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そうして631の試行錯誤の日々がはじまった。
講義と基礎訓練以外はブリーフィングルームか戦闘機でシミュレータを動かす毎日。頭の中は新戦術でいっぱいで、食事中でさえ話しあった。携帯食で済ませることもあったし、食堂に来ても四人で話し合いながら食べた。メンバーを固定する小隊が珍しいなら、常に特定のメンバーと食事するものも珍しい。
そこまでしたのに、控えめに言っても試練の連続だった。問題は解決するたびに増えていき、まるでねずみ算だった。
ユウも、ガスも、テオも、もう無理だ、と言いそうになった。しかしタイミングが別々だったので。言い出しかけては他の三人が黙々と問題に取り組んでいるのを見て言い出せなくなり、そのうち熱を取り戻していったのだった。
石頭ならぬGMSは演算力を貸してくれた。これはユウの功績が大きい。なぜなら、リグの書いた要請文を読んだガスとテオの顔が、かなり苦々しげだったからだ。
あれやこれやとすったもんだがあって、最後の戦闘機を使ったシミュレーションと実物での検証が終わったとき、二週間がたっていた。
フェムト来襲の警報によって631は戦闘スーツを身に着けた。新戦術完成の報告はGMSと戦略部にしてあったので、当然のように対空迎撃任務に回された。
毎日のシミュレーションのおかげですっかり馴染み深くなった自分たちの機体に乗り込む。
機体のチェックをしながらガスが興奮した声を上げる。
「さあ、お披露目だぜ。ワクワクしてきたな!」
「僕もです。出撃がこんなに楽しみなのは初めてですよ」
「そうだね。ついに僕らの努力が実るんだ」
ワイワイやっているところ、ユウはリグが黙っているのに気づいた。
「リグ、どうかしたの?」
「いや、なんか……もう俺の仕事終わったなって気がしちゃってさ。どうもやる気がおきなくて」
「これから実戦なんだよ!? しっかりしてよ、もう!」
四機は別々の出撃口から射出され、都市上空で合流した。飛行船に向かって高速巡航を開始。そのころには無駄口も止んでいた。
新戦術は631だけが実験的に行うことに決まっていた。他の隊には知らされていない。知らせる必要がなかった。なにしろ作戦はGMSと戦略部がたてるし、兵士は作戦、つまり戦術コンの指示に従うだけだからだ。何も知らない兵士たちは、確実に631の進入路を確保してくれる。これら情報の統制は兵士たちの疑念や、万が一失敗した場合の動揺を抑える狙いがあった。兵士たちはいつもどおり、戦術コンの言うなりに動くだけですむ。
やがて飛行船が見えてくる。
リグは631全員に通信。
「各機、慎重に行動しろよ。戦術実行前に墜とされたんじゃ、笑い話にもならないからな」
三人は短く、了解、と返しただけだ。だが、三人の懸念は共通している。たぶん一番危ないのはリグだ。なにせリグの性能は三人と違って標準も標準なのだから。それぞれリグのフォローに回れるよう、それとなく機体の位置を調整する。
神経接続した視覚に多くの味方機が映っているのを見て、リグはふと、ユキはどこにいるのだろう、と思った。防衛に参加していないわけがないから、この中か地上迎撃部隊のどちらかにいるはずだ。探す意味がなかったのでやらなかったが、会いたい、とリグは強く思う。戦術開発をしていた二週間、ずっと会っていなかった。
全てはこの戦闘が終わってからのことだった。これがうまくいけば、あとはいくらか楽ができる。
戦闘開始。数十発のミサイルが空に弧を描き、迎撃レーザーが切れかけた照明のようにパパパッときらめいた。
リグも危なげなくミサイルを迎撃できた。五十二機中、被撃墜ゼロ、損傷が二機。うまい、とリグは笑みを浮かべる。
次に飛行船外殻に据えられた対空機銃の破壊。GMSと戦略部はうまく采配してくれたらしい。進入路上の対空機銃がきれいになくなる。
ユウ、ガス、テオの三人が速度を上げながら主翼を折りたたみ、突撃形態へ。飽きるほど繰り返した訓練のとおりに長槍が外殻に穴を穿ち、一片八個の点からなる正三角形ができあがった。
それを確認してからリグも突撃する。残った対空機銃の弾丸が可動タイル装甲に当たってかすかな振動を起こす。たいしたことはない。
訓練で繰り返した動きを戦術コンは完璧に記憶していた。真下に向けられた長槍電磁投射装置の射出推奨位置が正三角形の中心に示される……結局、なにをどうやっても機関砲では威力が足りなかった。
射出推奨位置にて、リグは完璧なタイミングで射撃信号を送る。先端を潰されただの棒と化した長槍が超高速で射出された。
轟音が響き、機体を通してリグの身体まで震わす。高速で離脱。対空機銃の射程外まで達するとリグは主翼を戻して突撃形態を解き、戦果を確認した。
飛行船に大きな三角形の穴が開いていた。いや、飛行船の大きさからいえば小さいのだが、いままで開けていた穴が針で空けた程度のものなら、今度のはペンでつついた程度には大きく見える。
そりゃうまくいくさ、あんだけ確認したんだから。そうブツブツ言いながらもかすかな安堵がリグの胸に湧く。一方で、よっしゃあ、とガスが叫んだのが聞こえた。
リグはGMSと戦略部に新戦術の成功を報告した。次に631全員に告げる。
「631全機へ。成功だ。帰還するぞ。地上迎撃部隊の援護に向かう」
四機は編隊を組んで都市の帰還口へと向かった。戦闘機を下りて援護に向かう。リグをのぞいた三人は上機嫌で、特にガスには、浮かれてやられるなよ、と注意しなければならなかったほどだ。
その日、GMSの観測と全出撃機の戦闘記録から、新戦術の効果が伝えられた。都市上空に来るまでのフェムトの流出量は、従来より五%多かった。これを全小隊で行えばどうなるかは明らかだ。
安堵と静かな喜びに浸るリグとユウとは別に、テオとガスは夜まではしゃいでいた。はじめての戦術開発、二週間ぶっ通しで行ったそれが報われたのだから当然だ。
リグは微笑ましくそれを見ていた。試行錯誤の連続の中で、三人は少しずつ問題を自分の頭で考えはじめ、解決しようとしていた。創意工夫の能力は誰にでもある、という考えは間違っていなかった、とリグは確信する。
「あ、リグ。今日の戦闘詳報、明日の昼までに僕に出してね」
ユウに冷水を浴びせられ、リグはうめきながらベッドにひっくり返った。
ちくしょう、なんで俺だけ気楽に休めないんだ。
リグはもう寝ることにした。明日のことは明日の自分がやる。今日このあと何が起きようと知ったことか、という気分だった。
人はそれを自棄と呼ぶ。




