31 同士討ち
「暗いな。雰囲気は完璧だ」
「昔と変わっていない」
三人で足音を響かせる。サザンが少し臆病に俺の背中を盾にしているくらいで、他はまだそれといったことは起こっていない。
「これいつまで続くんだ? いい加減、変化が起こってもいいころだろ」
「変化が欲しいなら私の中に……」
「言わせないぞ」
ヘデラは女神か知らないが、そろそろ場の空気を読むということをしてほしい。
「みんないい? 私たちの巣がこれ以上攻められたら終わりよ」
奥から何か聞こえた。
「知ってる声……」
サザンが震えて呟く。
歩いているうちに声のヌシが見えてきた……。
「あれは……」
サキュバスだ……。まあ予想通りではある。いなかったら逆に怖い。
「あれ? あんたたち……」
見つかった。隠すつもりはないが敵対はしたくない。
「あ。サザンがいる」
そのサキュバスの声にサザンが余計に俺の背中に隠れる。
「どっかで見たような……」
「前の森であったでしょ。まあ覚えてなくていいけど」
思い出しいた。サザンをこっぴどく叱ったあのサキュバスだ。
「ちょっと! 今争うのはよしてよ。私たちもかまっている暇ないんだ」
ヘデラが問答無用と言わんばかりに詠唱を始めたところをあのサキュバスが止める。
「あんたたちがここに来たってことは、この奥にある財宝が目当てだろう?」
見透かされているか……。
「実は私たちもその件で困っているんだ」
「なぜです?」
「私たちがこの巣に帰ろうとしたときに、国の兵士が私たちの巣に入って行ったんだ。タイミングが少しでも違えば戦争待ったなしだったよ」
「そうですか……それで」
「いや、どうやら兵士たちは私たちが目的じゃなくこの洞窟を抜けた先の財宝が目当てだったらしいが……」
何やら不穏な空気が漂う。
「その兵士が奥に抜けて行ったあと、なかなか帰ってこなくてね……。いい加減居座るのをやめてもらいたいんだ」
「そうでしたか……」
「君たちも奥に行きたいんだろ? ならついでに兵士の存在を確認してくれないか?」
「まあそれなら当初の目的も兼ねているので……」
「よし。任せたよ……」
サキュバスが道を開けようとした時、別のサキュバスが口を開く。
「姉貴。いいんですか?」
「え? なにがだよ」
「今から道を開けるやつらの中にサザンがいるんでしょ。うちらにもプライドってものが……」
「この期に及んでプライドねえ……。確かにあんなこと言ったら任せるのは気が引けちゃう……」
「じゃあついてきたら」
サザンがサキュバスたちに口を出した。勇気のいる行動がこの場を静めさせる。
「サザンに煽られたら受けるしかないね。ここは私が行こう。ほかの者はここにいといて」
そう言いリーダー的なサキュバスと俺たち三人が奥へと足を運ぶ。
「あんたたち。名前は?」
「俺はハルトで、この金髪がヘデラ」
「ふーん。私は……名乗るほどじゃないし、というか知られたくないし……。まあお姉さんとでも言ってくれ」
何か隠しごとがあるのか……。まあ隠し事は詮索しない方がいいというものだ。
「そろそろ洞窟を抜けるぞ」
お姉さんの足の歩幅が小さくなっている。警戒心が強いのか。
光が差す方向に進んでいた時、出口付近に何やら人影がある。
「た、助けてくれ……」
恰好を見るに国の兵士だ。
「大丈夫ですか!?」
この兵士は奥で何が起こったか言いたそうだ。
サザンが回復魔法を打ち、野垂れている兵士を起こす。
「お前たち、奥には行くな。ここは生き返せ……」
「俺たちは遠征部隊の安否確認をしに……」
「王国のものか……。そうか……。いや、それでもこの先は危険だ。なにやら見たこともない魔物がいてな……討伐しようにも魔法使いがこぞって動けなくなって連絡手段も消え……。俺は命からがらここまで
戻ってこれたが……」
「ふーん。危険な魔物ね~。私たちサキュバスの巣を勝手に踏み入れた分際で……」
「お姉さん。今は争いをする場面では……」
「……そうだね。この件が終わったらにしよう」
聞く耳があって助かった。
「俺たちはここの財宝を取りに来たんです。何か教えてくれれば……」
「財宝を取りに……。もしかして君たちはアンスのパーティーか? それなら話が早い! 情報を教えよう……」
この兵士から聞くに、見た目は馬の頭蓋骨を被り黒いマントを羽織っているらしく、しかも腕が六本あるとのこと。ただ筋肉質ではなく魔法を使い戦ってくる。情報だけ聞くとネクロマンサーみたいだ。
「ハルト。大丈夫かしら? 最悪逃げるってのも……」
「ここまで来て引くわけにはいかないだろ。進もう」
足を上げようとした時、サキュバスのお姉さんがその兵士にさらに質問する。
「ねえ、さっき魔法使いが動けなくなったって言ってたけど、もしかしてその動けなくなったやつ、こう手を合わせていなかったか?」
サキュバスのお姉さんが急に手を合わせるジェスチャーをした。傍から見ると仏教の手合わせに見える。
「そうだ……。確かにその恰好で動けなくなった。いきなり皆が首をかしげて涙を浮かべながら手を合わせたのだ……。しかもその全員が小刻みに震えながら……ああ! やめてくれ! もう見たくない!」
兵士が何か思い出したのか、いきなり頭を抱え理不尽に暴れ出す。
「ちょ! 落ち着いて!」
問いかけにも反応しない。
「まあそっとしてやろう。それより話を聞くに相当のことが起きたみたいだ……」
サキュバスのお姉さんが深刻な顔付で俺たちに説明する。
「あんたたち。今から相手するやつ、分かったかも……」
そこに俺の背中に隠れていたサザンが全身を出す。
「具体的に何が分かったの?」
「これは今から百五十年ほど前のこと。サザンが生まれるちょっと前だ。この地にとてつもない力を持った魔物がいてね……。私たちサキュバスをも上回る魔力が魔物たちを制服していたのだよ。しかしその魔物も勇者と言われる者に殺された。その死ぬ瞬間に『必ず生き返る。この世を地獄にしてやる』って捨て台詞を吐いた」
「私も聞いたことある。そいつが今生き変えったってこと?」
「そういうことだサザン。今回の戦いは気を引き締めたほうがいい」
サキュバスのお姉さんが俺たちの前に行こうとした時、前から悲鳴が聞こえた。
「やめろ! 俺たち仲間だろ!」
「俺だってしたくない! でも……体が勝手に!」
兵士の声だろう。仲間割れでもしているのか?
「言い忘れていた。そいつの特技が操り、洗脳だ。これが……いや名前を言っておこう。ドロスノー、そいつが相手だ」
サキュバスのお姉さんが今にも震えあがりそうになっている。
「お姉さん。大丈夫ですか?」
「君たちの実力次第だ」
皮肉を交えたサキュバスのお姉さんが歩み出した。
「急ごう。兵士は敵対してないみたいだし、助けにいくよ」
先導していく背中は大きいはずなのに小さく見えた。
夜というとまだ違う時間帯、その証拠に雲は赤を帯びている。夕方と夜中がマーブル状になっている時、国の兵士は疲れを知らずに戦っていた。
その惨状にサキュバスのお姉さんが喝を入れる。
「おい! お前たち! いい加減にしろ! やるなら他のところでしろ!」
だが声は届かない。
耳を傾ける者は少しだけ。ほとんどが戦い……いや、仲間割れに夢中だ。
「ちっ! どうしたもんんか……」
「お姉さん。ここは文句じゃなくて聞き込みを……」
「ああ、そうだな……全く……」
怒る気持ちも分からない訳ではない。勝手に住処の中に入って、挙句の果てには仲間割れ。何がしたいのか分からないものだ。
とその時、気弱な兵士がこちらに駆け寄ってきた。
「助けてくれ! 俺も何が何だか分からないんだ!」
サキュバスのお姉さんにつかむ度胸は認めるべきか……。
「落ち着け! 敵はどこに……」
「奥! 奥にいる!」
泣きついた兵士は森の奥を指さす。
「分かった。分かったから……いい加減離してくれ……」
兵士の手を払い、俺たちにあとをついていくように促す。
「おい! お前ら!」
いきなり後ろから声がした。
振り返ると、さっき洞窟の出口だ倒れていた兵士だ。
「奥に行くほど洗脳されているやつが多くなる。というかそれしかいない。どうか仲間を救ってくれ……」
「……考えとくよ」
サキュバスのお姉さんが答えにならない答えを呟き、森の中へと先陣を切って行った。




