第76話:ロク、復活
真赤な空の下、俺は目を覚ました。多分、夕焼けだろう。
何か夢を見たような気がするが、思い出そうとするほどにイメージは薄れて、つかみどころがなくなってしまう。
その時点で、自分が目を覚ましていることに改めて気が付いた。
生きてることに、驚いた後。猛烈な勢いでホッとした。
生きているって素晴らしい。
ホッとした瞬間。意識を失う前の出来事が鮮やかにフラッシュバックする。
具体的にはミラとリヨンの事。二人はどうなったのか。
勢いよく起き上がり、あたりを見回す。遠くに、夕日に照らされた砦が見えた。
思わず駆け出しそうになるが、思いとどまる。
今、あそこに行ってもどうしようもない。
ミラも、リヨンもとっくに逃げているだろう。そもそも、俺はどのくらい寝ていたのか。
ミラとリヨンがどうなっているのか。心配だが、今の俺に分かるはずもない。
腕を組んで考えようとして、俺は気が付いた。
腕が細くて短い。いや、手だけじゃない。胴も足も小さくなっている。
立ち上がって、自分の体をよく見てみる。
やはり、小さい。人間の子供みたい。身長1メートルってところだ。
なんでこんなことに、と考えたところすぐに心あたりが見つかった。
これは多分、ドリさんの秘策と自称勇者の攻撃のせいだ。うん、きっとそうだ。
正確には、生き延びたのはドリさんのおかげ。小さくなったのは勇者のせいだ。
この砦に向けて出発する前に俺はドリさんに1つのアドバイスを貰っていた。万が一の時に生き残る可能性をあげる秘策だ。
それは俺の中にある“核”を分かりにくいところに移動しておくこと。
武骨で丈夫な岩の塊で出来ているゴーレムの身体だが、弱点あるいは急所という部分がないわけではない。
ゴーレムの弱点、それは“核”。俺の本体と言ってもいい。
ゴツくデカい身体はこの核が操るパワードスーツみたいなもので。
つまり、核さえ無事なら体の他の部分が壊れても命に別状はないのだ。
この核は大抵の場合、胸か頭、少なくとも胴体にはあるらしい。だが、ドリさんは俺にその位置を変更するように言ったのだ。
はじめは、そんなことできるのかって思った。それでも何日か試行錯誤していると、少しずつ体内を移動させる感覚みたいなものが分かってきた。
結果、勇者との戦闘の時、核は俺の下半身。左太ももの後ろ側辺りにあった。
いやぁ、足が切られずに済んでよかった。
核の存在が奴らにバレていたら危なかったかも知れないが、実は岩石精って結構レアな魔物らしいから、そこまで生態が解明されていなかったのだろう。
とにかく、助かってよかった。ドリさんには本当、足を向けて寝られないな。
それにしても、勇者のあの攻撃は何だったのだろうか。
仮にも岩石である俺の身体を絹ごし豆腐のように切断して見せるなんて普通じゃない。
勇者がすごいのか。それともあの日本刀に似た剣がすごいのか。どうも、両方の気もするが。
切れ味だけではない。斬られた後のあの感覚。今思えば、あれは普通に斬られたモノとは違った。
例えば、海神龍アペシュが俺の腕をもいだ時とは違った。
アペシュと戦った時はダメージは相応にあったものの、もがれたそれはまだ俺の腕だった。
実際、もがれた所をもう一度くっつける形で身体を直したのだ。
しかし、勇者に斬られた時は違った。
切断された瞬間。それは俺の腕ではなく、完全に死滅した石くれと化してしまったように感じた。
“魔物殺し”そんな言葉が脳裏に浮かび、俺は我知らず身震いをした。
おそらく、当たらずとも遠くない能力だろう。
確証はないが、おそらくその能力のせいで俺の身体は小さくなってしまったのではないか。
他の部分は死滅し、核を含んでいた塊から頭と四肢が再構成されたのだ。
元のサイズ。というか、強さに戻れるのだろうか。非常に心配になる。
とは言え、今は悠長に思い悩んでいる場合ではない。ミラやリヨンのために、一刻も早く行動を開始すべき時だ。
色々と考えているうちに、この体のいい面も思い浮かんできたことだし。
俺は立ち上がり、砦に向けて歩き始めた。目的は情報収集。
戦闘力は全く期待できないが、この体はこの体でいいところがある。それは目立ちにくいことだ。
以前の巨体では、どんなに静かに移動しようとしても限界があった。
でも、今は違う。この身体ならこっそりと砦に接近、侵入しミラとリヨンの情報を手に入れることも不可能ではないはず。
まあ、見つかってしまった場合、即座に人生終了の恐れがあるのがネックだが。
物音をたてないように気を付けながら、全速前進。
するのだが、一向に砦が近づいてこない。原因はすぐに分かった。俺のコンパスが小さすぎるのだ。
今までの身体とは一歩の距離が違いすぎる。
ちょっと、焦る。
冷静に考えれば焦る必要はないはずだが、ミラとリヨンが心配で一刻も早く情報が得たいのに、体がついてこない。
焦っても仕方がない。でも、焦る。俺は必死に足を動かした。




