22 野心の怒り
「ここね! 行くわよ!」
俺とサザンがアンスの右足にバフを掛ける。
金色に光る右足はヘデラが下水道の天井に書いたバツ印に振りぬかれる。
爆音とともに天井に穴が開いた!
その大きな穴は俺たちにとっての希望の穴だ。みんなで一斉に駆け上がる。
といっても運動能力のない俺は皆のようなジャンプで上がれない。仕方ない、ロッククライミングで行こう。
「よく来たな! まさか実力行使とは参ったが、楽しんでいただけたかな?」
俺が登り切ったと同時に、あの耳障りなデスボイスが聞こえてきた。
「あれ? デスボイス紳士ことイレンさんは?」
「そこの少年よ。言葉には気をつけろよ」
姿が見えない。てっきりお出迎えをしてくれると思っていたのに。
「さあ、そこの宝箱を開けなさい。お望みのものがあるはずさ」
そう目の前の宝箱に促される。どうやら本当にお遊びに付き合わされただけのようだ。
早速、アンスが一目散に飛び出し、勢い良く宝箱を開けた。
「なにこれ……?」
開口一番がその感想。期待できない。
「なになに~」
ヘデラも近づくがビミョーな顔つきになる。
「お気に召したかな?」
イレンの言葉には反応しない二人。気になり俺とサザンもその褒美とやらを見る。
「それはこの世に数匹しかいない魚の目だ! 売れば死ぬまでは困らないだろう……」
は? と言いたくなる。価値が分からないからだ。
するとサザンもポロリと口をこぼす。
「これその辺の魚の目だよ」
そうだろうか。俺は目だけで魚の品種は分からない。が、サザンは普段から料理をしている身。見ただけで分かるのだろう。
「な、何を言う! これは私が手塩にかけて育てた魚だぞ……!」
「なるほど。あんたが育てた数匹の魚の目ってことね。物は言いようってことだわ」
アンスが呆れ口を放つ。もしそれが本当ならこのイレンをしばかない訳にはいかない。
「もう帰れ! 我が楽園の下では貴様らのようなやつはいらん!」
なかなかに傲慢なやつだ。だが帰りはしない。本来の目的である隣町を救わない限り、俺たちは先へと歩み続ける。
「ところで、イレンはどこにいるんだ? 声だけの演出はさみしいだろ」
「貴様らには教えん! 早く帰れ!」
「私たちには一千万の大金がかかってるのよ! 教えなさい!」
「なに? 我に懸賞金がかかってるのか……。実に面白い! とうとうここまで上り詰めたのか!」
「いいから教えろ! 俺たちが怖いならそう言え! 臆病者!」
「黙れ! 我の聖地は教えんと言ってるだろ!」
するとさっきから黙っていたヘデラが、俺たちに喜々として話しかける。
「魔力探知の結果、あの壁が怪しいわ! 行くわよハルト!」
そう言ったヘデラは俺の手を引き、強引に壁をぶち破る。どうやら薄壁で出来来ていたのだろ。
「ほら! 正解!」
中にはレトロな雰囲気とマイク越しに話していたイレンと思わしき者がこちらを見ている。
そして俺たちのあとにアンスとサザンが続く。
「あれがイレン……」
サザンが目を見開いている。その瞬間、イレンの眼光が赤く輝きだす。
「貴様ら……! 我が神聖なる心へと! 土足で足を踏み入れるな!」
いきなり怒号が飛び交う。マイク越しに聞いていたデスボイスではない。紳士的、そして野心が混じり合った声をしている。
「我が、我……俺が苦労して築き上げた城に……俺が俺が俺がああああ、新たな魔王になるための城にいいいい!」
やばい。今までの魔物とは違う。
「今の新生魔王に頭をさげ! したくないこともしてきた! 人間どもには分かりまい! 俺の純潔の血が魔王にふさわしいのにいいい! その土台をおおお! 貴様らの薄汚れた心でえええ!」
「おい! みんな! 引き返すぞ!」
「そうはいかないみたいよ……」
アンスが答えた先。正確には後ろだが大量の魔物が入り混じっている。見た目や背丈はまばら、多種多様の魔物がこちらを見つめている。
「おい! お前ら! そこの邪心ひきめく四人どもを! 皆殺しにしろおおお!」
イレンの言葉に魔物たち各々の武器を持ち、襲い掛かってきた!
「ヘデラ。アンス。私がサポートするから、こいつらを……」
「「分かった!」」
三人が魔物の群れに立ち向かう。
ちきしょう。イレンの相手は俺ってことか……。
「我の相手は小僧か……。舐められたものだ……。死んでも文句はなしだぞ?」
鞘を持つ手が震えている。今まではこんなことはなかった……。
ダメだ。呼吸がうまくできない。相手の怒りと緊張で溺れてしまう……!
「ハルト君!」
突然の問いかけに思わず振り向く。
「相手はイレン……。けど……、あなたなら……!」
そういいサザンは俺にバフをかけ、後ろの魔物たちへと消えて行った。




