第1話『お荷物呪具師の解雇宣告』
理不尽な追放: 難関ダンジョン攻略後、リーダーのドナンから「何もしていない」「ただ後ろにいるだけの給料泥棒」と罵られ、パーティーを追放される。
「おいオリッペ、今日限りでお前はクビだ。我がパーティー『栄光の剣』に、足手まといの呪具師など要らん」
薄暗い迷宮の最下層から引き揚げた直後、活気あふれる冒険者ギルドの喧噪の中で、リーダーのドナンは言い放った。彼の背後に立つ他のメンバーたちも、ヘラヘラとあざけるような笑みを浮かべている。
ドナンは黄金の髪をなびかせ、腰に差した光り輝く聖剣の柄に手を置いていた。彼は若手の中でも屈指の『天才剣士』として名を馳せており、周囲の冒険者たちからも一目置かれている存在だ。
「……僕を、パーティーから追放するんですか?」
オリッペは自分の背中に背負った巨大な革袋を抱え直しながら、静かに聞き返した。彼の服装は地味で、使い古された黒いローブに身を包んでいる。肌はどこか青白く、目の下には濃いクマができていた。
「ハッ! 何が『追放するんですか?』だ、おとぼけ顔が!」 ドナンは嘲笑を強め、周囲の冒険者たちにも聞こえるように大きな声で叫んだ。
「お前がこのパーティーで何をした!? ダンジョンに入れば後ろでコソコソ怪しげなガラクタ(呪具)をいじっているだけ! 敵の攻撃を防ぐわけでもなく、派手な攻撃魔法を放つわけでもない! 正直、お前がいるだけで俺たちの報酬の取り分が減って迷惑だったんだよ!」
「でも、ドナンさん。僕が作っていた呪具や、魔法陣による補助がなければ、皆さんの負担が——」
「黙れ! 俺たちが強いのは、俺自身の剣技と、仲間の優秀なスキルのおかげだ! お前みたいな『呪具師』なんていう不吉でマイナーな職業の奴が、俺たちの足引っ張りをしていたことに気づけ!」
ドナンはバシッと胸を張り、ギルド中に聞こえる声で宣言した。
「本日をもって、オリッペを『栄光の剣』から永久追放する! これでお前ともおさらばだ。給料泥棒がいなくなって、明日からは最高に清々しい冒険ができるぜ!」
周囲の冒険者たちからクスクスと忍び笑いが漏れる。 「かわいそうに、あの地味な奴、追放か」 「まあドナンは天才だからな。足手ま立ちはいらないんだろ」
オリッペは一瞬だけ悲しそうな顔を見せたが、すぐにフッと息を吐き、静かに首を縦に振った。
「……わかりました。ドナンさんがそう仰るなら、僕は去ります。今までお世話になりました」
「けっ、さっさと失せろ! 二度と俺たちの前に顔を見せるなよ!」
ドナンから吐き捨てられるように言われ、オリッペは深く一礼すると、静かにギルドの扉を開けて出て行った。
ギルドの前に広がる夕暮れの街並み。冷たい秋風がオリッペの頬を撫でる。 誰もいなくなった路地裏に入った瞬間、オリッペは長年抱えていた巨大な革袋を地面に下ろし、大きく息を吸い込んだ。
「……ふう。終わった……ついに、終わったんだ……」
オリッペの呟きには、悲壮感など微塵もなかった。あるのは、心の底からの安堵と脱力感だった。
実は、オリッペには誰にも明かしていない固有スキルがあった。 ——【厄災の器】。
それは、パーティーを組んでいる仲間が受けるはずだった「あらゆる攻撃のダメージ」「状態異常」「敵からの呪い」を、すべてオリッペ自身が肩代わりして体内に引き受けるという、狂気の防衛スキルだった。
ドナンが「天才剣士」として無傷で戦い続けられたのは、彼の剣技が優れていたからではない。ドナンが本来受けるはずだった敵の強力な一撃も、毒も、麻痺も、呪いも、すべて後ろにいたオリッペが身代わりとなって受けていたからだ。
「毎日毎日、ドナンさんが喰らうデバフと呪いを全部僕の体に取り込んでたからな……。身体が重くて死ぬかと思ってたけど……」
パーティ契約が解除された今、オリッペの身体に縛り付けられていた「他人の呪い」の供給ルートが完全に途絶えた。
その瞬間——。
オリッペの全身から、黒く禍々しいオーラが爆発的に噴き出した!
「ぐ……っ!? こ、これは……!?」
体内に蓄積されていた何千、何万という「他人の呪い」と「デバフの怨念」が、契約解除に伴って一気に暴走を始めたのだ。本来なら、この量の呪いを一気に受ければ即死する。
しかし、オリッペは長年、呪具師として「呪いを精練し、魔力に変換する知識」を磨き続けていた。
「抑え込むんじゃない……変換するんだ! 呪力を……僕の純粋な魔力へ!」
オリッペは路地裏で膝をつき、歯を食いしばりながら体内の【厄災の器】を全稼働させた。 黒い禍々しいオーラが、オリッペの体内で激しく回転し始める。不純物である「怨念」や「悪意」が次々と削ぎ落とされ、光り輝く超高濃度の「純粋な魔力」へと昇華していく。
ボワッ……!
眩いばかりの青白い光がオリッペの全身を包み込んだ。 目の下の濃いクマが消え、青白かった肌には健康的な血色が戻る。そして、彼の体内に満ち溢れた魔力量は、かつての数千倍、数万倍——いや、計測不能な領域へと達していた。
「身体が……軽い……! こんなに身体が軽いなんて、何年ぶりだろう……!」
オリッペは自分の手を見つめ、驚愕した。 握りこぶしを作っただけで、周囲の空間がミシミシと歪むほどの魔力が溢れ出てくる。
「ドナンさんたちの呪いを全部僕が受けていたせいで、僕の魔力回路はずっと圧迫されていたんだ……。それが解けたどころか、蓄積された呪いが全部僕の魔力に変換された……?」
オリッペは自身のステータスを確認し、思わず苦笑した。
「これ……もう『呪具師』なんてレベルじゃないな。……まあいいや。冒険者を追放されたんだ。これからは、ずっと夢だった静かなお店でも開いて、のんびり過ごそう」
オリッペは晴れやかな顔で空を見上げた。 彼を縛り付けていた鎖は、今まさに完全に断ち切られたのだった。
主要登場人物
オリッペ(主人公)
表の顔: 地味でパッとしない後衛。「呪具師」というマイナー職。
真の能力: 固有スキル【厄災の器】。仲間が受けるはずだった「攻撃」「デバフ」「呪い」をすべて自分の身に引き受け、体内に蓄積していた。
覚醒後: 追放されたことで呪いの供給がストップ。体内に溜め込んでいた莫大な呪いを「魔力」へと完全変換する術を体得し、人類規格外の魔導師へ変貌する。
ドナン(元パーティーリーダー)
人物像: 勇者職の剣士。自己中心的でプライドが高い。
状況: オリッペが裏で呪いを全て吸収していたおかげで「天才剣士」として無傷で活躍していたが、それに気づかずオリッペを「お荷物」として追放する。
シェンヌ(ヒロイン)
人物像: 追放されたオリッペと出会う、訳アリの没落貴族少女(実は古代魔導技師の末裔)。
役割: オリッペの真の凄さを最初に理解し、彼の相棒として新しい事業(呪具工房)を立ち上げる。




