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お菓子って素晴らしい

 実は、普通に挨拶したけど私もちょっと驚いてる。


 何にって?目の前の男二人の大きさにですよ!白髪の人はジェットと同じぐらいだし、栗色の髪の人にいたってはもっと大きい。しかもガタイもいいから、まさに大男。ほんとにおんなじ人間ですか?

 

 ジェットは元がドラゴンだからね~とか勝手に思ってたけど違うの?この世界の標準?そしたら酷使しすぎて死ぬことになるんですけど。


 私の首が。


「あ~…ちょっといいだろか。さっきも思っていたんだが、貴方方が…聖獣様…っていうことでいいのか?」


「ええ、そうですよ。でもこの子…ルミは違いますよ?この子は私達の愛し子です」


「…その聖獣様と愛し子様が我が国に遊びに来たいと?」


 くだらないことを考えてると話が進んでいく。ああ、やっぱり遊びに行きたいとしか言わなかったんだね。見てよ、まだうまく情報処理出来てませんみたいな顔してるじゃん。


「なんだあ?俺らが行って不都合でもあんのかぁ?」


「!!?いえっ!そんなことありません!!」


 何でそんな喧嘩腰で言うのかな?私達がお邪魔する側だからね?でもこんな失礼な態度なのに気にしてないし、態度も低姿勢。みんなって忘れてたけどすごい存在だったんだね。こんな大男が慌ててるのなんかかわいいな。


「じゃあ早く移動しようか。ルミが疲れちゃうからね。君達は何で帰る予定だったんだい?」


「転移用の魔道具があるのでそれを使います」


「じゃあ僕達もそれで行こうか」

 

「あの!大変言いづらいのですが、この帰還用の魔道具は私達二人しか設定されていません!なので……全員を一度に帰還させるのは難しいかと…」


 白髪の人の言葉に当たり前のように言うジェット。みんな何も言わないから全員同じ考えなんだろうな。…偉そう。いや、実際偉いんだろうけど…偉そう。そしてその態度に更に申し訳ないようにシロくんが断りをいれている。いやこんなの想定外もいいとこなんだがらそんな申し訳なさそうにしなくていいだよ!…とは初対面の人に言えない私。


「不便なものだな。ならばまずセレナだけ連れて行け。聖獣は人間ではないから平気だろう」


「そうね〜。そしたらまた私が戻ってみんなを連れてくればいいわね〜。ちょっと面倒だけど」


 彼らに拒否権なんてものはなく、こっちで勝手に問題解決。せっかく出したであろうテントを素早く片付けさせ、その間私はアンバーの上に乗せられ待機。せっかく森から出たというのに地面とオサラバするのが早かった。


 あっという間に片付き、魔道具を持ってるシロくん(白髪の人)の周りに集まる。セレナはシロくんの肩の上だ。


「……それでは発動させます」


 そう言うと、手の魔道具に集中するシロくん。たぶん魔力を送ってるんだろうな。


 やがて魔道具に刻まれた魔法陣が淡く光り出したと思ったら、次の瞬間にはもう二人とセレナの姿は無かった。と思ったら瞬きの間にセレナがもう戻ってきていた。早くね?

  

「ただいま〜。じゃあ私達も行くわよ〜」


 ピョンっとアンバーの背中に飛び上がりながら言うとふわっと少しの浮遊感がして知らない部屋に転移してた。私の心構えなんて関係ないですか?そうですか。


 軽く部屋を見回してみるけど…殺風景な部屋だなあ。シロくん達を見ると私達から離れて何やら二人で話をしてる。それを静かに眺めてると、話がまとまったのかシロくんが近づいてくる。


「申し訳ありません、私は先に上へ行き皆様のことを報告させていただきます。ですが、皆様には私が戻るまでこちらでお待ちいただきたいのです」


 シロくんの眉が少し下がる。まあこんな窓一つ、椅子一つない部屋に聖獣を放置するのは気が引けるよね。私?私はほら、アンバーの背中に乗ってるから。


「ここ、王城の地下なんですわ。なんの周知もさせず姿を現せばこっちが大混乱必須なんでご理解ください」


「いきなり付いてきたのは我らだ。少しぐらい待とう」


 アンバーの返事にほっとしたシロくんは、礼をして部屋の奥にあった階段で上へ駆けて行った。そうか、ここは地下なのか。シロくんはどれくらいで戻ってくるかな~あんまり長いと帰りたくなっちゃいそう。市役所とかもそうだけど、私しばらくお待ち下さいって待たされてる時間あんまり好きじゃないんだよね。


「おっそうだ。嬢ちゃん、甘いの好きか?」


 アンバーの上でモフモフしながらぼーっとしていると、大男が声をかけてきた。見るとその手にはかわいくラッピングされたクッキーの袋が。この中で嬢ちゃんに当てはまるのは私だけだよね?果たしてお嬢ちゃんという年なのかは別として。


「好き…だと思います」


 何とも曖昧な答えだとは思うがしょうがない。だって最後にお菓子を食べたのがいつか思い出せないんだもん。いつからか、食事なんてただお腹を満たすだけの行為になってたからなあ。家政婦さんがいなくなってからはずっとコンビニのお世話になってたし。


「嫁さんがこういうの作るの好きでなあ、よく持たされるんだ。待ってる間暇だろ?これでも食ってな」


「ありがとうございます…」


 アンバーから下りて受け取った袋を開ければ、バターのいい匂いがふわっと広がる。一つ口に入れれば、サクサクとした軽い食感とやさしい甘さが口に広がる。


「おいしい…!」


 本当にシンプルなただ丸く型で抜いて焼いただけのクッキー。クッキーってこんなにおいしい物だったっけ。


「そりゃよかった」


 思わず口からでた感想に、大男さんは嬉しそうに笑ってる。あっ、奥さんが作ってるって言ってたもんね!奥さんまじ天才だよ!あなたは幸せ者だね!


 お菓子ってこんなにおいしかったんだ。ロロの実しか食べてなかったっていうのもあるだろうけど、特にお腹が空いてるわけでもないのにもう一枚もう一枚となかなか手が止まらない。みんなにも「食べる?」と聞いたがいらないと言われてしまった。おいしいのに。


 目をキラキラさせながら大事そうにゆっくりとクッキーを食べる瑠美を、その場にいた者全員が微笑ましそうに見ていた。そんな瑠美からクッキーを分けてもらうなどするわけ無いとアンバー達は心の中で呟く。そして若干一名…幸せそうな瑠美を見てこれからはお菓子作りも極めなければ…と固く決意する者が……。


 もちろんジェットだ。長く生きている彼もお菓子までは作ったことは無い。そもそも必要ない。まずはこのクッキーを作った人間に聞いてみるか、それともすでに完成された物を…。いや、瑠美を喜ばせる物はやはり自分の手で作りたい。


 ブツブツと呟く言葉は瑠美が聞いていればそこまでしなくてもいい!と言ったかもしれないが、その本人は未だクッキーに夢中で気づくことはなかった。

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