これからのことはゆっくりと
私が疑問に思っていても、みんなの会話は進んでいく。ジェットとセレナが愛し子とは何かとか、私が異世界から来たこと、自分達が聖王であることとかを説明している。みんな初めて聞くことばかりなのか、驚いたり納得したりと表情が忙しい。
特にクラウスさん?だっけ?体が前のめりになってるし心なしか目もギラついてる気が…?挨拶していた時のホワホワした雰囲気が嘘のようだ。確か魔法省長官…って言ってたから自分の知らない事を知るのが嬉しいのかもね。
なお、自分のことながら二人の方が詳しいので私は会話には混ざらずチビチビと紅茶を飲む。アンバーはたまに補足を入れたりしてるけど、アズールは全く入っていかない。寝転んではいるけど王様達をジッと見てる。
「それで、ルミちゃんは何かあるかい?」
「えっ?」
クラウスさんが話しかけてきたけど全く聞いてなかったから何を聞かれてるのか分からん。素直に聞いてなかったって言っても怒られないかしら?などと思ってると、セレナが何か感じたのか説明してくれた。
「ここってこの国の王都なんだけど~、ルミは何があるかとか分からないでしょ~?だから、何かやりたいこととか欲しい物とかある~?って」
なるほど。セレナにありがとうとお礼を言って考える。欲しい物は特にないし、やりたいこともなあ…
「まあ、ゆっくり考えてくれてかまわない。滞在する部屋もこちらで用意するから安心してくれ」
急には思いつかず「う~ん」と唸ってると、ニカっと笑いながら王様が言ったのでお礼を言ってとりあえず解散になった。当たり前だけど王様達も暇じゃない。なぜか夕食は絶対一緒に食べようとすごい勢いで言われた。その勢いに押されて思わず了承してしまった。
案内された客室に入りやっと一息つく。みんながいてもやっぱり知らない人といるのは疲れるな。
「さっきの王様すごかったね。そんなにみんなとご飯食べたかったんだね。みんなに言えないから私に言ったのかな?」
そう言うとみんな「何言ってんの?」みたいな顔してこちら見た。な、なに?
「あいつらはお前と食いたかったんだろ。俺達とももっと話しをしたいって思ってはいるだろうが、一番はお前だろうよ」
「なんで?」
「……」
私なんかよりみんなの方が偉いしすごいのになんで?と聞けば、アズールは不機嫌そうな顔をして黙ってしまった。なんでよ!
近づいて眉間のシワをグリグリと伸ばす。抵抗されないから、そのまま顔全体を撫でまわす。不機嫌な顔は変わらないけど尻尾は嬉しいのかゆっくり揺れてる。
ふふふ…恥ずかしくて言えないけど、お主が実は撫でられるのが大好きっていうのは知っているんだからな!私は抵抗されないのをいいことに思う存分アズールを撫で回す。自分でも思ってたより疲れてたみたい。撫でるごとに心が癒されていく。
思う存分全身撫でまわした私は、いつの間にか横になったアズールのお腹に埋もれながら寝てしまった。
*
「寝てしまったのかい?」
「ああ、疲れてたんだろう」
さっきまでの不機嫌そうな雰囲気を一切消し、優しい顔で自分の腹で寝るルミを見つめるアズール。瑠美が見たらアズールの偽者なんじゃと疑うレベルだ。
「主の難儀な性格も理解しているが、ルミの前でもそんな風に素直になればもっと撫でたり甘えたりしてくれるだろうに」
「…うるせえ」
「今更そんなことこいつに言ったって無駄よ~。どんなにがんばったって恥ずかしいから~って無駄にツンツンしちゃうんだから~」
「あまり笑ってやるな」
カラカラと笑うセレナを一応は注意するアンバーだが、アズールを見る目は「もったいないな」と言ってるようだった。アズールはそんな二人を「フンッ」と鼻を鳴らしながら視界から消し、もう一度自身の腹で眠る瑠美を見る。
アズールとて甘えたくない訳じゃない。じゃれてるセレナやアンバーを見ていいなと思うが、いざ自分がと思うと気恥ずかしくて出来ないしつい乱暴な言葉やバカにするような言葉が出てきてしまう。その度に、表には出さないが気分が落ち込んでいる。
それでもルミはなんとなくでも分かってくれているのか、こちらの暴言にも気にした様子もないし言い返してくることも多い。そしてアズールがいけない代わりに、ルミから抱きついたりじゃれにきてくれる。だからきてくれた時ぐらいは大人しくされるがままになる。
「それにしても…さっきの人間達は随分ルミと仲良くなりたいみたいだね」
ジェットがさっきのことを思い出しながらため息と共にこぼす。その顔にははっきりと不満だと書いてある。もしこの場に国王達がいたら全力で謝罪していただろう。
「ルミはかわいいんだから当たり前よ~!」
「我らとて聖王だが…それを伝えても驚きはしていたがそれよりもルミ関心の方が強かったようだしな。ま、ルミなら仕方ないがな」
セレナとアンバーの言葉に「うんうん」と頷くジェットとアズール。瑠美に害さえなければ自分達を二の次にされようと気にはならない。むしろ自分達より瑠美の方が気になるのは当然のことだと、それが当然だと思っている。瑠美が起きていたら全力で「ありえない!」と否定していただろうが……生憎今は夢の中だ。
「とりあえず夕食まで時間があるけど…どうする?」
「俺はこのままだ。どうせしばらく起きないだろ」
「私は影に入ってその辺ブラブラしてるわ~」
そう言うとセレナは自身の影にトプンっと入ってしまう。森では使う機会もない為瑠美は知らないが、セレナだけじゃなく全員影の中に入り自由に移動できる。影がある場所になら何処でも自由に移動可能。
「我もここにいる」
「じゃ僕はルミの寝巻きでも作ろうかな」
*
瑠美達と別れ、ダルダとカイは騎士団、クラウスは魔法省へと戻っていきジンとルドルフもいつもの執務室へと戻ってきていた。
「…ルドルフ」
「なんですか」
「今すぐ部屋を用意しろ」
鬼気迫る顔で何を言ってるんだこの男は。
そう思いつつも「わかりました」と部屋を出て行くルドルフ。誰の、とか何の、と聞かなくても分かってるあたり、彼も王のことを馬鹿に出来ない。彼は彼女にぴったりの部屋を用意すべく自ら指示を出す。
王も王だが宰相も宰相である。