「とりあえずさ、飯、食おうよ」
「蕪雑」
烏有はキッパリと首を振った。
「わかっているんだろう」
蕪雑の肩が落ちる。
「わかってるけどよぉ、納得できねぇよ。烏有が持ちかけなきゃあ、俺ぁ山の集落を出て、よそに村を造るってことすら、思いつかなかったんだからさ。明江は烏有から、はじまってんのによぉ」
くやしげにする蕪雑の姿に、烏有は唇を引き結ぶ。そんな彼を、玄晶はおもしろそうに、剛袁は物言いたげに見た。
「あのさ」
袁燕が口を挟む。
「とりあえずさ、飯、食おうよ」
全員の視線を受けて、袁燕はぎこちなく笑いながら、両腕をひろげた。
「冷めちゃったら、もったいねぇしさ。府にするとかなんか、連絡くるのは先なんだろ。だったらさ、いまは視察が来て、手ごたえがありそうだってことを喜んで、おいしく飯、食おうよ」
なあ、と訴える袁燕に、ほかの皆が顔を見合わせる。
「ああ、うん。そうだなぁ、そうするか」
蕪雑が苦笑しつつ頭を掻けば、玄晶も同意する。
「そうだな。せっかく視察団が帰って、ホッとしたところだからね。硬い話は、やめておこうか」
剛袁が安堵に頬をゆるめ、そうですねと相づちを打った。
「それなら前祝いということで、すこし奏でさせてもらうとしようか」
烏有はおもむろに立ち上がり、横笛を取り出した。自分が楽士であることを、皆と自分に言い聞かせ、納得をうながすために。
唇をあて、ゆるゆると音を紡ぐ。
誰もが音に身をゆだね、これから先に思いを馳せた。