新米騎士のおしごと 巡回3
三度目の巡回は、夕方前の担当だった。
南西区画から旧水路周辺。
王都の中では比較的古い区域らしい。
「この辺、道が入り組んでるから行方不明者が多いんだよね」
エルが地図を見ながら言う。
確かに細い路地が多い。
建物同士も近く、昼でも少し薄暗かった。
「なんか地下街近くって感じする……」
テッサが周囲を見回す。
洗濯物。
細い階段。
湿った石壁。
商業区ほど綺麗ではないけれど、人の生活は感じる場所だった。
その時。
「――!」
甲高い声。子供の声だ。
全員が反応する。
声の方向に進む。
角を曲がった先、路地の奥。
黒い外套の男が、小さな子供を抱えて走っていた。
子供はぐったりしてるように見える。
「誘拐!?」
テッサが顔色を変える。
「!!」
ユリクレアさんが素早く地面を蹴った。
僕も反射的に走り出す。
男は路地を迷いなく曲がっていく。
おそらく土地勘がある。
「くそっ……!」
後ろから走るエルが舌打ちする。
男の走る速度は速くはない。
子供を抱えてもいる。
なのに。
妙だった。
男の走り方。
呼吸。
異様に速い。
追いつけない。
それに。
――静かすぎる。
まるで訓練された兵士。
いや、それ以上のナニカ。
曲がり角が見えてくる。
ユリクレアさんが詠唱を完成させ、その身にバチバチとした光を纏う。
一気に距離を詰めた。
「終いだ」
男が振り返った。
表情が全くない。
追い詰められていることを理解してないのか。
次の瞬間。
「っ!?」
子供。
ユリクレアさんとは別方向に投げられた。
更に子供に向け短剣を放つ。
「ちっ」
ユリクレアさんが一瞬で子供を抱きかかえ、短剣を弾く。
「ノクス!」
ユリクレアさんを優しく投げてくる。
僕は反射的に飛び込んだ。
子供をできる限り衝撃が無いように受け止める。
軽い。
痩せていた。
その間に。
男は路地裏の奥へ飛び込む。
「逃がさん!」
ユリクレアさんが追う。
僕たちも続いた。
だが。
行き止まりだった。
「……いない」
テッサが息を呑む。
壁しかない。
隠れる場所もない。
でも。
地面が少しだけ濡れていた。
その先には古い鉄格子と下水路。
「地下へ潜ったみたいだね」
エルが顔をしかめる。
ユリクレアさんは無言で周囲を睨んでいた。
「……ん?」
違和感を覚える。
匂い。
湿った下水の臭いに混じって。
薬品みたいな。
どこか。
嗅いだことあるような匂い。
「ノク?」
「……なんでもない」
でも胸の奥がざわついていた。
結局、犯人は見つからなかった。
保護した子供は無事だったけれど、まともに会話も出来ないほど怯えていた。
服も汚れていて、栄養状態も悪い。
先輩騎士が難しい顔で呟く。
「最近、子供の行方不明が増えてるって話はあったが……」
「人攫いですか?」
テッサが不安そうに聞く。
「断定は出来ん。だが――」
先輩騎士はそこで口を閉じた。
言葉を濁したのが、逆に少し不気味だった。
夕暮れの王都は、いつも通り平和に見えた。
けれど。
その裏側に何かある気がして。
僕は、夕日の伸びていく影を、しばらく見つめていた。




