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第二十一話

「やぁ、宗祐くん。久しぶりだね」

「そっちこそ。相変わらず“真莉亜”だ」

 今回の待ち合わせ場所は、真莉亜と宗祐二人の別荘である。

「日本はやっぱり暑いね」

「今年は異常気象で殊更に暑いんだよ」

 あれから一月が経った。新納に真莉亜の足取りを調べさせたところキッチリ2週間で報告をもらった。宗祐くんが来日するまで待っていると、世間は一気に真夏へと変わり、学園も夏休みに突入していた。私はそのまま寮へ残ることにして、一人の生活を満喫している。多くの学生は帰省したが、何人かは残っている様子があった。琲禰に関しては言わずもがな。

「で、どうだった?」

 宗佑君が入れてくれたアイスコーヒーを挟んで、琲禰からもらった机の上に報告書をザっと並べる。

「どうやら、真莉亜は頻繁に病院へ通っていたようなんだ」

「病院?真莉亜が?」

 机の上に並べた報告書を眺めながら首を傾げ、首を動かさずに固定したまま、スラっとした長い脚を大きく開き、机を乗り越えて私の隣に座った。

「え、■■病院に行ってる」

「でしょ?」

 報告書を拾い上げ、ぼふりとソファに身を預けた彼の肩に身を寄せ、見ているであろう場所をを指さし話しかける。

「しかもだよ?ここ最近じゃない。中等部に入ってからなんだよ」

 パラパラと年代を遡っても、真莉亜ちゃんは定期的に■■病院に通っていた。

「ホントだ…ってこれ、俺が留学してからかも」

「じゃあ、隠してたのかも」

「なんで、また…」

「それにしても、病院に通っていたことと自殺に関連あるかな?」

「んー…あ、この病院の経営橘家がやってる」

「え?本当だ」

 二人で報告書を指さし、バッと顔を上げると彼も同じように私を見たのか、ものすごく至近距離に同じ顔の同じ瞳がこちらを見ていた。

「ねぇ、橘秀隆に直接聞いてきてよ」

 名案とでもいうように彼の瞳が輝いた。

「げぇ!どう見ても橘君真莉亜ちゃんのこと嫌いじゃん!」

「そりゃあストーカーしてたしね!」

「知ってたなら止めてよ!」

「真莉亜を止められるわけないじゃん」

「聡いんだか馬鹿なんだかわかんないなぁ真莉亜ちゃん」

「98%馬鹿だよ」

 二人で顔を見合わせて笑う。

「真莉亜ちゃんの書いた日記見せてあげたい」

「いいよ、想像できるもん。概ね愚痴と橘君のことでしょ」

「正解」

 宗佑君は報告書を放り投げ、私の太ももに頭をのせて横になった。目を伏せている彼の長い睫毛をじっと見つめる。

「あーぁ、病院行ってたことくらい教えてくれたっていいのに」

「言いたくないことの一つや二つ、あるでしょ」

 もしかしたら女性特有の病気があったのかも。

「俺秘密なんてないのに」

「嘘だ。みんなきっとある。人に言えない秘密なんて」

 私だってあるよ。今なんてまさにそうじゃん。金城真莉亜を体を奪い取った交通事故で死んだ女だなんて秘密誰も信じないけどさ。

 ペラペラと一人で話していると、宗佑君が急にパッと目を開け、ジッと私を見つめてきた。

「え。どうかした?」

「俺、あったよ」

「ほら、やっぱり…」

 あったじゃん、という言葉は発せられることなく消えた。大きな瞳が伏せられ、長い睫毛がよく見える。仄かにコーヒーの匂いが混じった味が、じんわりと暖かくなった唇から感じた。

「…」

 驚きから瞳を閉じることができず、ジッと終わるのを待つ。恥じらいだとかそういうものは既に失ってしまったアラサーは困惑するのみ。

 えっと…キスしてるけど…その~…彼ら、姉弟、だった、よね…?

「目、閉じてくれたっていいじゃん」

「え、あ、ごめん」

 この状況を考えていると、パッと口を離し、不満げな顔をした宗佑君がいた。下から見上げる形だったが、背を起こし覆いかぶさってくる。

「秘密あった」

「ん、そっか」

「…聞かないの?」

「え、教えてくれるの?」

 秘密じゃないの?と覆いかぶさる彼を見上げると、口を尖らせていた。

「俺、恋愛対象が女の人じゃないんだよね」

「そうなの?」

 なおのこと、俺が跡継ぎなんてなれるわけないじゃん?

 驚く私をよそに、ボソリと吐き出した言葉を隠すように、宗佑君は私にもう一度キスをした。

「真莉亜、俺を一人にしないで」

 真莉亜がいないと、俺戦えないよ。

 口を離すたびに言葉を紡ぎ、途切れると口づけをする。繰り返し繰り返し、うわ言のように呟く。

 抵抗することなく受け入れているが、彼は何を考えているのだろうか?

「馬鹿な真莉亜でいいから、俺のそばにいてよ」

 深い口づけに変わる。温かい舌が口の中を蹂躙する。

「前は、もう…俺に、俺と父さんたちに近づいてほしくないって言ったけど…」

 二人の唾液がつーっと糸を引く。ぐい、と宗佑君が私の唇を自分の手で拭う。

「俺と一緒にいてほしい」

 俺と一緒に金城家を守ってほしい。

「俺は跡継ぎができないし、強くない。だから、賢くて強いあなたに一緒にいてほしい」

 えっと、ちょっとイラっとしたんだけど。それってつまりさ、

「跡継ぎ産めってこと?」

「違う!!!」

 吐き捨てるように言う私に慌てて彼は訂正を入れる。

「なんていうかな…!俺がこんなんだから、跡継ぎがいなくなるのは事実だけど、別にそのために一緒にいてほしいんじゃなくてっ…!あなたは真莉亜であって真莉亜ではないけれど、真莉亜と違って賢くて、でも真莉亜のような強さがあって…!ええっと、俺の我儘というか要望なんだけど、このままさようならをしたくなくて…一緒にいてほしくて…だから、その…一緒に…」

「金城家の経営をしてほしいってこと?」

「そう!!!」

 言いたいことが伝わったのか、ホッとする宗佑君。

「俺が真莉亜と一緒にいても誰もなにも不思議に思わないし、俺がいたら真莉亜が変わったことだって、気付かれることはないと思うんだ」

 両親だって真莉亜がそばにいてくれて安心だろうし!

「ちょっと待ってよ。急がないで。一緒に経営のことは一先ず後回し!ていうか、そのご両親のことだけどさ」

「え?」

「真莉亜ちゃんが病院に通っていたことって、知らないの?」

「あっ…」

 宗佑君はサッと顔色を変えた。

「それも、そうだ…なんで、なんで教えてくれなかったんだろう…!」

「私は橘君に接触するから、宗佑君はそのことご両親に聞いてきて!ね!」

「わ、わかった!」

 今日はこのまま解散!と言って、ポカンとする宗佑君を置いて家を出る。

「うわ、あっちぃ」

 たくさんのセミの声とアスファルトからの熱に踵を返したくなる。

 白い折り畳み傘を取り出し、タクシーを捕まえるべく大通りに向かう。大通りに出ないと寮専用のタクシーは迎えに来てくれない。まぁ、呼べば来てくれるんだろうけどこの場所をあまり知られてほしくないのだ。

「はぁ~…橘君と接触かぁ…先が思いやられる…」

 ところで、あの人なんで姉の真莉亜ちゃんにキスしたの?意味わかんない。

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