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聖堂街のマンティーデ

 シガールたちの元に戻ると、コーラカルが居ないことで騒ぎになっていたが、マイと一緒に戻ってくると皆安堵した。「勝手な行動はするな」とシガールに注意されると、コーラカルは素直に謝った。


「反省したならいい……しかしいつの間に、俺たちに気づかれもせずに」

「申し訳ありません」

「まあ、無事ならそれでいい」


 出発の合図が出され、鶯たちは再び目的地へと歩を進めて行った。

 

「コーラカルさんが来たことアダンお兄ちゃんたちは気が付かなかったの?」

「我々も気が付かなかった、そうだろうアダン君」

「ああ、まったく」

「へぇー! ねえねえ、どうやって移動したの?」

「……分かりません。気が付いた時にはマイ様のお背中が……」

「分からないってことは無いだろう。僕たち誰も気が付けなかったんだ。なにか気配の消し方でも知ってるんじゃないのか。だったら応用すれば何か……」

「まあいいじゃん! 私はあの時コーラカルさんに声かけて貰って嬉しかったよ」


 マイは歯を見せて笑った。「そういう問題じゃない」と食い下がるリュシオルだったが、コーラカルの返事が要領を得ないのでやがて諦め、また皆でとりとめのない話をしながら歩を進めた。そうして進んでいると、日が傾き始めるころには目的地の聖堂街が見えてきた。

 石造りの建物はまだ健在だったが、人の気配はなかった。そこかしこの地面にへばりつく様に不気味な草が生えている。まるで人間の血管をより集めたような薄気味悪い草だったが、これが蟲除草と呼ばれる蟲よけの草だった。この草を藁などに編み込み、焼くことで立ち昇る煙は蟲たちを退散させる効能がある。下級の蟲には非常に効果的だが、ある程度の強さの蟲には効かないこともあるので油断は禁物である。


 アダンたちは腰を下ろし、宿泊の準備を始めた。暗くなる前に火をおこし、寝袋を敷き、蟲除草を焚いた。ふと、コーラカルがひとつの銅像を見ているのに気が付き、アダンとマイが彼女に近づいた。


「なにしてる」

「こちらの像は……どなたをモデルにしているのでしょうか」

「ああこの人は確か……なんだっけ」


 マイが頭をひねって唸ると、後方から「マンティーデだよ」とリュシオルが声をかけた。


「この街を守ってた英雄さ。聖騎士マンティーデ。碧石なしで蟲に立ち向かってたとか。誰からも慕われる……シガールみたいな人だったみたいだね」

「お前ほんとにシガールが好きだな」

「うるさい、別にいいだろアダン。でも、数年前から行方不明。その間に聖堂街もすっかり人がいなくなった。残った連中は聖騎士様への信仰を捨てきれず……」


 リュシオルが「後を追ったってわけさ」と顎で指した方には、墓碑とも言えない粗末な石の塊があった。近づいてみてみると、乱雑に名前が彫られており、マンティーデに対する賛辞も刻まれていた。


「数年前、ですか……まだそれまで時は経っていないのですね……」


 どういう意味かと尋ねるアダンの問いには答えず、コーラカルは静かに目を閉じていた。まるで何かに、誰かに祈りを捧げるように。感情のないコーラカルに、僅かな哀しみを感じた。何か声をかけようとしたアダンだったが、グリレの声がそれを遮った。


「ち、調理場に敵がいないか一緒に、みてくれない……?」


 アダンが了承するとグリレは下手な笑みをみせ、アダンは「いい笑顔だ」と言ってグリレと一緒に調理場へ向かった。


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