新米騎士のおしごと 生存の轟音
そこにいたのは____
「あ、二人とも、無事だった?…耳、血が出てる。攻撃受けたの?魔法かけるよ」
———全身をパチパチと光らせてるノクス君がいた。
「あ…、やっぱり生きてたねノクス君」
「うん。痛かった。まだなんか変な気がする」
顔をしかめながら肌が見えている鎧の穴をなでるノクス君。
同時に私たちに回復魔法をかけてくれる。あったかい…。
「え、ノク、え…?」
「さっき言ったじゃん。あと少しって」
困惑するノエル君。
言葉足りなかったかも。
「安心して、ノクス君は簡単には死なないんだよ?ジーク様に鍛えられてるんだから」
「うん。安心して」
「ジーク様……?ノク、帰ったら全部聞かせてね」
ノエル君ってたまに目の色変わるよね。こう、暗くなるというか。怖くなるというか。
「うん。わかった」
「はあ……。よし!現状を確認したい。ノクの方は何がどうなってる?」
「こっちは胸に穴空いたけど、治った。今ユリクレアさんが騎士団に報告と救援を求めに行ってくれた」
ユリクレアさんも無事みたいでよかった。
「そっかあ、じゃあ私たちは救援を待つ感じ?」
「そうだね、現状僕らにできることはほぼ無いわけだし。できるのは、救援隊への敵の詳細な位置の共有かな。ノク、敵の位置は分かる?」
「いるのはわかる。でも近づかないと————」
ピカッ
そう話してる二人の間を一瞬強い光が照らした。
まるで、ノクス君に穴をあけた時みたいな…。
体が震えて、嫌な汗が流れる。
向こうからの奇襲だったけど、ノクス君に傷を与えた攻撃。
二人の反応は別々だった。
ノエル君は、多分私と同じで、怯えた表情で。
ノクス君は……ノクス君は…もう、そこには居なかった。
「え?ノ――」
ドォン!
ノクス君が現れた時と同じ大きな音が私のつぶやきをかき消す。
更に森の奥でも何回も音が響いてく。
さっき一瞬だけ見えたノクス君の表情が頭に浮かんだ。
それはリラ様や、私たちと過ごしてきた中でよく見るようになってきた顔。
ノクス君、笑顔だった…。
どうしてそんな顔をするのかわからない。
出会った時から不思議な人だったし、もう慣れちゃったけど。
でも、少し不安になる。
ノクス君の知らないとこを、知ってるとこを、自分の中でうまくくっつけられない。
私はいつも置いてけぼりだった。
やっと耳鳴りが治まる。
先程の光は奇襲された時の初撃と同じだと理解する。
そして、彼――ノクが飛び出して行ってしまったことも。
とっさに思い出すのは目の前で穴を開けられ倒れ行く親友の姿。
僕まで胸の痛みを感じた。呼吸が出来無くなる様な、そんな感覚。
先程治まった吐き気が、胃がひっくり返るような感覚が再び蘇ってくる。
深呼吸する。思い出せ、ノクは無事だった。あの大怪我でさえ、何事もなかったかのように戻ってきた。僕はまだノクの力を全て知らないから、不安になるだけだ。ノクを信じよう。そして、帰ってきたら、親友の僕が知らない部分をたくさん教えておう。
段々と呼吸が落ち着いてきた。頭の熱が取れ、冷静な思考が戻ってくる。
すると、周りの音も聞こえてくる。轟音が、まだ森の向こうで響いてる。
ノクは常識は無いが決して馬鹿ではない。それは一緒に過ごしてるうちに分かっていた。
それに、かなり合理的な思考を持ち合わせている。稀に感覚に頼る所もあるけど。だから飛び出していったのは、何か勝算が有っての事だと思う。
あるいは、感覚的にリズ隊長に危険があると感じたか…。
どちらにせよ、ここにノクは居ない。しかし、心配はない。先程まで目の前が真っ暗になる程心配していたのに…。無事な姿でひょっこり現れて人の鼓膜を破っていくなんて、驚きと安心と痛みで情緒がおかしくなったよ。僕の涙を返して欲しい。……ダメだ、まだ精神が乱されている。落ち着こう。吸って、吐いて、吸って、吐いて…。
…よし。僕達に出来る事をしよう
「テッサ、テッサ!」
呆然としているテッサを強く揺さぶる。
「……っ」
「テッサ、聞いて。まだ終わってない」
肩を掴む手に自然と力が籠る。
「ノクは戻った。つまり、少なくとも即死するような状況じゃない。それは君が一番わかっているだろ?」
「う、うん。でも……」
「リズ隊長もまだ戦ってる」
森の奥で轟音が続く。
「僕たちがここで立ち止まっても、何も変わらない」
「…こわく、無いの?」
「もちろん怖いよ」
先程から掴む肩の震えを感じてる。
「でもね、だからこそ、動くんだ!例え戦力にならないとしても!何かをしなきゃ!」
言葉を区切る。
「僕さ、親友として、ずっとノクの隣に居たいんだ。だから、止まったり、蹲ったりしないで、彼の手を握り続けたいんだ」
「!!」
震えは止まった。
「私も…私も!置いていかれたくない!!」
テッサが乱暴に袖で涙を拭う。
拭い終わった後の彼女は、いつもの明るい表情だった。
「ノエル君、何をすればいい?」
「僕らに出来る事さ」
轟音はまだ聞こえる。今やそれは、ノクスの生存を確認できる合図となっていた。




