【ロイヤルズと代理人の青年?!】08
朝、まだ外に濃い霧が立ちこめる中、ハイリンヒは食堂にきていた。召使いが暖炉に火をくべて部屋を暖めている姿を眺めながら、机の上に用意されたフルーツや飲み物、パンが並んでいる前にきて、リンゴを自ら手に取った。
朝は各自自由に起きてきて食べれるように並べてあるだけだ。
今日はハイリンヒの友人、ロイヤルズのメンバーが数人滞在しているので並んでる食材も多い。
リンゴに齧り付きながら、窓辺に立ち外を眺めた。
やはりまだ霧が濃く、庭が見渡せない。
木の床に響く足音に振り返れば、そこには先日分かれた姿のままのチャールズが所在無さげに立っていた。
「おはよう、チャールズ。」
「・・・おはようハイリンヒ」
「座ろうか、そのうち皆も起きて来る。」
そう言って、ハイリンヒはチャールズに席を勧めた。その横にハイリンヒも腰をおろした。
「昨日は夜遅くに大変だった。もうシャーロットは追わないよ。ちゃんと送り届けた。」
その言葉に、チャールズは顔を上げて驚いた。
見れば、ハイリンヒは目頭に指を当てて2回ノックした。ハイリンヒの視線の先には、お茶を給仕しにきた召使いの姿が、ハイリンヒとチャールズに朝のコーヒーが出された。
口にすればちょうどタイミングよく食堂に人が入ってきた。
「おはよう〜はぁ」
「おはよう、ウィスコット」
「お、チャールズも起きてきてた。お前はタフだよなー。僕はデスクワークが性に合っているのに。」
「悪いな、シャーロットの事になると、あの筋肉馬鹿が暴走しかけないのでね。使えなかった」
「それはいえてる。」
二人はチャールズを置いて会話を続けていた。チャールズは困惑しながらも、その話の流れを邪魔しないようにリンゴを手に取り、口にした。
「ジェームズもそろそろ起きる頃じゃないかな?今日はどうする?」
「そうだな、庭でも散策しようか、久しぶりの休息日だし。適当にバスケットに詰めて出かけようか。そろそろ霧も晴れる頃だ。」
「そうだな。」
「機嫌を直せ、チャールズ。君を無理矢理手元に呼び寄せたのは悪かったと思ってる。だがお前も悪いんだぞ?一人で勝手に宣言して行方をくらませたんだからな。」
その言葉に、やっとチャールズはハイリンヒが演じている筋書きの一部が分かった。
「それは・・・悪かった。」
苦虫を噛んだように顔を歪めて、不機嫌さをだせば、ちょうどジェームズが食堂に入ってきた。
「ふぁああ、おはよう。」
「「おはよう、ジェームズ」」
ハイリンヒとウィスコットは挨拶を返した。ハイリンヒはジェームズの着崩した格好に眉間に皺を寄せた。
「お前、自分の屋敷じゃないからって気ゆるめすぎだ。」
「昨日は遅く迄お前の我が侭に付き合ったんだ。いいじゃないか。」
そう言いながらどかりと、ハイリンヒの横に座り、パンとジャムを取って塗り付けた。
「これから、朝の散策にでるぞ。」
「いいね〜。朝の空気を吸って適度に体を動かす。俺は二度寝したいが。」
パンに齧りつきながらジェームズは気の抜けた返事をかえした。
「あぁーおかえり、チャールズ」
思い出したようにチャールズに声をかけたジェームズに、チャールズはため息をつきながら答えた。
「ただいま。」
どうやら、チャールズ以外は全員台本が渡されてるようだ。
「じゃー俺はバスケットを貰いにいってくるよ。」
そう言って、ウィスコットは席を立った。
「そういえば、朝鳥が飛んでたが。」
おもむろにジェームズが呟けば、ハイリンヒが眉間に皺を寄せてからため息をついた。
「母上にばれた。」
「おや、早い。流石王妃様、とても良い耳をおもちで。」
「まったくだ。お茶会の欠席から日頃の事に対して延々とかかれた文が来た。読むか?」
「ご遠慮申し上げまして候。」
「なんだ、その言葉使いは」
大きく身振りを添えて断ったジェームズに、ハイリンヒは飽きれた目線をかえした。ジェームズは気にせず、オレンジを手に取ってナイフで切り始めた。
「寝不足なんだよー。君みたいにお目当ての者が手に入って興奮状態じゃないからねー。チャールズを見つけるのにどれだけ大変だったか。」
「そんなに必死に探していたのか?」
思わず溢れた言葉に、ジェームズは身を乗り出してチャールズ見ながら飽きれた顔をしながら言った。
「俺は、片手間だったけどね。他の奴が頑張ってたよ。誘惑するのはご婦人だけにしてくれよ、殿下まで虜にしちゃって、一番面倒なんだからね」
「どの口が言ってるんだ。お前だって色々策を弄してたじゃないか。」
「君程じゃないよ。」
二人はニヤリと笑みを浮かべて見つめ合った。その様子にチャールズは机の上に突っ伏した。するとタイミングよくウィスコットが戻ってきた。バスケットに机の上に置いてある物を適当に入れれば準備完了だ。
「もう行くかい?」
「行く」
ウィスコットが訪ねれば、ハイリンヒは即答した。
二人も席を立って外に出た。厩によって、鞍を着けて広い庭へと駆け出す。朝もやは晴れて行き、鳥達の囀りが響いている。
周りに何も遮る物がない丘の上に来るとジェームズとウィスコットは周りを見渡してから馬から降りた。その後に続くようにハイリンヒとチャールズも降りた。
「さて、これで安心して話せるな。」
その言葉にチャールズは緊張した。チャールズを囲むようにハイリンヒの両脇にジェームズとウィスコットが立っていた。
「チャールズ。いや、シャーロット嬢」
その言葉にチャールズ・・・シャーロットは一度目を伏せた。しばし瞬時してから、普段の声で返事をした。
「はい、ハイリンヒ殿下。」
それは、ハスキーな低い声ではなく、女性らしい声だった。
「君を無理矢理連れてきてしまってすまなかった。だが、今はそれが返っていい結果になった。」
その言葉に、シャーロットは首を傾げた。
「昨夜、君が乗る馬車が何者かに教われ大破した。」
「?!」
その言葉に、シャーロットは言葉を失った。まさか、自分の正体を知っている者はこの国の重鎮以外いなはずなのだ。何より、自分が乗るはずだった馬車は誰も乗っていないはずだ。
「実は、馬蹄には金を握らせて、中には人形を仕込んでいた。」
いたずらっ子のように言ったのは、ウィスコットだった。その言葉にシャーロットは思わず口を開けてしまったが、何も言葉が思いつかなかった。
「ちょっとしたお遊びのつもりだったんだ〜あはは」
「まー結果としてそれは良い方向に行った。だが、俺が君を攫ったのはあの城の入り口を警備していたものや、我が屋敷に勤める者達が見てしまっている。昨日の夜の時点では俺もこうなるとは思っていなかったんだぞ?」
その言葉にシャーロットは疑いの目を向ければ、ハイリンヒは肩を竦めた。
「まー夜にね梟が来たんだよ。王妃様のお手紙を添えてね。」
ジェームズが種明かしのように胸元から手紙を差し出した。そこにはまだ封がされたまま、宛名には愛称であるチャーリの名が記されていた。
そしてハイリンヒも自身の胸元から手紙をだしてシャーロットに渡した。
「これは俺宛に来たが、読んだ方が良い。」
二つの手紙を受け取り、シャーロットは迷ってから自分宛の手紙を開封した。
中には丁寧な文字と共に、シャーロットの身を案ずる内容と今起きている出来事が綴られていた。読み進めて行くうちにシャーロットの顔色は血の気を失い真っ白になっていた。
ハイリンヒ宛の内容には、シャーロットとに宛てられた内容と似たような事と、シャーロットの血筋に着いても触れられていた。
内容は、国内の誰かがシャーロットの血筋を絶やすのを是としない者立ちによって、馬車が襲撃されたこと、またシャーロットがハイリンヒの家に滞在している事も時間の問題でばれる事が書かれていた。その為に秘密裏に脱出させた事にして、チャールズとして身を置かせてほとぼりが冷める迄匿うよう指示が書かれていた。
自分の血の事を知って王子はどう思っているのだろうかと、恐る恐る顔を上げれば王子達はさっさとブランケットを広げくつろぎ始めていた。
「読み終わったか?」
「あの・・・」
「そのまんまの意味だ。その手紙は後で池の横で燃やすぞ。」
「言及はしていませんが、動いているのは王弟かと思いますよ。だったら、チャールズはココに居た方が良い」
ジェームズの言葉に、シャーロットはびくりと肩を揺らした。王弟はシャーロットと面識があった、そしてあのサバトにも参加していた男だ。
「最低最悪な叔父だ。父上の頭痛の種でもある。・・・チャールズ。俺たちの5年間は噓偽り無く友だったし、シャーロットは俺の大切な人でもある。まだ・・・俺も気持ちの整理がついているかというわれると、ついていない。だが、これからも時間がある。はぁ、なんて言っていいか。」
「僕は、どちらでもいいね。かけがえの無い親友だ。むしろ萌えるね」
そうウィスコットは笑いながら言った。
「おい、お前の趣味にとやかく言うつもりは無いが。・・・まぁ、いい。はぁ・・まー俺はウィスコットと同じだな。かけがえの無い友だ。何より俺も好ましいと思っていたし。ただ残念なのは、朝君がシャーロットとして現れなかった事だ」
「え?」
「あはっあはははは!そうそう、掛けをしたんだ。君がチャールズとして来たらハイリンヒが囲う、シャーロットとしてきたらジェームズが囲うってね。」
その言葉に、シャーロットは目を丸くして驚いた。
「な、何考えてるんですか!」
「色々話し合った結果なんだよ。」
苦い顔をして言ったハイリンヒの様子に、そうとうジェームズと話し合った事が伺えた。
「だって、俺はずっと正攻法でシャーロット嬢を狙っていたのに、ことごとくハイリンヒに邪魔をされましたからね、なんであんなにタイミングよく現れるのか。本当腹が立ちますよ。」
「え?!」
「あ、やっぱり気づいてなかった」
シャーロットの様子にウィスコットは笑いながらも葡萄を口の中に放り投げた。
「ふんっ縁がなかったんだよ」
嫌みったらしく鼻で笑ったハイリンヒにジェームズが憎らしげに顔を歪めていった。
「二人が一人だったからって浮かれてるのも今のうちですよ。お預け食らった犬のように涎を垂らす日々がまってるんですからね」
「?」
その言葉に今度はハイリンヒが顔を引き着かせた。
「王妃様は、清いまま保たせよと書いてありましたよ。」
その言葉に、やっとシャーロットはジェームズが言った意味が分かり顔を真っ赤にさせた。
「え?!まってください、何を言って」
「やっぱり気づいてない」
そう言って、ハイリンヒはシャーロットの手を取って抱き寄せた。
「おいおい分からせるから気にするな!」
「えぇ?!」
シャーロットが驚いても気にせずにハイリンヒは笑顔でいった。
「そうと決まれば、遊ぶぞ」
そう言ってバスケットの中にいつの間にか入っていた簡易チェスボードを取り出した。
「ぇえ?!その話、流すんですか?!」
全然シリアスじゃないと思いながらも、チャールズの時のままに接してくれるハイリンヒにシャーロットは目が熱くなるのを感じた。顔に浮かぶのは笑み。
チェスで惨敗し、人工池の横で手紙を燃やしながらシャーロットは池のさざ波に耳をすました。まるで大きな川の流れのように翻弄される人生だなと思いながら、まだ王子達と秘密を抱えずに過ごせる事に嬉しさもあった。
厄介ごとを持ち込んでしまったはずなのに、隣に立つハイリンヒを盗み見れば穏やかな笑みを向けられている事に気づいた。慌てて火に視線を戻しても耳が熱い。
そして、ふと。ここにチャールズが居たらなんて言うだろうと思った。チャールズだったら・・・。
「僕はさ、ナイトになりたかったんだ。」
唐突に男声で喋り始めたシャーロットに3人は黙って耳を傾けた。
「僕たちは二人で一人だったから、僕は同じ愛称になるチャールズになったんだ。辛い時も楽しい時も二人で乗り越えてきた。泣き虫なシャーロットの為にチャールズが居て、弱虫なチャールズが強くなる為にシャーロットが居たんだ。」
燃え尽きかけている紙を棒で混ぜながらシャーロットは懐かしむように言葉を紡いだ。
「小さいとき物心ついた時にチャールズはシャーロットの鏡として連れてこられた。理由は簡単、似てるから、そして男の子だったから。性別の違う双子を大人達は愛でてね。方対の翼をよく着けられた。二人並べば対になる。常に一緒に行動をすれば二人が入れ違う事も可能だった。子供だから余計にね。」
燃え尽きて灰になった紙くずを池へと棒で落としながらシャーロットは懐かしさと悲しさで胸が締め付けられた。今迄ずっと逃げ回っていた感情だ。ずっと逃げてずっと一人で二役演じてた。
「シャーロットの母親は魔女だったんだ。魔女は自分の力をつけるために、夜な夜なサバトを開いていた。欲望や恐怖、恨みが魔女の力になるらしい、つまり、それは・・・。娘であるシャーロットにも同じ事が言えた。だから、幼いシャーロットもサバトの置物として置かれていた。僕が来てからは、シャーロットと一緒に置かれたけど。・・・・僕たちは毎夜怯えてた。僕たちが入れられてたのは黄金の鳥籠で、いつかこの檻が開けられてしまうのではないかと。開けられて引きづり降ろされる恐怖があった。」
手紙の全ての灰を池に落とし終えても、シャーロットは顔を上げられず、ぎゅっと木の棒をにぎりしめ地面に突き刺した。
「あの夜はたまたま、僕たちは用意された騎士とドレスの服を交換した。そして・・・」
ばきりっと突き刺していた木の棒が折れてしまった。一度大きく深呼吸してから、シャーロットは折れた木の棒を池に投げ捨てた。
「あの夜、鳥籠の扉が開けられた。ドレス姿のチャーリは大人達に引きずり出されて見るも無惨な・・・酷い目に遭わされた。そして入れ替わっていた事に気づかれた。僕にも手が伸びかけたとき、アムストラ様と騎士達が現れて助けられた。」
手に着いた砂を払い落として顔を上げた。
「僕は方羽を失って、情緒不安定だった。だから鏡を使ってチャールズを呼び出したんだ。僕はチャールズでシャーロット。二人はずっと一緒そうやって逃げた。不安定な僕が落ち着いてきた理由に気づいたアムストラ様が、いっその事二重生活をしてみないかって誘われたんだ。僕はチャールズじゃないと面と向かって言えないし、泣いてしまっていたから、運命に悲嘆して何もできなかったから。」
「チャーリ」
二人の愛称で呼んで、ハイリンヒは後ろから抱きしめた。ただ抱きしめて、顔を隠すように胸元に抱き寄せた。
頬に熱いものが流れ落ちる。次第に嗚咽となって漏れても誰も何も言わなかった。
その日初めて、チャールズの姿でシャーロットに戻った。
ずっと自己暗示し続けてきたチャールズが崩れて、やっと死んでしまっていない事を自覚してしまった。二人で内緒ごとのように呼び合った愛称を誰にも許した事無い愛称を、二人が・・・シャーロットが心許す人に呼ばれた。
「チャールズはずっと、シャーロットのナイトであり続けたんだ。今度は俺がチャーリを護るよ」
優しく頭を撫でながらハイリンヒが囁くように言った。それがますますシャーロットの心に染み渡った。




