↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/196

第21話:イスタ村騎士団入団試験

従来の「ゴレむす」から「岩石精(ゴーレム)に転生したら養女(むすめ)ができた。」へ、タイトルを変更しました。

 天気が良く、日差しの暖かいある日。

 子供たちを歓迎しているかのような、明るい光で満ちた村はずれの広場で、イスタ村のガキ大将・シレンは上天気に似つかわしくない厳めしい表情を作っていた。

 シレンの前に立つ4人の友人たちの顔にもキリッとした緊張感が漂っている。


 並んでいるのはシレンから見て右から、キタイ、ロタール、ハンクの娘のネリ、そして村の新入りであるミラだ。キタイは何に使うのか、長い棒を手に持っている。

 シレンは息を吸い込むと、腹から元気のいい声を出した。


「いまから、イスタ村騎士団の入団試験をはじめる。入団希望者は名をなのれ。」

「はい!ミラです。おねがいします。」

「ね、ネリです。」

 間髪入れずに、手を挙げて返事をしたのはミラ。反対に、ネリはどことなく遠慮した様子だ。


「よし、いまから試験をはじめる。ないようは俺たちといっしょに探検することだ。探険中の行動をみて騎士にふさわしいか判断するぞ。」

「はい、たいちょー!!」

「え、た、たいちょう?」

 ミラ、ノリノリ。シレンを隊長と呼び、敬礼までしている。ネリは急なフリに対応しきれずオロオロ。


 シレンは隊長と呼ばれて嬉しそうだ。

 騎士「団」なのに、「隊」長なのかよ。というツッコミを行うものはこの場にいない。


「よし、それでは全速前進。」

 シレン隊長の号令により、騎士団と入団希望者2名は村に沿って歩き出す。

 ポカポカと暖かい原っぱは、歩いているだけでもなんだか楽しくなるようだった。


 しばらく行くと、5人の前に小川が現れる。

 幅は2メートルほどだろうか。流れは緩やかで、深さも精々子供の膝までだ。しかし、水の流れに少しずつ削られて、5人が立っている地面から水面までは2メートルほどの斜面になっていた。


 今にも、水遊びを始めそうなミラとネリ。

 シレンはそれを制止した。騎士たる者、水遊びにうつつを抜かすようではいけないのだ。

 そして、キタイに向けて言う。


「よし、まずは俺たちが見本を見せるぞ。」

「まかしといてよ。」

 言われたキタイも心得たもの。川から少し離れると、持ってきていた棒を構えた。


 ずいぶん長い棒だ。優に3メートルはあるだろう。

 何をするのかと、固唾をのんで見守っているミラとネリ。


 キタイが川に向けて走り出す。斜面の縁まで来たところで、エイヤとばかりに川の真ん中に棒を突き立てて、そのままジャンプ!

 そのまま、いわゆる棒高跳びのような要領でグイーンと向こう岸に着地した。


「わあ、すごーい!」

 歓声をあげるミラ。ネリも手を叩いている。

 照れるキタイ。得意げな表情が対岸からも見てとれた。

 シレンとロタールはその様子に内心「自分がやればよかった。」と思った。


「いまのを見たな。騎士には、勇気が必要だからな。それを見せてもらう。」

 気を取り直したシレンがそう言うと、ミラとネリが肯いた。

 ミラの目は、自分の番が待ちきれないとばかりに輝いているが、ネリは少々不安げだ。


 キタイがもう一度同じ要領で戻ってくると、ミラがやる気満々で棒を受け取った。

 そのまま構えると、勢いよく走り出す。

「とー!!」

 気合諸共、ジャンプを決め。そのまま見事に向こう岸に着地。


「わーい、やったよー!!」

 両手を広げ、飛び跳ねて喜ぶミラ。シレンも声をかける。

「よーし、上出来だ。もう一回やって戻ってこれるか?」

「まっかせてよー。」

 そう言いながら、もう跳んでいる。着地は今度もバッチリだ。


「はい、ネリちゃんの番。」

 ミラが笑顔で差し出した棒を、ネリはどこか恐々と受け取った。しかし、意を決したような表情で後ろに下がると、二人と同じように棒を構えた。


 スピードが足りていないのは、すぐに分かった。

 スタートこそ、元気が良かったネリだが、踏切前に怖くなったのか減速してしまったのだ。

 いっそ止まってしまえばよかったのだが、棒を川底に突き立てて、半端な速度で飛び出してしまう。


 微妙な速度。勢いが足りずに元の岸に戻って来るならまだいいが、下手をすると真ん中あたりで力尽き、川へ向かって横倒しになりかねない。


 見ていた4人の顔が青くなる。

「ネリちゃん!!」

 ミラが思わず叫んだその時。不意に背後から風が吹いた。


 突風に助けられるようにして、ネリはフラフラと向こう岸に着地すると、4人の方を振り返った。

「や、やった。できたよー。」

 笑顔で手を振るネリ。ミラたちもホッとして笑顔になった。


 ネリがもう1回、今度はしっかり跳んだあとで、シレンとロタールも同じように一往復。

 皆がやり終わったところで、近くの橋を渡って先に進むことになった。



 第1の難関を超えた騎士団+αは意気揚々と歩を進めていく。ミラとネリはリヨン直伝の唄を歌ったりしていた。


 そんな風に歩いていくと、今度は大きな木が見えてくる。村の誰よりも長生きな巨木だ。

 大人でも抱えきれない太い幹の前で、シレンが腕を組んだ。


「騎士には、“ものごとをみとおす高い視点”が必要だ。だから、お前たちにはこの木に登って“高い視点”を手に入れてもらう。」


 違う。そうじゃない。

「騎士には何が必要か?」という、シレンの質問に村の顔役・セロウは確かに「ものごとをみとおす高い視点」と答えた。

 だが、それは物理的な意味での視点の高さではなく、あくまで精神的な、目先の利益に惑わされない大局的な考え方の事だ。

 でも、もう遅い。セロウには言葉が足りず。シレンには頭が足りなかった。まあ、まだ子供だからしょうがない。


 他の子供もそんなことは気にしない。特にミラは木登りが得意だ。なんせ山育ちの自然児。

「はい、たいちょー。りょーかいしました!!」

 と、敬礼するやスルスルと登っていく。


 ロクが見ていたなら。

「ミラ。スカートでそんな風にするんじゃない。はしたないぞ。」

 と、小言を言われたかもしれないが、今はいないので関係ない。


「わぁ、ミラちゃん、すごーい。」

 ネリに歓声をあげられて、ミラも得意げである。

「ネリちゃんもおいでよー。」

 ミラがそう呼びかけると、ネリも恐る恐る気に手を掛けた。


 この木のことは知っていたが、登るのは初めてである。シレンたちと遊ぶことは以前からあったが、木登りはいわゆる「男の子の遊び」であって、ネリは「女の子」なのだ。

 ミラ?アイツはもっと別の何かだ。


 そんなネリだから、木に手をかけたもののなかなか登ることができない。ミラとちがってスカートを気にしていることも理由の1つだ。


 シレン、キタイ、ロタールも既に登っていたが、キタイが見かねてシレンに提案した。

「隊長。この木はちょっとむずかしいし、てつだってやろうよ。」

 言われてシレンも考える。

「そうだなー。ま、いいか。じゃあ、俺が下から持ち上げるから、ロタールと枝の上からひっぱってくれよ。」

「りょーかい。」


 シレンは一度根元まで降りると、ネリの前に左膝をつき、両手を木の幹にあてて体を安定させる。

 その後で、どうしたらいいのかわからずに戸惑っているネリに言う。

「いいか、俺の少し上に途中で折れた枝があるだろ?」


「う、うん。」

 ネリが肯くのを確認して、シレンは言葉を続ける。

「まずは俺の右ひざを足場にしてその枝をつかめ。それが出来たら今度は枝を支えにして俺の肩に乗るんだ。」


「わ、わかった。やってみる。でも、」

「なんだ」

「やってるあいだ、うえ見ちゃだめだよ。」


 ネリのこの台詞に、シレンがおののいた。

「な、なに言ってんだ。そんなの見るか!!」

 思わず、大きな声が出る。キタイとロタールが動揺したシレンを胡乱なものを見る目で見つめている。

 ネリはシレンが約束してくれて安心したのか、ニコリと笑った。


「よ、よし、やってみろ。」

 気を取り直したシレンが促すと、ネリは一生懸命な表情で行動を開始した。

 言われた通り、シレンのひざを足場に体を持ち上げて枝をつかむ。続いて、階段を上るようにして肩へと移動した。


「よし、肩にしっかり乗ったな。そのまま木の方に手を突いてもたれておけよ。今から俺が立ち上がるから、そしたらキタイとロタールに両手を捕まえてもらって、みんなのいる枝にとびうつれ。」


 ネリを肩に乗せたまま、シレンが何とか立ち上がる。ふらつきそうになったネリの手をキタイとロタールがキャッチする。

 半ば引きづり上げられるように、ネリが枝に移る。見ていたミラが歓声をあげ、ネリもそれに応える。


「ネリちゃん、やったー!!」

「やったー。隊長、ありがとー。」

 隊長と呼ばれて、思わずシレンは上を見た。見てしまった。


 そう、ネリに「見るな」と言われてたのに、ネリはスカートを気にしてたのに。


「あ」


 その声が誰のものだったかは定かではない。

 確かなことは、結果としてイスタ村騎士団()長の地位がわずかに低下したことだけである。




 しばらくの後、太い枝の上に5人は並んで座っていた。先程まで、隊長が一部隊員にジト目で見られていたが、今はとりあえず落ち着いている。

「ねー、隊長。次はどうするの?」


 一通り木登りを終えて満足したのか。ミラがシレンに尋ねる。

 尋ねられたシレンは腕を組むと、マジメな顔で口を開く。


「ミラもネリもよくやった。俺からはもう言うことはない。入団試験は2人とも合格だ。」

 やや、唐突な宣告だったが、ミラとネリは手を取り合って喜んでいる。キタイとロタールも異議はないのか笑顔だ。


 ひとしきり喜びを分かち合った後、ミラが思い出したように言う。

「あ、でも。試験がもうないってことは、今日はもう終わり?」

 名残惜しそうに、呟くミラ。

 シレン、それにキタイとロタールはそれに対して、心配するなとばかりにフフフ笑いを返した。


 代表して、シレンが話を進める。

「いや、ここからが本番だ。騎士団のつとめは村の平和を守ること。つまり、村に巣くっている魔王の手先を倒すことだ。覚悟は良いか。」

 シレンが見返す。騎士団の精鋭たちの表情にはやる気が満ちている。


「よし、いくぞ!」

「おぉ~!」

 掛け声を交わし、騎士団は改めて進軍を開始した。


 ミラたちがひょいひょいと枝から下り、それからネリが、登るときと同様にシレンに足場になってもらって、ゆっくりおりる。

 今度は上を見上げるような失敗を犯さなかったシレン。


 先を行く3人を、シレンは急いで追いかけようとする。しかし、ネリの声がそれを一旦押しとどめた。

「あの、隊長。ちょっと、おねがいがあるんだけど。」

「うん?なんだよ。」

 シレンが足を止めて問いかけると、ネリは申し訳なさそうにその「おねがい」を口にした。



※ここから、ロク視点に切り替わります。



「フハハハハハハ。よく来たな騎士団め。今日こそは貴様らを倒し、この地に永遠の暗闇をもたらしてやろう。」

 魔王の手先(オレ)は今日も滑り台の上で、悪魔笑いを繰り出していた。滑り台の下ではシレンたち、イスタ村騎士団がこちらを見上げている。


 これだけだと普段通りのようだが、今日はいつもと違うことがいくつかあった。


 1つ目、騎士団の数が多い。

「魔王の手先め、かくごしろー!!」

 そう言って、先頭を駆け上がってくるのはミラだ。俺が棒で足を軽く払ってやると、声をあげて滑り落ちていった。

 笑い声をあげて、どこまでも楽しそうだ。


 2つ目、新しい役が出来た。

「騎士のみんな、たすけて~。」

 ネリちゃんが、俺の横に座って騎士団の4人に助けを求める。

 これはつまり、「囚われのお姫様」と言うことだ。


「おのれ~。人質をとるとは、ひきょうだぞ!!」

「いま、おたすけします!!」

 などなど、騎士団の面々も新たな設定にノリノリだ。


 どうやら、元々は5人とも騎士の予定だったのだが、ネリちゃんが姫役に志願したらしい。

 実に女の子らしい参加方法だ。これが女子力と言う奴だろうか。違うのか、どうなのか。


 俺は再び、自分の娘(ミラ)に目を戻す。

「姫をはなせ~!!」

 うん、騎士の剣(木製)を元気よく振り回して飛び跳ねている。スカート履いてるのに。

 まあ、最近はスカートの時も下に短パン履かせるようにしてるんだけど、親代わりとしてはもう少しお淑やかになって欲しい。


(まあ、無理だろうな。周りがアレだし。)

 心中でため息をついたその時、俺が誰の顔を思い出していたか。それはヒミツだ。

ミラは野生児

シレン、騎士団の()長に就任

ネリ、10年後には村の一番人気であろう

キタイは人畜無害

ロタールは空気

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。