26 至れり尽くせり
「そうだ! このあと、あの有名なレストランいかない?」
「ちきしょう! もう一回! もうひと勝負だ!」
どこからかにぎやかな声が聞こえている。だけどテレポートの瞬間の光がまだ目に残っている……。
心なしか立ち眩みが……。
「……ルト……。ハ……ト。……ハルト。ダメね。聞こえてないわ」
「それならキスで目覚めるわよ! 普通は男女逆だけど、愛があれば目は覚めるはず!」
「聞こえた! 今聞こえたから! 起きてるよ!」
「なんだ、起きちゃったか~」
「ところで、ここは?」
辺りを見渡すと、どこもかしこも繁盛していて賑やかな雰囲気だ。すれ違う人々は、どこか物珍しい目でこちらを見ている。
「ここは王国。私も昔両親と来た事あるけど、そんなに変わってないわ」
「はへー」
「それよりあんた。テレポートしてから立ったまま気絶してたのよ」
「まじ!?」
「まあ十数秒だけだけど。いきなりのテレポートはきついか」
「みんな。もう兵士が先に行ってる。付いて行こう」
「そうねサザン。いきましょうか!」
国の兵士の後を追っていく。
歩いていうちに段々と大きく目立っている城に近づいていく。それにしてもデカい。いくら金かかってるんだろう。
しばらく歩いていると、兵士が門の前に立ち止まった。
「着きました。ここが我が王国の城です。ご立派でしょう……」
見慣れているはずの兵士ですら感服している。
「では、入りますよ」
そう言い城の門の扉を開ける。
「ついにメランジ様に会える……! みんな無礼は無いようにね! じゃないと評価が落ちちゃうし」
「あらあら、その王子とやらが好きなんですね。アンスさんは……」
忘れてた。なぜかマズミさんも付いて行ってたのだ。
「え? マズミ? 顔が怖いよ……。分かったから! 好きにならないから! そのナイフしまって!」
なんでマズミさんは武器なんてもっているんだ。王子にアンスを取られたくなにかしれないが、さすがにナイフは無しだろ。
「今から扉を開けます。中に入るとメイドが案内しますので……。私たちはここで」
そういい城の扉を開ける。この大きい城に似合う扉である。開くのにも時間がかかるぐらいに。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。ではここからは私が案内します」
綺麗なメイドさんだ。着こなしもよく礼いい。この城に俺たちのような田舎ものが来ていいのだろうか……。
「ハルト! 今このメイドの足を見たでしょ!」
「は、は!? 見るわけないだろ! ちょっとムチムチで露出が激しいだけで、そのほかはなんもないだろ!」
「お元気ですね」
げ、聞かれてたのか……。足取りは早くないが、どこか嬉しそうなメイドさんだ。
「凝縮ですが……アンス様はどなたで……?」
「あ! 私よ! 私に何か用?」
「もうすぐ王室に着きます。その時に王子からここに招待した理由をお伝えすると思いますが……、現国王、メランジ様の父上が警戒態勢を敷いていて、王室には一人しか連れてくるなとおっしゃっていたので、アンス様だけで王室に入ることになります。どうかご了承ください……」
「そんなこと気にしなくていいわ! 私一人でも大丈夫!」
そう元気がありふれているアンスに、マズミさんが失意の目を向ける。
「ま、まあもうじき着くので、しばしお待ちを……」
マズミさんの威圧感に負けたのか、案内をしてくれているメイドさんがうろたえている。
「マズミさん。大丈夫ですから! マズミさんの恋は王子なんかに負けないと思いますよ!」
「ちょっとハルト! 余計な事言うんじゃない! 次変なこと言ったらただじゃおかないからね!」
釘を刺されてしまった……。だが正直、男女が結ばれるより秘密の花園のほうが見てみたい気持ちである。
「着きました。ではアンス様、用意はできましたか?」
「もちろん!」
しかしそこでマズミさんがアンスに近づいていく。
「まだ準備が足りてませんよ。そーれ!」
マズミさんがアンスに向かってオーラを出す。
「なにしたのよ」
「おまじないですよ。アンスさんは昔から緊張するとおもらしをしちゃうから……ね」
「今はしないわよ……! ちょっとみんな! そんな慈悲の目で見ないで!」
「で、ではアンス様以外はこちらの部屋で待機していてください」
そう言われ、王室の横にある待合室に入れられる。しかしその部屋すらも退屈しないほど、豪華に装飾されている。
中に入ると扉が閉じてしまった。しかしそんな事がどうでもいいほどに美しく出来ている。
「綺麗だね~」
「そうだな。さすがは国を名乗るほどだ……。こんな所にもぬかりがない」
感嘆を漏らすが、マズミさんは部屋の様子を見ず、何やら持っていた鞄から水晶を取り出した。
「なにそれ?」
ヘデラがまじまじとその道具を見る。その様子にサザンも気になっているようだ。
「これは簡単に言うと盗聴器ですよ」
は? やば。今更ではあるが、アンスへの執念は人並ではない。
「さっき魔法を掛けたでしょう。あの時にアンスさんに届く声を拾うようにしたのです。こちらの水晶を見れば、声おろかアンスさんの様子すらみえるのですよ」
そう言いマズミさんは輝く水晶をまじまじと見つめる。俺たち三人もその性能が気になりマズミさんの真似をする。
すると水晶から、さっきのメイドさんのこえが聞こえた。
「メランジ様。お連れしました」
「分かった。開けてくれ」
王室のドアが豪快に開く。
アンスの様子も見れるが、目が今にもハートになりそうだ。
「ついに……」
アンスの呟きと共に王室の姿が現れた!
「おお! 君がアンスか!」
こいつがメランジか……。水晶越しでも分かるぐらい、顔が整っていて、声もいわゆるイケボである。これは男でも惚れるぞ……。
「そ、そうです……!」
アンスの声が緊張で震えている。
「あのサフランを討伐し、イレンをも葬ることができた実力の持ち主……」
おいこのバカ野郎。俺が抜けてるぞ。
「あ、あの……どのようなご用件で……」
「ああ、すまない。そなたが綺麗だからかだろう……少々見とれてしまって……」
その瞬間! アンスの全身が恋する乙女になってしまった!
「要件を言う前に……我々王国の状況は知っているか?」
アヒル口を意識しているアンスが首を横に振る。
「そうか……では説明をしよう。今我々の国は、隣国と冷戦状態にあるのだ……」
ほう……実に興味深い……。
「その理由は、我々の領地にある財宝の権利を奪い合っているのだよ……」
「そ……そんな……!」
分かりやすい反応。アンスはまだまだ世渡りは下手だな……。
「そこで、アンス達の実力を隣国を見せつけ、我々の戦況を有利にしたい! 魔王の幹部をも倒せる実力なら、向こうも引くはず……」
メランジの話はかなり理想論だ。もっとこう……現実を見ないとだな……。
「分かりました! お国の為に全力を尽くします!」
アンスよ。ちょろいぞ。そんなんだったらダメ男に引っかかる。
「本当か! 非常にありがたい!」
メランジも喜んでいる。まあ多分お世辞だろ。
「しかしメランジ様……! 私は何をしたら……」
「ああ、それを伝えるために呼んだのだったな……。興奮して忘れていたよ……」
しかしこのメランジというやつ、地雷臭がする。きっとダメ男だ……! そうであってくれ!
「簡単に言うとその財宝を取りにいってほしい……。だがそれは茨の道でな……財宝の在処は突き止めたんだが、どうやら魔物どもがたむろしているらしく……しかも実力者がうじゃうじゃいるとの噂も……」
「な、なるほど……」
さすがにアンスもビビるか……。
「財宝に目がないのは人も魔物も同じ。どうか……財宝を取りに行ってくれないか……?」
「分かりました! メランジ様の言うことなら!」
「ありがとう! しかし何か報酬がないと……」
「そんなものいりません! お国の役に立つことが褒美です!」
おいバカ! そこは素直に受け取れ!
「いや。ここは形として受け取ってもらわないと……そうしないと父上に顔合わせが出来ない……。そうだ! アンス! なんでも言ってくれ! 限度はあるが、用意できるものなら何でもしよう!」
「それなら……」
なんかアンスの目がハートに支配されている。
「その……メランジ様と……」
「ん? 俺と?」
「デ、デート……したいです……」
は!? このクソビッチ! 性欲に目がくらみやがって! 一応俺たちも一緒にいくんだぞ!
「そ、そんなことでいいのか?」
よくない。よくないぞ。おい! アンスを止めろメランジ! 今こそ権威を振りかざす時だろ!
「分かった! それならいくらでもしてやる! 別に減るものでもないしな!」
「あ、ありがとうございます!」
終わった……。アンス……! あの野郎……!
「必要な装備は言ってくれ! 我々が用意する! あ、あと地図も必要だ。よし! メイド達に言っておく!」
「はい! ありがとうございます!」
「しかし今日はもう遅いから泊まっていくといい。食事も用意するしお風呂だって……」
「そんなことまで! メランジ様! ありがとうございます! 何度言ってもお礼は言い足りません!」
その後、訳の分からぬ世間話……。いや、アンスの仕掛けた恋バナが永遠と続いた。




