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3.ナナちゃんと絶対だと約束した件

「だって! もうルートだって王子様じゃないじゃない! 他の人と恋人になったら絶対嫌なのっ!」

そう言ってナナちゃんが腕を俺の首に回して、ドッと抱き付いた。ぶつかった衝撃が結構強くて、ウッと来たが耐えた。


ナナちゃんが泣きわめいている。多分、ちょっと俺の確認の言葉に怒っている。


私のところにいて、

他の人に行ったら嫌、

私にはルートしかいないのに、

とか。


泣かせているのに嬉しくなった。つい、キツイ女性たちに感謝した。秘密だが。

俺はナナちゃんを抱きしめた。


「絶対結婚して仲良く死ぬまで暮らすから、心配しなくて大丈夫。ナナちゃん以外に興味ありません」


まだ泣いている。


「本当に俺が好きだっていうなら、もう完璧です」

「好きなの! ルートが好きなの! 大好きなの!」


ちょっと意地悪を。

「エディアスよりも?」

ちなみに『様』とかつける義理はない。呼び捨てだ。


「あんな人、もう嫌い!」

「それは良かった。安心した。俺もアイツは大嫌いだから。ナナちゃん、これからアイツの名前を言わないで欲しい。嫉妬するから、俺」


念押しするなら今だ、と気付いたので注意してみる。

一方で、今更ながらぼんやりと気が付いた。


そりゃそうだよな。

王子様が大好きで、裏切られて、使用人で兄である俺と逃げて。


王子様にまだ気持ちが残ってるだろう状態で、兄じゃないから俺と結婚できますよ、なんて急に言われて。

ピンとこないよなぁ、少なくとも俺のナナちゃんには。


ナナちゃんは貴族令嬢だ。本来は。

結婚相手は貴族か王族に決まってる。それが常識として育っている。

逃げてこの家に来た時点でも、それは常識で当たり前の思考として根付いている。


だからこそ、王様の隠し子だって打ち明けた時に、ナナちゃんは、ピンと来たのだ。

王子様、つまり自分が結婚していい相手なんだ、って。


俺、あの日、焦ってたなぁ。

まぁ、俺が好きだって言ったらオッケーしてくれるって期待してたのも大きいけど。


しばらく一緒に暮らしてから、タイミングみてプロポーズとかだったら、俺の嘘なんて必要なかったのかな。

まぁ、周囲への挨拶と説明があるから、すぐに住む上での関係性を決めたかったんだが。


「本当に俺、王子様じゃなくても結婚してくれる?」

「私だって、国に帰れないお尋ね者なのよ?」


「じゃあ例えば、ナナちゃんがお尋ね者でなくなって、他の国の王子や貴族がナナちゃんにプロポーズして、その中の一人がただの庶民の俺だったら、俺をちゃんと選んでくれますか?」

「うん。絶対。絶対ルートが良いの、ルートじゃなきゃ嫌なの!」


本気か。

それは、嬉しい。可愛い。


「良かった」

ホッとした。

「嬉しい。良かった」


俺の腕の中で、ナナちゃんがモゾ、と動いて顔を上げる。みっともないぐらいの泣き顔だがやっぱり可愛い。

「私と結婚してね。絶対、私とよ」

「はい。絶対に。心配なら今でも良い。絶対にナナちゃんは俺と結婚する」

俺の言葉にナナちゃんは頷いた。


「恋人だから、キスしよう」

「うん」

緊張を隠しての提案に、真剣な顔で頷くという同意を得られたので、あと、チラッと、あのムカつく馬鹿王子の顔が脳裏に浮かんだので、つい何度もキスをした。あの王子のを上書きしたい。


何度も繰り返し、ナナちゃんは相当真っ赤になった。一方でやっと止めた俺も、盛大に照れて不味かった。

お嬢様と。ナナちゃんと。キス、しかも何度も何度も。

俺は自分に慄いた。どうしようもない。


***


その後。

状況確認に男性陣に相談し、こっちの相談に乗ってもらえるかもという優しい心根の女性と話をさせてもらい、当日の状況の詳しくを掴んだ。


うん、ナナちゃんはお仕事には役立てていない。ここはやっぱり、というところ。


一方で、俺に好意を持っている女性が何人もいるらしい。

自分で言うのもなんだが、俺って容姿が良い上に、女性への気遣いもでき、仕事も有能。あと、このあたり一帯の地主。

見た目よし、仕事できる、小金持ち。言う事無いな。なるほど。


ただし結婚を約束してる彼女付きだ。


そんな状態の中、ナナちゃんは、質問されたりで俺の話をたくさんした。

そのうち、俺に好意を持つ優秀な女性たちが苛ついた。自慢に聞こえたようだ。

これ、ナナちゃんが優秀で仲間に溶け込んだら話は違ったかもしれないが、そこは言っても仕方ない。

なんだか色んな意味ですみません、とナナちゃんと女性たちに詫びたくなる。

一方で俺の取り合いかと思うと内心得意げな気分だが。


さて。関係を何とかしないと。

実際、ナナちゃんの味方になってくれる人を増やさないとならない。今後色々困るだろう。


というわけで、話をしてくれた女性と、そこにいた男性たちには、自分たちの状況を再度説明した。

俺とナナちゃんは、駆け落ちで、ナナちゃんは良いところのお嬢様で、だから仕事なんかしたことがないんだ、と。俺は結婚を認めてもらいたくて色々頑張って、でも色々あって、駆け落ちしてきた。


さらっと嘘を混ぜているが、この嘘について俺の良心は一切咎めない。平穏な生活に必要だ。


とりあえず、男性陣は初日で泣いたナナちゃんに同情的だし、女性も困った顔をしながら、一応とりなしについて頷いてくれた。

ここから頑張って関係を作っていくしかないよなぁ。


***


畑で出来た品物を、土地代の代わりに数日おきに届けてもらう。

俺とナナちゃんと一緒に、それを受け取る。挨拶を交わす。


ナナちゃんは気後れする時もあるけど、大丈夫、ゆっくりじっくり取り組めばいい。

時間がかかってもたどり着ければ良いのだ。


「結婚式はしないのか? まだ結婚しないのか?」

ある日、訪れた一人に尋ねられた。


「結婚すると決めているし、もっと落ち着いてからで良いかと思って」

「へー。駆け落ちまでしてきて、のんびりしているんだな」


意外そうな顔をされるけど、焦る必要はもう無いと判断できる。

「どうせなら皆に祝福されたい。いた場所では無理だったから」

と俺が笑うと、向こうは苦笑した。


結果、『駆け落ち』から3年後になるとは、この時の俺も予想していなかったけれど。


***


結局、ナナちゃんは俺の事を王子様だと信じたまま。

あの日の俺の質問は、愛情の確認だと思っているようだ。

とはいえ、絶対に他人に話す事はない。ナナちゃんはそのような約束はきちんと守る人だ。


だから、これ以上あの話を蒸し返すつもりは無い。あの日だけで十分だ。


ナナちゃんは隠し子の王子様と駆け落ちして結婚。

ハッピーエンド。


それで良い。大丈夫。


神に、お嬢様のご両親にさえ誓う。

生涯、嘘だったと悟らせない。


END


---

前作終わったときのオマケ話が活動報告にあります。

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