【ロイヤルズと代理人の青年?!】07
薄暗い書物が溢れる書物室の床に、幼児が二人床に座り込んでいた。その子達の前には豪華な装飾が施された絵本が開かれ、お姫様と騎士が描かれている。
それを仲良く覗き込んでいるのは、鏡のように瓜二つの幼児。
奇麗に巻かれた髪の毛は肩迄かかり、窓から差し込む光で頭部には天使の輪が広がっている。ヘーゼルの瞳はキラキラと輝き宝石のようだった。
二人は、貴族の子供が着る男女兼用の子供服に身を包んでいる、お揃いのクリーム色の服をまとい、双子のピクスドールの様に可愛らしい姿だ。
二人は騎士やお姫様が出て来るお話が大好きだった。特に、騎士がお姫様を助けるこの絵本は一等好きな物で、読みすぎてページの端がくすむ程だ。
『ぼくはあなたのナイト』
『わたしはあなたのプリンセス』
絵本に書かれている台詞を言い合えば、二人は同時に笑った。
そして流れるように、一人がもう一人の手を掴み。絵本の騎士のように跪き、手の甲に口づけて言った。
「ぼくのいのちがもえつづけるかぎり、プリンセスをまもります。」
その言葉に、もう一人は泣きそうな顔をしながら頷いた。
「チャーリーずっといっしょだよ」
「うん。ずっといっしょだ。ぼくのチャーリー」
そう言って二人は抱きしめ合った。
まるで怯えるように、暖め合うように。
「「ずっといっしょ」」
そうしている時だけが、二人にとって・・・
*
バタンと大きな音でシャーロットは目が覚めた。
目の前に知らない天蓋の布生地が見えた。
顔を横に向ければ、やはり知らない部屋だ。頰が濡れていることに気づき、拭った。
「なにが・・・あったんだっけ?」
どうしてここにいるのか、ゆっくりと起き上がりながら周りを伺えば部屋には誰もいなかった。そうだ、ハイリンヒ王子につれてこられたのだ、と思い出せば一気に頭が覚醒した。そうすると、ここは王子が所有する屋敷だ。
ベットから降りれば、ゆったりとした部屋着に着替えさせられている事に気づいた。
窓に近づき外を見れば、見たことのある庭が広がっていた。外は夕日に染まっている。開けた庭の周りには林に囲まれ、所々に柵がみえていた、その隙間から飼っている動物達も見える。
「はぁ。今日はもう動けないわね。」
王子の屋敷は王都の郊外にある。しかも屋敷の少し離れた森には狼が多く生息する場所でもあるため、夜屋敷の外に出るのは危険だった。
この屋敷自体、林の向こう側は高い石垣でぐるりと囲まれている。
諦めて、窓辺に腰掛ければ部屋の扉が開いた。
現れたのは、ハイリンヒだった。
「おや、起きてたのか。こんばんは、シャーロット。」
そういって、窓辺に座るシャーロットの横にハイリンヒも一緒に座った。
「こんばんは、王子。」
「・・・気分はどう?あのあと・・・気を失ってしまってびっくりしたよ。」
「気を失ってしまったんですか?目が覚めたら、知らない場所でびっくりしましたわ。服も・・・」
「そっか、君は初めてだったか。ここは俺個人の屋敷だ。服は君の部屋にあった部屋着に変えさせてもらったよ。もちろん、侍女が着替えさせたから安心してくれ」
「部屋にまで・・・」
ハイリンヒの言葉に、シャーロットはため息をついた。どっちにしろ、王宮で撒けてもアパートメントで捕まっていたのだ。荷物迄回収されてるとなると、隠していた物も見られているかもしれない。日が沈み、窓辺から冷気が流れてきて思わず腕を摩れば、王子がそっとエスコートしながら窓辺から離した。
そのままソファに座らせ、外に向かって声をかければ直に侍女達が部屋に入り暖炉に火をつけ、窓のカーテンを降ろして行く。
食事の用意を言付け、ガウンドレスを受け取れば、ハイリンヒ自らシャーロットに着替えさせた。
「ハイリンヒ王子?」
「今夜は二人で、ココで食事をしようと思う。明日は・・・食堂で皆と食事をしよう。」
「・・・何故このような事をなさるんですか?」
普段なら絶対にしない、完全に勘違いさせるような行為を進めるハイリンヒにシャーロットは疑問を投げかけた。
「さっきの質問に答えてくれたら、俺も答えよう。」
「ずるいですわ。」
シャーロットは力無さげに呟くように言って、ソファに腰掛けた。暖炉の火がはぜる音を聞きながら、二人は料理が運ばれるまで無言で過ごしていた。
苦でもなく、ただぼーっと暖炉の火を眺めながらシャーロットは酷く気怠げな気分だった。
いつの間にか、隣に座るハイリンヒに寄りかかっているのも気づかぬ程。
ハイリンヒも無言の時間を気にする事なく、さりげなくシャーロットの手を握り静かな空間をまどろんでいた。
何故、このような強行突破を起して待ったのかと自問自答しながらも、後悔はしたくなかったんだと言い訳を繰り返していた。
今シャーロットを捕まえなければ本当に一生会えない。それに、反対すると思った友人達は、手を貸してくれた。
そして、結果的にこれで良かったと思っている自分もいた。
しばらくして、夕飯が運ばれてきた。二人で会話もせずに食事を済ませば、人払いをして、二人だけの食後のお茶の時間になった。
シャーロットは、何を間違えてしまったんだろうと思いながらお茶を口にした。夢物語ように王子と二人っきりだというのに、全く心が躍らないなとくだらない事を考えても、気分は上がらなかった。下手したら沈んでしまいそうだ。
火が爆ぜる音と共に薪の木が崩れる音が響いた。それを合図に下かのように、ハイリンヒは呟くようにやっと口を開いた。
「君と居ると、とても落ち着くんだ。」
「王子・・・」
「俺は・・・他の令嬢より特別に思っている。」
「恐れ多いですわ」
「はぁ。突然すぎて、まだ俺も気持ちの整理がついていないが、ただコレだけ言える。・・・失いたくないんだ。大切なんだ。君の事が」
その言葉に、シャーロットはやっとハイリンヒに顔をむけた。その顔は何処迄も真剣でシャーロットの瞳を逃がさなかった。
「君は何を隠してるんだい?何に怯えているの?俺では力になれないのか?」
その言葉に、シャーロットは無言を貫いた。
自分の家系の事は国家機密だ。まだ何も知らされていないハイリンヒには何も言える訳が無かった。辛くなり視線を下に向けて、ハイリンヒの視線から逃げた。
固くな様子に、ハイリンヒは小さくため息をつくと、席から立ち上がって隣の部屋へと消えた。だが、直に戻って来ると机の上にそっと丸い箱を置いた。
「っ!」
「どちらの姿でも構わない。明日、食堂で待ってる。」
そう言って、ハイリンヒは席には戻らず、外へと続く扉へ向かった。
最後に部屋から出るまえに扉の前で立ち止まった。
「お休み・・・チャーリー」
と声をかけて出て行った。
シャーロットは動けずに居た。いきなり愛称で呼ばれた事もそうだ、なによりも机の上に置かれている物で頭がいっぱいだった。丸い円柱の奇麗な柄の化粧箱は、帽子を納める箱だ。その中に入っている物は、本来なら入っているはずの帽子ではなく、全くの別の物。
「どうしよう。チャーリー」
助けを求めても、答えは返ってこない。
「助けてよ。チャーリー」
シャーロットは唇を噛み締めた。




