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金色の吸血姫Zwei!  作者: 杞憂
Summer Dream
5/14

君の色

 別荘に戻った僕達は早速それぞれの部屋で着替えることになった。

 この別荘はかなりの広さがあるらしく、部屋数も充実している。

 僕と蛭賀くんの男子部屋、エリーゼとラウラさんの二人部屋、同じく紗織とこのはの部屋に、ゲルダさんとユリアのちょっと豪華な部屋の四つに分かれている。

 二台のベッドが置かれていてもまだ運動できるほどスペースが余っている。


 もしかしたら家よりも大きいのではないだろうか。

 お金持ち、恐ろしい子……!

「それにしてもよぉ~、本当に俺らまでついて来ちまってよかったのか? 身内だけの旅行なんだろ?」

 蛭賀くんがシャツを脱ぎながら話しかけてくる。

 ゲルダさんとユリアはエリーゼの親戚ということになっている。


 ちなみに、エリーゼとラウラさんが一緒に住んでいることは、もうバレてしまっている。

「多いほうが楽しいからさ、全然気にしなくていいよ」

「うーん、お前がそう言うなら。だったら豪勢に盛り上げないとな!」

「そうだね、折角こんな島にまで来たんだし」

「それに二人部屋だしな……ぐへへ」


 なんかキモイ声が聞こえた気がしたが僕の空耳だろう。気にしない気にしない。

 それよりもさっきから気になっているのは、蛭賀くんがずっとこちらを見つめていることだ。

 瞬き一つせず目を凝らしている。僕としては非常に気になる次第なわけで。

「……そんなにガン見されてると着替えづらいんだけど……」

「いやいや、俺のことは気にせず着替え給へ。早く脱ぎ給へ」


「出てけ」

 既に海パン一丁になっていた蛭賀くんを廊下に追い出す。ドアには一応鍵をかけておいた。

 ドンドンと扉を叩く音が響く。

「優介~! すまん、冗談だっつーの、入れてくれ~!」

「もう着替えたんだからいいでしょ、先行っててよ」


「……しょぼーん」

 擬音を口で言うな口で。思わず身震いしたわ!

 どうにも最近の彼は変態度がよくない方向に伸びている気がする。

 やっと落ち着いた僕はさっさと着替えを済ませた。

 終わった頃に、再び蛭賀くんの声がした。


「機嫌直してくれよ~。俺たちの仲だろ~」

「……もう着替えたから行くよ」

「おっ、そうか! ではいざ行かん、大いなる水着美女たちの待つ海へ!」

「テンション高いな~」

 ちょっとついていけないかもしれない。

 そうして僕と蛭賀くんは別荘の外、海へと向かった。


 なんとなく予想していたのだが、案の定僕たちが一番乗りだった。

 海岸には他に誰もいない。波の音だけが僕達を待っていた。

「やっぱ女子は着替えに時間かかるからな~。こうなるか」

「そうだね、まあ気長に待とうよ」

「おう、じゃあ先に遊んでるか!」


 蛭賀くんは待ち切れないようで早速海に入っていった。

 ひゃっほーいと歓声が聞こえる。

 こんな誰もいない海はきっとそうそう来れるものではないだろうし、目一杯楽しむことにしよう。

 僕も海に走り出そうとしたとき、別荘の方から誰かの声が聞こえた。

 振り向くと、学校で使っているスクール水着を着た紗織が見えた。


 後ろにはこのはの姿も見える。僕は二人が来るのを待つことにした。

「ゆう兄~!」「ゆうすけ~!」

「結構早かったね」

「あたしは学校で着慣れてるからね~、あっという間」

「さおりちゃん凄いんだよ、私下着すら見れずに着替え終わってるんだもん」


「見るつもりだったの?」

 僕が訊いてみると、「いや、そういう意味じゃなくって……」とこのはが焦る。

 紗織も若干怪しいものを見る目でこのはを見つめている。

「あ、あたし……狙われてる!?」

「ち、違うってばぁっ!」


「百合も最高だぜぇーーーーっ!」

 ? 海のほうから声がした。そういえば、蛭賀くんをすっかり忘れていた。

 というか、彼は360度対応できる変態なのではないだろうか、少し尊敬してきた。

 蛭賀くんの雄叫びを聞いたこのははそこら辺に落ちていた丸い貝殻を拾い、

「そーーーーいっ!」


 彼に向かって全力投球した。

 見事に額にぶつかり、沈んでいく姿はさながら海の亡霊(マーメイド)のよう。

 ……放っておこう。三人そろってそう決断した。

 紗織とこのはは僕の方を向いてなにやらもじもじとしている。

 どうしたのだろうか。


「ゆ、ゆうすけ。ところでさ~……」

「うん、なに?」

「これ、似合ってる……かな?」

 このはは水着を指して聞いてきた。

 オレンジ色のビキニを身につけ、健康的ですらっとした体を現している。


 但し強調される部分はとても自己主張していて、少々目のやり場に困ったりもする。

「意外に大胆で驚いたけど、とっても似合ってるよ」

「うー、一言余計だよ! 意外とか言わないの!」

「ごめん、なんか照れくさいからさ」

「全くもう……。ま、別にいいけど」


 こういうさばさばとした性格が、このはの良いところだ。

 よく言えば天然なんだろう。横にいる紗織も感想を待っているようだった。

「ゆ、ゆう兄……?」

「紗織も、凄く可愛いよ。でもそれでよかったの?」

「ああ、これ? あたしのビキニでも見たかったの~、ゆう兄?」


 紗織ならこのはの着てるような少し大胆な水着も似合いそうだなと思ったのだけど。

 一方紗織は気にしてなさそうな感じで、僕の耳元によって答える。

「……派手な水着は、二人で来るときに取っておくの」

「ああ、なるほど」

 紗織ももう年頃だし、そういうのは彼氏と行くときのために取って置きたいのだろう。


「なんか勘違いされてる気がする……」

「?」

 そうこうしていると、別荘から残りのメンバーがやってくるのが目に入った。

 個人的にはエリーゼの水着が気になっている。先程話題に上ったため、期待しているのだ。

「エリーゼー、みんなー、こっちこっち~!」


 僕が手を振ると、あちらも手を振り返しながらこちらに走ってきた。

 エリーゼ、ラウラさん、ゲルダさん、ユリアの四人が一気に揃った。

 みんなそれぞれ思い思いの水着を着ている。

 ラウラさんだけは何故か上にTシャツを羽織り、水着を隠していた。

「どうしたんですか? 日差しに弱いとか?」


「……私は泳がないから、別に肌を曝す必要も無いだろう」

「ラウラ~、言葉を間違えておるぞ? 泳がない、じゃなくて泳げな……」

 エリーゼの言葉を遮るようにラウラさんが高速で動いた。

 あっという間にエリーゼの頬を両手でつねり上げる。

「うがぁ~~、なにふるのあ(何するのだ)~~!」


「姫、世の中には言っていい冗談と言ってはならない冗談があること、ご存知ですよね」

「ふ、ふまなはった(す、すまなかった)……」

「……このメイド、できる……!」

 改めてラウラさんの怖さを思い知る僕たちだった。

 さて、落ち着いたところでゆっくりと皆を見てみると、結構露出度の高い水着を着ているようだ。


 ゲルダさんとユリアはこのはと似たようなタイプのビキニで、姉妹だからか同じ赤い色だった。

 肝心のエリーゼはというと、ワンピースタイプの水着で、スカートから覗く細く可憐な脚がとても綺麗だった。光り輝くような純白のワンピースは見る者に清純さを伝え、まるで天使のようだ。

 エリーゼは僕の方を見ながら何だかもじもじしていた。どうしたのだろう?

「ゆ、優介……だだ漏れであるぞ、心の言葉が……」


「え、あれ? 僕いま言っちゃってた?」

「う、うむ。て、天使のようなどとは……照れてしまうではないか……」

 人差し指をぐりぐりと合わせて恥ずかしがっている。

 しまった、声に出てるとは想定外だった……

 穴があったら入りたいです、はい……


「全く、所構わずいちゃつくのやめてもらえないかしら。ちょっとうざいわよ?」

 ユリアが少し苛立ち気味に言った。

 後ろでこっそり紗織とこのはも頷いているのを、もちろん僕は知らない。

「本当だぜ、俺も混ぜろひゃっほーーーーいっ!」

 海の中から蛭賀くんの声が聞こえた気がしたが多分幻聴だろう、無視無視。


「ユリア、もう少しオブラートに包みなさい。姉として恥ずかしいですわ……例え本当にウザくっても」

「いや、今ウザいって認めちゃいましたよね!」

 ゲルダさんがユリアを嗜めるも、最後の台詞が気にかかった。

 みんな明け透けに言うんだもんなぁ、結構傷つくよ……

「ま、まあまあ。その話は置いといて、折角集まったんだから海で遊ぼうよ!」


 このはが雰囲気を変えるために提案してくれた。

 こんな機会は滅多にないし、精一杯遊ばないと勿体無い。

「そうだの、我もとっとと遊びたいのだ!」

「庶民には贅沢すぎるほどの旅行よ、精々楽しみなさい」

「ユリア……あなたわざとかしら?」


「ひっ……! じょ、冗談だよお姉ちゃんっ」

「面子が濃すぎるなあ~。こりゃ、あたしも負けてられないねっ!」

「紗織は今のままでいてくれ、頼むから」

「え~~、つまんないの~~」


「おーい! 早く泳ごうぜーっ!」

 蛭賀くんが海の中から呼んでいる。

 早くこの広大な海に飛び込むことにしよう。

 海の底に広がっているはずの華麗な景色を目に焼き付けるために。


 ラウラは一人海岸に立てたビーチパラソルの日陰の下に座っていた。

 横には別荘の中から持ってきたラムネのボトルが人数分置いてある。

 彼女の本職はメイドであり、そのような雑務をこなすことは、至って自然のことであり。

 彼女はその時を待っていた。子供たちがみな遊びに夢中になり、彼女の行動に気付かない瞬間を。

 肌を隠すために着ていたと言うTシャツは、ある物を隠し持つために仕組んだダミー。


 ラウラはTシャツの中に隠していた小さな箱を取り出す。

 箱の中には、一粒の錠剤が入っていた。それを掴んで、一本のラムネの中に入れ、溶かす。

 そのラムネを飲む人物は、既に決まっている。必ずそれを飲むように渡すのだ。

 ラウラは退屈が嫌いだ。それとついでに、サプライズが大好きだった。

「……ふふ。私も意地悪い女だな」

 ラウラは不敵に笑う。来るべきその時を待ち望みながら。

 

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