第13話:イスタ村のシレン
「え~、いらはい。いらはい。本日、開店。何でもやります。『なんでも屋・ロク』でございます。さあ、嬢ちゃん、坊ちゃん寄っといで。よくある店と思っちゃ困る。道行く奥さんに、お婆ちゃん。覗くだけならお代もいらないよ。試しに一度寄ってって。」
……不毛だ。そもそも、周りに誰もいないし。
俺は村のはずれ、魔法で作成した住居(かまくら型)の前でため息をついた。いや、正確に言えば誰もいないわけじゃない。大勢の村人が俺の一挙手一投足を見守っている。
ここから100メートル以上離れた、村の中から。
ちなみに村人の髪は濃淡の差があるものの基本的にみんな茶色だ。ほぼ黒髪からどう見ても金髪まで幅は広いが青やピンクと言った派手な色はいないらしい。
どうも人間全体でそんな感じらしく、「赤みを帯びた~」とか「緑がかった~」レベルが少しいる程度らしい。
リヨンから聞いた限り、人頭鳥は羽根と同じくカラフルな髪をしているとのことで。なんとなくこの世界は人間もそうなのかと思っていたが、違ったらしい。
「いや、すまないな。こんな村はずれに押し込めた上に、あんな風にジロジロ見張るみたいにしちまって。」
そう言って頭をかいたのはハンクだ。今は俺が玄関先に作った石のテーブルを挟んで座っている。
ハンクの言う通り、この場所は村はずれにある。というか、村から少し距離のある森の端だから、森ハズレという感じのほうがしっくりする。
まあ、それは気にしてない。村の中に住まわせるなんて流石に皆が許可しないだろう。
俺が気にかかっていることは別にある。
「なあ、言われるままに看板まで用意したけど、『なんでも屋・ロク』ってなんだ?」
「え、知らないのか。報酬次第でどんな頼まれごとも引き受ける商売なんだが。」
そうじゃねえよ。商売の内容じゃなくて、なんでそんなことをするかって聞いてんだよ。
「そもそも、報酬なんてもらわなくても、できることなら何でもやるぞ?」
俺の台詞に、ハンクはゆるゆると首を振った。
「それはやめといた方がいい。てっとり早いだろうが、良いように使われるだけだ。」
そんなものだろうか。俺が納得しきっていないことを察したのか、ハンクは付け加えるように口を開く。
「それにな、村の一員になりたいんだろう?それなら村のルールの中で暮らさなきゃいけない。仕事をしたら、報酬をもらう。これは普通のことだ。でも、普通ってことが大事なんだよ。自分たちと同じってことだからな。」
なるほど、確かに普通の人間はただ働きなんかしない。食べてかなきゃいけないからな。
やっぱり、ハンクはバカではないな。アホっぽいけど。
「まあ、そのうち他の奴らも慣れるさ。アンタは良い奴だしな。」
ありがとよ。お前も良い奴だよ。
ハンクはしばらく話をすると帰って行った。多分、一緒にいるところをみんなに見せることで。俺に害がないことをアピールしてくれようとしたんだな。
ハンクの帰った後、暇になった俺は家の外で皿を作ることにした。石練成の呪文で。
万が一、この「なんでも屋・ロク」に客が来た時には売れるかもしれないし、小さい物なら記念にあげてもいい。
魔法の訓練にもなるし一挙両得だ。
石練成は土や石と言った土属性の素材を自在に変化させる呪文だ。変化がゆっくりなため戦闘には不向きだが、その分だけ自由な形状で作成できる。
とはいえ、思い通りのものを作るには熟練と集中が必要で、その時の俺も一生懸命作っていた。
食器づくりに集中しすぎたか。気が付いたとき、奴らは既に俺の背後、すぐそばまで接近してきていた。
気取られぬように、背後を窺う。丈の高い草むらの影からのぞく3つの頭。いずれも武器を持っている。
しかし、岩石精をどうにかできるような奴らには思えない。俺は相手の動きを待つことにして作業に戻った。
彼らが動いたのはそれから間もなくだった。
「やー!!」
やや甲高い声をあげながら草むらから飛び出して来るや、大上段に振りかぶったこん棒を俺に向かって振り下ろす。3本のこん棒がうなりをあげて俺の背中(身長が足りずに腰のあたり)に襲い掛かる。
こん、こん、ボキッ
腐っていたのか。一本折れた。
「ああ、おれの剣(?)」
「ひ、ひるむな!イスタ村騎士団のほこりを見せるんだ。」
「そうだ。イスタ村騎士団はうろたえない。」
どう見ても腐った木の枝だが、どうやら騎士の剣だったらしい。俺は3人にケガをさせないように気を付けながら振り向いた。
そこにいるのは3人の男の子だ。年はミラの少し上か同じくらいだろうか。それぞれ7歳、6歳、5歳と予想してみる。髪の色は順番に焦げ茶、並茶、薄茶だ。後ろの二人はよく似てる。兄弟かもしれない。
「わ、き、きたー!!」
「あ、まってよ。にーちゃん。」
並茶と薄茶の二人は脱兎のごとく村の方へ逃げていく。やっぱり、兄弟だったらしい。
「こら、にげるな。イスタ村騎士団にこうたいはない!」
帝国軍人のようなことを言いながら踏みとどまったのは、見るからにガキ大将な少年だ。
足が震えているが、俺の方を睨みつけるその度胸は大したものかもしれない。
「ふふっ」
子猫が必死に相手を威嚇するような様子が微笑ましく、思わず笑いがこぼれた。が、それがどうやら騎士のプライドに障ったらしい。
「笑うな。じゃあくな魔物め!!お前たちのそうだいなたくらみは、このイスタ村騎士団のシレンがお見通しだ。」
なるほど、まさか俺が壮大な陰謀を担っていたとは。この岩石精のロクの目をもってしても読めなかった。さすが、騎士団。
そこで俺は考えた。
さて、どうするべきかと。ここで彼の話の腰をブチ折って、「ぼく、わるいゴーレムじゃないよ。」と言っても良いが、果たしてそれは正解だろうか。
俺を正面から見据える彼の目には子供らしい純粋さがあふれている。そして、俺も元は少年だった。俺はあの頃の気持ちを忘れてしまっているだろうか。いいや、そんなことはない。少年だった頃の俺も、まだ心の中に住んでいる。
ならば、選択肢は一つだ。
「フハハハハハ。まさか、お前のような奴に気が付かれるとはな。子供と思い侮っていたのが間違いだったか。」
獅子はウサギを狩るにも全力を尽くす。それにならい、俺も全力で乗っかろうじゃないか。そのGOKKOアソビに!!
完璧な悪魔笑いと同時に立ち上がり、騎士団長(推定7歳)を見下ろす。足の震えに加えて、顔まで青ざめている。どうやら、立ち上がった俺が思いのほかデカかったようだ。
ふふふ、怖いか。
さあ、大人の本気をとくと味わってもらおうか。
「ぐ、ぐあああああああああ。足に続いて腕までも~。」
苦痛の呻きとともに、岩石で出来た巨体が地面に崩れ落ちる。そう、俺だ。
「み、見たか。魔物め!!」
歴戦の勇士が武勇を誇り、剣を掲げる。そう、シレンだ。
超・GOKKOアソビも既に終盤に差し掛かっている。俺の四肢には既に大きなヒビが縦横に走り、満足に動けないようになっていた。
心配ご無用。無論、フェイクだ。こんなこともあろうかと、事前に石練成で作り出した石板を体にくっつけておいたのだ。
はりつけた石板はパイ生地のように極薄の層が重なっていて、ちょっと叩かれただけでバリバリ割れる。まさに、今の状況にうってつけだ。
「これでトドメだ。喰らえ、スーパートルネードハリケーンサイクロン!!」
「な、スーパートルネードハリケーンサイクロンだとお?ぐ、うぐあああああああああ!!」
竜巻、暴風、そして台風を合わせたよりも、さらに強烈無比な斬撃が俺を襲った!!
そこで俺はすかさず、魔法を発動させる。
【母なる大地の精霊よ。我が願いを聞き届け、その身にすべてを飲み込みたまえ。標なき埋葬】
足元に出現した小型の流砂に飲み込まれながら、俺は捨て台詞を残す。
「お、おのれぇえ。まさか、この俺が人間ごときに。しかし、俺は不死身。ここで破られても何度でも蘇って見せるぞ。」
最後は右手を上に突き出しながら、砂に呑まれる。そう、まるで昔の映画。シリーズ2作目。溶鉱炉に落ちた人型兵器のように。
「何度きても同じだ。イスタ村騎士団あるかぎり、おまえのやぼうが叶うことはない!」
シレンはそう勝ち名乗りをあげると意気揚々と引き上げていった。俺はしばらくそのまま埋まっていた後で、体を地表に引き上げた。
あたりは既に夕闇に包まれている。村の方へ眼を向けると、入り口に松明を持った二人の男が見えた。俺を見張っているのだ。
おそらく、俺とシレンの騒ぎも見られていただろうが、シレンは怒られたりしないだろうか。
心配だが、仕方がない。俺が逆の立場でも監視はするだろう。そう自分を納得させた俺は、自分が出てきた地面の穴を埋めて、あとは静かに瞑想しておくことにした。
まあ、少し練習はさせてもらうが。




