最終話 はじまり
縁ちゃん視点ですが、最後(下)別人が語ります。おつきあいくださいませ。
「な、なにがあったの? 今!」
リンの声が消え、誰もが息を飲んだ静寂を渡瀬さんが破った。
『リンが。本間さんが撮った女がここに来たんです。』
「どうやら、1秒か2秒の間みたいだけどね。」
そう答えた先生以上に悔しそうに、幻宗さんは唸る。
『すまぬ。我が身が鞘にあって勝手が違った。』
「いえ、気配感じて俺も反射的に『闇』を撃っただけです。
縁が動いたのが速かった。」
「ちょっと雨守クン!
まさか縁ちゃんめがけて撃ったんじゃないでしょうね?」
渡瀬さんからみれば突然私が戸口近くにいたものだから、位置関係でなんとなく察知したらしく、そう言って先生にかみついた。
「いや。縁ならすぐ気づくとわかってたから。」
『ですっ!!』
自信たっぷりに答える私に、幻宗さんもなぜか苦笑い。
『お主らの意気の合いようには、言葉もないわ。』
渡瀬さんは私と先生を交互に見つめ、肩をすくめて見せた。
「ほんとに……。あなた達には敵わないわね。」
『でも、あの女……リンが何を考えていたのかはわかりました。』
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『やはり、そんなことを……。』
だらんと背もたれに寄り掛かったままの横道さんの口から、本間さんの声がそう呟く。
「つまり、本間さんがここに来ることを知った上で、
私達を殺す目的でここに来たのよね?」
両手で自分の肩を抱きながら渡瀬さんは、ぶるっと身震いした。
『それが、なんだか気が変わったようなこと言ってましたけど。』
首を傾げた私に、先生は言う。
「縁を仲間にしようとしたのは、きっと本心からだったんだな。」
『え? どうしてですか? 私、敵意剥き出しだったのに?』
すると幻宗さんが問いかけてくる。
『後代、お主は自由に動いていたであろう?』
『あれは、リンが私と話をしたかったからじゃ?』
『いや、またもや肝を潰されたが……。
お主はあやつの術にはかかっておらなんだのじゃ。
儂らを消す選択を捨てたのは
お主を敵にするには惜しい……いや、恐ろしいと考えたのであろう。』
そういえば、自惚れていられないとかなんとか言ってたっけ?
「ほんとに、いつの間にそんなに強くなったんだか。」
ふええええっ! 自覚なかった!! 先生まで苦笑するなんてっ。恥ずかしくなって両手で顔を隠しちゃううう。
『しかし、リンという女ですが。
私を殺した後も動向をうかがっていたとすれば、
今までも幽霊になった私を消す機会は十分あったはずです。』
疑問を挟んだ本間さんに、先生は答えた。
「本間さんが何を私達に伝えるか、それを確かめに来たんでしょう。
クラウド……電子化されたデータだから、リンには読めなかったのかも。」
「するとネットワークには入れないってこと? 雨守クン。」
「電子化、それに信号化されてるものはわからないだろうね。
それにリンは何度も転生していたというだろ?
最後の人生の時、まだタブレットなど見たことがなければ
なにをするモノかすら、知る由もなかっただろうからね。」
「ふーん。本間さん、ちょっとこれ借りますね。」
渡瀬さんはそう言ってタブレットを持ったまま、廊下へ出て行った。
あれ? そっちトイレじゃ、なかったんじゃ。
渡瀬さんに気をとられていたら、先生がボソッと呟いた。
「それにしても……リンという女。俺のこと、そんなふうに言ったのか。」
『ええ、先生のしてきたことも自分と同じだって。失礼しちゃう。』
「まあ、痛いところをつかれた、という気がしないでもないな。
俺が向き合ってきた問題は、いつでも、どこでも起こりうるから。
言ってみれば俺のしてきたことは、その場その場の対処療法にすぎない。」
ちょっと疲れたような顔をして、先生は独り言のように続ける。
「世界なんてものを視野に入れてるリンからすれば、
俺のしていることは、重箱の隅をつついてるように見えただろうな。
根本的な解決には、なっていないんだからな。」
『もう、やめちゃうんですか?』
じっと先生の顔を覗きこむ。先生はすぐはっきりと答えてくれた。
「いや!
小さくてもなんでも、俺は目の前の霊や人を大事にしたい。
だから俺は、やめないよ。」
そう言うと思ってました!
『でも、まずは体を治してからですね。
もうそんなにのんびり構えていられないかもしれないですけど。』
「そうだな。」
むふっ と、いい気持ちになってたら、
おほん と幻宗さんに咳払いをひとつ、された。
びくっ として刀を見る。
『後代よ。
雨守が完治するまでの間。
お主にはやはり儂……この刀を操る術を会得してもらわねばならぬ。
抜刀の一撃必殺の技を、お主に仕込む。』
「お願いいたします、幻宗さん。」
『ふええええええっ?!』
そんなっ! 根性もの路線になっちゃうの? 私の動揺も気にせず幻宗さんと先生は話を進めちゃってぇ。
「その間、強い結界が必要ですよね?」
『うむ。
そうじゃ後代、お主が祀られた社がよかろう。』
『ええっ? あれは私、あの村でただ勘違いされてるだけで……。』
『村の者はそうは思うておらぬ。
お主を天女と信じ、祀る……その大いなる祈りの力を、戴くのじゃ。
さすればお主の霊力をさらに高めてくれよう。』
「色々背負わせてすまないが、頼む、縁。」
先生の目に、思わず背筋が ぴっ!
『うわっ、は、はい!!』
「それに、リンがこの世界を消すための同志を増やしているのなら、
同じようにこちらも、この事実を理解してくれる人を増やさないとな。」
『そうですよね、先生。
私、すぐ立花先生に話してみます。
立花先生からも他の幽霊達に話してもらえば!』
きっと力になってくれるわ。
『私も横道さんに協力して頂きながら、
さらに幽霊達からの情報を集めましょう。』
「お願いします。」
力強く協力を約束してくれた本間さんに先生と頷く。と、そこにタブレットを抱えた渡瀬さんが戻ってきた。
『渡瀬さん、どこに行っていたんですか?』
「ん? ここじゃまずいからちょっと喫茶室にね。
画像をネットに流してきたわ。
情報を拡散しておくだけでも違うでしょう?」
「そうか、ありがとう。
あの画像からでも、わかる人にはわかるだろうからね。」
凄い! そんな手があったなんて。リンがまだ気づかないところで、こっちも理解者を増やしていければ!!
『それで、どんなふうに流したんですか?』
「あまり詳しく書いちゃうのもどうかなって。
ウソとかネタに思われても困るもんね。
短く『女の子を探してみて』って。」
『それはいいですね!
ゲーム感覚のほうがきっと人目にとまります!!』
本間さんの声もさっきまでの重々しい口調から一転、明るく響く。
「それにアカウントも勝手に考えちゃったけど、
新しい情報も追加して流していけばいいんじゃない?」
渡瀬さん、てきぱきこなしていきそうッ。
「うん、それを続けていこう。渡瀬さん、頼んでいいかな?」
「もちろん! 任せて、雨守クン!」
『で、なんてアカウントにしたんですか?』
すると渡瀬さんは ニヤッ と私に笑った。
「へっへ♪ 『霊界通信@yukarin』 」
『ゆかりん……それってまさか、私ですかあああっ?!』
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リンがどんな手を使って再び私達の前に現れるのか、今はわからない。
時間さえ操るリンの前には、私達はあまりにも無力かもしれないけど。
簡単にこの世界を終わりになんて、させないんだから!
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ん~。
まーだ頭ぼーっとするなぁ。
窓から夜景を眺める特急のシートの揺れが、余計に頭を揺らしてなんだかもう……酔っちゃいそう。自由席だけど隣が空いてて、ゆったりできたのが救いだな。
それに、僕に同居してる本間さんは眠っているようだし、帰ったらまた憑依解いてもらって詳しく教えてもらおう。
あの雨守って御仁の言うには、もう身の危険はないだろうってことだけど。向こうの奴らにしてみれば、僕なんか取るに足りないからなのかなぁ。
ま、いいけど。
そうそう。渡瀬って人からもらったこの人の名刺。古谷さんか。この人には夏、まんまと嵌められたんだよな。でも、聞けばどうやら前世では人の心を読む、すごい心理学者って感じだし!
早速訪ねてみよっと……うわ!
スマホからいきなりあの嫌な音ッ!
おおっと、やっぱりなぁ、ブレーキがかかった。そして車掌のアナウンス……。
「ご乗車中のお客様、まことに恐れ入ります。
ただいま政府による緊急警報が発令されました。
安全確保のため、本車両は緊急停車いたします。」
しょうがないな、畜生。
本間さんは、あの危なっかしい国の内部までは入れなかったから、奴らの仲間がいるのかどうかはわからないって言ってたけど。
生きてる人間が勝手に自滅するのか。
それとも奴らが手を下すのが先か。
どっちも願い下げだな。
かなり待って……電車はまた走り出した。
スマホを出して確認したら、ミサイルはまた太平洋に落ちたって。
僕は窓枠に肘をついて、暗くなった窓外を眺めるとはなしにただ見つめた。
ガラスに映る車内の人達が、「またか」って呟き、「もうどうでもいいよ」と呆れた顔をしている。
皆、この世界の危うさに慣れっこになってるんだ。
でもさっきのミサイル、飛ばした時間は今までと違うよ?
嫌な話だが、着実に人間は……世界は……。
『愚かな道を歩んでいるでしょう?』
え?
振り向くと、ガラスに映ってなかったセーラー服姿の女子高生が僕の隣にッ!!
『私が誰かは、わかるわね?』
「い……生きてる奴までスカウトするとは、聞いてないねぇ。
そうか……あんたがどんな心につけ入ってくるか、分かったよ。」
『そう?
でも、そんなふうに自分の未来にさえ、希望を持たない人達ばかりでしょう?』
「うぐぐッ。
でも、いい加減な僕だって、変わったんだ。
僕には僕の、できることをさせてもらうさ!」
ふっと笑うと、リンは消えていった。
僕の耳に、いつまでも小さく笑う声だけを、こびりつかせて。
次回、登場人物名について(と言ってもたいしてありませんですが……)
それと、あとがきめいたものを。




