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30 あやかしの変事


 「ハルト〜? いつまで寝てるの? みんな準備できてるよ〜」


 は! 寝過ごしたか!?


 「あれ? サザンは? 一緒に寝ていたはずでは……」


 「サザンならここにいるわよ。寝ぼけないでね」


 ドア越しに嫌な声が聞こえてくる。耳障りではなく透き通った女神の声だが、散々不快にさせてきた声だ。


 「急いでよハルト! いつまで寝てるんじゃない!」


 「今行くよ」


 全く仕方がない奴らだ……。

 まあ道具は手入れしてあるし、準備は簡単に終わるが、寝起きが心配だ。

 とその時、慌てたメランジの声が聞こえた。


 「皆の者! 今すぐ兵士を呼べ!」


 メランジが叫んだ瞬間に使用人が廊下を騒がしくしている。


 「何事です! メランジ様!」


 「隣国からの敵襲だ!」


 「「!?」」


 「今朝、隣国が軍隊を引き連れていると、見張りをしている者から情報があった! 少しでも遅れたら国に攻め込まれる!」


 なんかやばくないか? 俺が呑気に寝ている間にとんでもないこと起きている。


 「いた! アンス達よ!」


 「メランジ様!」


 「なぜ寝室の前で固まっているのだ?」


 「ハルトが寝坊を……」


 「起きてます!」


 急いでドアを開けて、みんなの姿を確認する。


 「よし。そろったな。皆に説明がある」


 固唾を飲む。


 「隣国が攻めてきた。ただそれだけだ。何も心配せず、財宝を取りに行ってほしい。俺が言いたいことはそれだけだ。頼んだぞ」


 俺たちを安心させようとしている。こんな時にも気配りができるとは、さすがは王子だ。


 「そんな……」


 「大丈夫。ちょっと忙しくなるだけだ。君たちが帰ったころにはすべて終わっている」


 しかしメランジが発した言葉がすぐに裏返る。


 「メランジ様! 兵士の数が足りません!」


 「なんだと!?」


 使用人の慌てた姿が目の前に映る。


 「財宝の在処を明かすために送り込んだ遠征部隊が帰ってきません!」


 「なんということだ……。テレポートはどうした!? 使えるものはいただろう……!」


 「分かりません! 昨晩から連絡もつかないようで……」


 「メランジ様……」


 「アンスよ。心配するな……。大丈夫……大丈夫だ……。しかし戦力が足りない……」


 「メランジ様! 私が行きます!」


 「な! どこに行くんだ!?」


 「戦場です! 私が行けば……」


 「しかし……」


 「メランジ様! 緊急事態です。アンスさんが来れば状況が変わります!」


 「……アンスよ。本当にいいんだな?」


 「……はい」


 「あらあら。それなら私も行きますよ」


 「君は……、マズミといったな。来てくれるのか!?」


 「アンスさんが行くなら私も行きますよ」


 「そうか……ありがたい……」


 「あの……俺たちは……」


 「ああ、すまない置いてけぼりだったな……ここは危険になるかもしれない。心配なら逃げてもいい」


 「逃げませんよ。アンスとマズミさんが先陣気切っているのに、答えない訳にはいかないじゃあないですか……」


 「ハルト! あんたの実力じゃ……」


 「いや。俺たちが行く場所は戦場ではない。財宝のあるところだ」


 「「!?」」


 「聞いてた話、遠征部隊が帰ってきてないと。ならば俺たちが安否確認のついでに財宝を取りにいってきます」


 「そんなの無茶だわ……」


 「いや……ハルトの実力なら……よし! ハルトよ! 頼んだぞ!」


 「はい。ヘデラとサザンも来てくれるよな?」


 「もちろん!」


 「私も行く」


 「満場一致だ。アンス」


 「地図を渡しておく。危険だったら逃げてもいい。とにかく生きててくれ! ハルトは希望なんだからな!」


 「はい!」


 「よし! アンスとマズミはついて来てくれ! この窮地……絶対に脱出するぞ!」


 「「はい!」」





 「いいの? アンスとマズミさんもここにいたほうが……」


 「まあいてくれたらうれしいが、そうも言ってられないしな……。あの山の向こうにあるのか……」


 「洞窟を超えないといけないんだっけ。大丈夫かしら?」


 「まあそこはサザンが何とかしてくれる」


 「うん……」


 「どうした? 元気がないな」


 「多分……今から行く洞窟。私たちサキュバスがもともと拠点にしていたところだったはず」


 「え? サザンと会ったあの洞窟?」


 「違う。あそこは追いやられたから住む場所を変えただけ……。サフランもいなくなったし、多分みんな元の洞窟……、いや。今から行く洞窟に戻っていると思う」


 「そうか……なんか続々と不幸が続いているな」


 「今はもう気にしてない。あそこはもう私の世界じゃないし」


 「サザンがその気なら安心だ。任せたぞ」


 「うん」


 「ハルト。あれじゃない?」


 ヘデラが指を差したところは平原に佇まい、山の入口ともいえるような場所だ。ここからでも綺麗に見える。


 「あれ。あそこにサキュバスがいると思う」


 「よし。アンスがいないのは心さみしいが、俺たちでも戦えると証明しよう!」


 皆で士気を高め合う。サキュバスの巣を超えないといけないのは想定外だが、まあ、多分何とかなるだろ。

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