「僕が君なら、より怪しいと考えるね」
剛袁が岩から降りて、烏有をにらみつける。
「裏があるとしか考えられませんね。そんなことをして、貴方になんの益があるというのです」
「中途半端な説明は、かえって疑いを深くしてしまったようだね」
「当然です。貴方がもし、俺の立場だったとして、その説明で納得ができますか?」
「いや」
烏有も岩から降りた。自分より、ひとまわり以上も大きな体躯の剛袁に、挑むような目を向ける。
「僕が君なら、より怪しいと考えるね」
「それなら、きちんと教えてください」
「君が僕に身の上を語ったのは、僕が君を信用していないと考えてのことなのか、相手に問う前に自分が語るべきだと思ったのかは知らないけれど、言われたままを信じるほど、僕は純粋な人間ではないよ」
剛袁が下唇を噛む。烏有はそれに、好意的な視線を向けた。
「君の話は真実だろう。僕はそう感じたよ。そこまで、ひねくれてもいないからね。……ねえ、剛袁。君はどうして、蕪雑を兄と慕っているのかな」
「話を逸らさないでいただきたい」
「逸らしていないよ。答えてくれ、剛袁。君が、どうして蕪雑を兄と呼んでいるのかを」
剛袁は射抜くほどに鋭い目で烏有をにらみつつ、唇を開き、迷わせた。
「俺が、蕪雑兄ぃを支持しているのは……」
言葉を探す剛袁の目を、烏有の視線が絡め取る。わずかな揺らぎすらも読み取ろうとする烏有に、蕪雑は悔しげに顔をゆがめた。
「そういうことだよ。それとおなじものを、僕も感じた。だから蕪雑を信じている。僕の夢を、彼に託したいと思ったんだ」
言葉を選べぬ剛袁に、烏有は艶やかにほほえんだ。夢に酔う烏有の笑みに、剛袁が舌打ちをする。
「その顔が演技だとしたら、相当な腕前ですね。最上の詐欺師になれる」
吐き捨てるように言って背をむけた剛袁に、烏有は「そこまで器用じゃないよ」とつぶやいた。
「貴方自身は信用できませんが、蕪雑兄ぃへの信頼を疑う必要はなさそうです。……貴方の夢が、我等の不利益にならぬよう、俺がしっかりと監視をさせていただきます。いいですね」
「もちろんだ。君のような人が、蕪雑のそばにいると知れて、安心した」
「新参者に言われたくはありませんね」
剛袁が簡易にこしらえた寝床へと戻って行くのを、烏有は見送った。
「新参者だからこそ、できる提案もある。いろいろな地域を旅してきた僕だからこそ、蕪雑という人間に夢を託そうと思えたんだよ」
それは剛袁への言い訳のようにも、ざわめく自分をなだめようとしているようにも聞こえた。
握ったままの横笛を口元に当て、烏有は静かに音を奏でる。それは川音とたわむれるように、風に流され夜気に沈んだ。




