君と同じ学生です。そんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ」
「ありがとうございます! でも、憧れのリヒト様にお会いできてとても緊張してしまって」
全身全霊で好意を向けてくれる感じが本当に幼い頃のカルロを思い出させて私はふと笑ってしまった。
次の瞬間、目の前が真っ暗になった。
目には温かい手のひらが押し付けられているのがわかる。
「カルロ? どうしたの?」
「リヒト様、無闇に笑いかけてはいけません」
カルロの声は拗ねているようだ。
「カルロ、しばらくそのままで!」
「え!? なんですか!?」
「静かに!」
ライオスに次いでミカエル、そしてザハールハイドの声がする。
一体何をしているのだろう?
ズズズッと絨毯の上を何か重い物を引きずる音がして、その音が止まると私の目からカルロの手が外された。
先ほどまで、ローテーブルを挟んですぐ目の前のソファーにミカエルが座っていたにも関わらず、ミカエルはソファーごと壁際に下がり、数メートルの距離が空いていた。
とても遠い。
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呪いで猫になってしまう公爵子息と実母からの虐待により表情を無くしてしまった令嬢のお話です。
恋愛メインというよりは、脱虐待メインのお話となります。
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