第21話:イスタ村騎士団入団試験
従来の「ゴレむす」から「岩石精(ゴーレム)に転生したら養女(むすめ)ができた。」へ、タイトルを変更しました。
天気が良く、日差しの暖かいある日。
子供たちを歓迎しているかのような、明るい光で満ちた村はずれの広場で、イスタ村のガキ大将・シレンは上天気に似つかわしくない厳めしい表情を作っていた。
シレンの前に立つ4人の友人たちの顔にもキリッとした緊張感が漂っている。
並んでいるのはシレンから見て右から、キタイ、ロタール、ハンクの娘のネリ、そして村の新入りであるミラだ。キタイは何に使うのか、長い棒を手に持っている。
シレンは息を吸い込むと、腹から元気のいい声を出した。
「いまから、イスタ村騎士団の入団試験をはじめる。入団希望者は名をなのれ。」
「はい!ミラです。おねがいします。」
「ね、ネリです。」
間髪入れずに、手を挙げて返事をしたのはミラ。反対に、ネリはどことなく遠慮した様子だ。
「よし、いまから試験をはじめる。ないようは俺たちといっしょに探検することだ。探険中の行動をみて騎士にふさわしいか判断するぞ。」
「はい、たいちょー!!」
「え、た、たいちょう?」
ミラ、ノリノリ。シレンを隊長と呼び、敬礼までしている。ネリは急なフリに対応しきれずオロオロ。
シレンは隊長と呼ばれて嬉しそうだ。
騎士「団」なのに、「隊」長なのかよ。というツッコミを行うものはこの場にいない。
「よし、それでは全速前進。」
シレン隊長の号令により、騎士団と入団希望者2名は村に沿って歩き出す。
ポカポカと暖かい原っぱは、歩いているだけでもなんだか楽しくなるようだった。
しばらく行くと、5人の前に小川が現れる。
幅は2メートルほどだろうか。流れは緩やかで、深さも精々子供の膝までだ。しかし、水の流れに少しずつ削られて、5人が立っている地面から水面までは2メートルほどの斜面になっていた。
今にも、水遊びを始めそうなミラとネリ。
シレンはそれを制止した。騎士たる者、水遊びにうつつを抜かすようではいけないのだ。
そして、キタイに向けて言う。
「よし、まずは俺たちが見本を見せるぞ。」
「まかしといてよ。」
言われたキタイも心得たもの。川から少し離れると、持ってきていた棒を構えた。
ずいぶん長い棒だ。優に3メートルはあるだろう。
何をするのかと、固唾をのんで見守っているミラとネリ。
キタイが川に向けて走り出す。斜面の縁まで来たところで、エイヤとばかりに川の真ん中に棒を突き立てて、そのままジャンプ!
そのまま、いわゆる棒高跳びのような要領でグイーンと向こう岸に着地した。
「わあ、すごーい!」
歓声をあげるミラ。ネリも手を叩いている。
照れるキタイ。得意げな表情が対岸からも見てとれた。
シレンとロタールはその様子に内心「自分がやればよかった。」と思った。
「いまのを見たな。騎士には、勇気が必要だからな。それを見せてもらう。」
気を取り直したシレンがそう言うと、ミラとネリが肯いた。
ミラの目は、自分の番が待ちきれないとばかりに輝いているが、ネリは少々不安げだ。
キタイがもう一度同じ要領で戻ってくると、ミラがやる気満々で棒を受け取った。
そのまま構えると、勢いよく走り出す。
「とー!!」
気合諸共、ジャンプを決め。そのまま見事に向こう岸に着地。
「わーい、やったよー!!」
両手を広げ、飛び跳ねて喜ぶミラ。シレンも声をかける。
「よーし、上出来だ。もう一回やって戻ってこれるか?」
「まっかせてよー。」
そう言いながら、もう跳んでいる。着地は今度もバッチリだ。
「はい、ネリちゃんの番。」
ミラが笑顔で差し出した棒を、ネリはどこか恐々と受け取った。しかし、意を決したような表情で後ろに下がると、二人と同じように棒を構えた。
スピードが足りていないのは、すぐに分かった。
スタートこそ、元気が良かったネリだが、踏切前に怖くなったのか減速してしまったのだ。
いっそ止まってしまえばよかったのだが、棒を川底に突き立てて、半端な速度で飛び出してしまう。
微妙な速度。勢いが足りずに元の岸に戻って来るならまだいいが、下手をすると真ん中あたりで力尽き、川へ向かって横倒しになりかねない。
見ていた4人の顔が青くなる。
「ネリちゃん!!」
ミラが思わず叫んだその時。不意に背後から風が吹いた。
突風に助けられるようにして、ネリはフラフラと向こう岸に着地すると、4人の方を振り返った。
「や、やった。できたよー。」
笑顔で手を振るネリ。ミラたちもホッとして笑顔になった。
ネリがもう1回、今度はしっかり跳んだあとで、シレンとロタールも同じように一往復。
皆がやり終わったところで、近くの橋を渡って先に進むことになった。
第1の難関を超えた騎士団+αは意気揚々と歩を進めていく。ミラとネリはリヨン直伝の唄を歌ったりしていた。
そんな風に歩いていくと、今度は大きな木が見えてくる。村の誰よりも長生きな巨木だ。
大人でも抱えきれない太い幹の前で、シレンが腕を組んだ。
「騎士には、“ものごとをみとおす高い視点”が必要だ。だから、お前たちにはこの木に登って“高い視点”を手に入れてもらう。」
違う。そうじゃない。
「騎士には何が必要か?」という、シレンの質問に村の顔役・セロウは確かに「ものごとをみとおす高い視点」と答えた。
だが、それは物理的な意味での視点の高さではなく、あくまで精神的な、目先の利益に惑わされない大局的な考え方の事だ。
でも、もう遅い。セロウには言葉が足りず。シレンには頭が足りなかった。まあ、まだ子供だからしょうがない。
他の子供もそんなことは気にしない。特にミラは木登りが得意だ。なんせ山育ちの自然児。
「はい、たいちょー。りょーかいしました!!」
と、敬礼するやスルスルと登っていく。
ロクが見ていたなら。
「ミラ。スカートでそんな風にするんじゃない。はしたないぞ。」
と、小言を言われたかもしれないが、今はいないので関係ない。
「わぁ、ミラちゃん、すごーい。」
ネリに歓声をあげられて、ミラも得意げである。
「ネリちゃんもおいでよー。」
ミラがそう呼びかけると、ネリも恐る恐る気に手を掛けた。
この木のことは知っていたが、登るのは初めてである。シレンたちと遊ぶことは以前からあったが、木登りはいわゆる「男の子の遊び」であって、ネリは「女の子」なのだ。
ミラ?アイツはもっと別の何かだ。
そんなネリだから、木に手をかけたもののなかなか登ることができない。ミラとちがってスカートを気にしていることも理由の1つだ。
シレン、キタイ、ロタールも既に登っていたが、キタイが見かねてシレンに提案した。
「隊長。この木はちょっとむずかしいし、てつだってやろうよ。」
言われてシレンも考える。
「そうだなー。ま、いいか。じゃあ、俺が下から持ち上げるから、ロタールと枝の上からひっぱってくれよ。」
「りょーかい。」
シレンは一度根元まで降りると、ネリの前に左膝をつき、両手を木の幹にあてて体を安定させる。
その後で、どうしたらいいのかわからずに戸惑っているネリに言う。
「いいか、俺の少し上に途中で折れた枝があるだろ?」
「う、うん。」
ネリが肯くのを確認して、シレンは言葉を続ける。
「まずは俺の右ひざを足場にしてその枝をつかめ。それが出来たら今度は枝を支えにして俺の肩に乗るんだ。」
「わ、わかった。やってみる。でも、」
「なんだ」
「やってるあいだ、うえ見ちゃだめだよ。」
ネリのこの台詞に、シレンがおののいた。
「な、なに言ってんだ。そんなの見るか!!」
思わず、大きな声が出る。キタイとロタールが動揺したシレンを胡乱なものを見る目で見つめている。
ネリはシレンが約束してくれて安心したのか、ニコリと笑った。
「よ、よし、やってみろ。」
気を取り直したシレンが促すと、ネリは一生懸命な表情で行動を開始した。
言われた通り、シレンのひざを足場に体を持ち上げて枝をつかむ。続いて、階段を上るようにして肩へと移動した。
「よし、肩にしっかり乗ったな。そのまま木の方に手を突いてもたれておけよ。今から俺が立ち上がるから、そしたらキタイとロタールに両手を捕まえてもらって、みんなのいる枝にとびうつれ。」
ネリを肩に乗せたまま、シレンが何とか立ち上がる。ふらつきそうになったネリの手をキタイとロタールがキャッチする。
半ば引きづり上げられるように、ネリが枝に移る。見ていたミラが歓声をあげ、ネリもそれに応える。
「ネリちゃん、やったー!!」
「やったー。隊長、ありがとー。」
隊長と呼ばれて、思わずシレンは上を見た。見てしまった。
そう、ネリに「見るな」と言われてたのに、ネリはスカートを気にしてたのに。
「あ」
その声が誰のものだったかは定かではない。
確かなことは、結果としてイスタ村騎士団隊長の地位がわずかに低下したことだけである。
しばらくの後、太い枝の上に5人は並んで座っていた。先程まで、隊長が一部隊員にジト目で見られていたが、今はとりあえず落ち着いている。
「ねー、隊長。次はどうするの?」
一通り木登りを終えて満足したのか。ミラがシレンに尋ねる。
尋ねられたシレンは腕を組むと、マジメな顔で口を開く。
「ミラもネリもよくやった。俺からはもう言うことはない。入団試験は2人とも合格だ。」
やや、唐突な宣告だったが、ミラとネリは手を取り合って喜んでいる。キタイとロタールも異議はないのか笑顔だ。
ひとしきり喜びを分かち合った後、ミラが思い出したように言う。
「あ、でも。試験がもうないってことは、今日はもう終わり?」
名残惜しそうに、呟くミラ。
シレン、それにキタイとロタールはそれに対して、心配するなとばかりにフフフ笑いを返した。
代表して、シレンが話を進める。
「いや、ここからが本番だ。騎士団のつとめは村の平和を守ること。つまり、村に巣くっている魔王の手先を倒すことだ。覚悟は良いか。」
シレンが見返す。騎士団の精鋭たちの表情にはやる気が満ちている。
「よし、いくぞ!」
「おぉ~!」
掛け声を交わし、騎士団は改めて進軍を開始した。
ミラたちがひょいひょいと枝から下り、それからネリが、登るときと同様にシレンに足場になってもらって、ゆっくりおりる。
今度は上を見上げるような失敗を犯さなかったシレン。
先を行く3人を、シレンは急いで追いかけようとする。しかし、ネリの声がそれを一旦押しとどめた。
「あの、隊長。ちょっと、おねがいがあるんだけど。」
「うん?なんだよ。」
シレンが足を止めて問いかけると、ネリは申し訳なさそうにその「おねがい」を口にした。
※ここから、ロク視点に切り替わります。
「フハハハハハハ。よく来たな騎士団め。今日こそは貴様らを倒し、この地に永遠の暗闇をもたらしてやろう。」
魔王の手先は今日も滑り台の上で、悪魔笑いを繰り出していた。滑り台の下ではシレンたち、イスタ村騎士団がこちらを見上げている。
これだけだと普段通りのようだが、今日はいつもと違うことがいくつかあった。
1つ目、騎士団の数が多い。
「魔王の手先め、かくごしろー!!」
そう言って、先頭を駆け上がってくるのはミラだ。俺が棒で足を軽く払ってやると、声をあげて滑り落ちていった。
笑い声をあげて、どこまでも楽しそうだ。
2つ目、新しい役が出来た。
「騎士のみんな、たすけて~。」
ネリちゃんが、俺の横に座って騎士団の4人に助けを求める。
これはつまり、「囚われのお姫様」と言うことだ。
「おのれ~。人質をとるとは、ひきょうだぞ!!」
「いま、おたすけします!!」
などなど、騎士団の面々も新たな設定にノリノリだ。
どうやら、元々は5人とも騎士の予定だったのだが、ネリちゃんが姫役に志願したらしい。
実に女の子らしい参加方法だ。これが女子力と言う奴だろうか。違うのか、どうなのか。
俺は再び、自分の娘に目を戻す。
「姫をはなせ~!!」
うん、騎士の剣(木製)を元気よく振り回して飛び跳ねている。スカート履いてるのに。
まあ、最近はスカートの時も下に短パン履かせるようにしてるんだけど、親代わりとしてはもう少しお淑やかになって欲しい。
(まあ、無理だろうな。周りがアレだし。)
心中でため息をついたその時、俺が誰の顔を思い出していたか。それはヒミツだ。
ミラは野生児
シレン、騎士団の隊長に就任
ネリ、10年後には村の一番人気であろう
キタイは人畜無害
ロタールは空気




