【ロイヤルズと代理人の青年?!】04
ハイリンヒは急いで馬車の用意をさせた。こういう時、城の広さに舌打ちしたくなる。城門までの距離で息が切れそうになりながら、やっと馬車に乗り込めば、背中を押されて奥に押し込まれた。
押し込んできたのは、ジェームズとウェルズの二人だった、そしてそのまま馬車に乗り込んできた。
「おい!お前らは自分の馬車に乗れ!」
乗り込んできた二人にハイリンヒは怒鳴った。
「えー殿下の馬車の方が早いし、融通がきくし、効率がいいじゃないですか。何よりもう動いてるしね。」
そう言って、しっかりと扉を閉めたのはジェームズだ。他のメンバーは、二人がいくなら十分だろうと、後からゆっくり追いかけることになっている。
「それに、殿下一人で捕まえられますか?」
そういったのはウェルズだった。彼は騎士の称号を持つ伯爵家の子息。ハイリンヒの近衛に3年前から所属しているため、ロイヤルズのメンバーとほぼ一緒に居る事が多いのだ。
「ぐっ・・・」
先ほど見事に逃げられた事を思い出し。ハイリンヒは悔しげに唸った。
「あいつは弱いって言ったって、領内で弱いだけで、王都の警備兵より断然強いですよ。」
忌々しげに、ウェルズはいった。ウェルズは昔チャールズが住むアムストラ領で従軍していた事も合った為、チャールズの強さを知っていた。それに対し、ハイリンヒは眉間に皺を寄せて聞いた。
「そもそも、なんでウェルズまで乗ってくる。お前はチャールズと仲が悪いだろうが。妨害しに乗ってきたのか?」
「あぁ、それは私も思いました。」
ジェームスの言葉に、何も考えずに連れてきたのかとハイリンヒが避難の目線を投げれば、肩を竦めて気づいたら付いてきたんだよ?という目線を返してきた。
「えぇ、犬猿の仲ですよ。妨害はしません。あいつが王都に来なくなるってことは、シャーロット嬢も王都にこなくなるってことなんですよ。」
踏ん反りかえって言った言葉に二人はドン引きした。
「あぁ、お前。まだ諦めてなかったのか。」
あまりの発言にハイリンヒは頰が引きつってしまった。
「いい加減諦めろよ。チャールズが認めないだけでなく、シャーロット嬢本人がお前を嫌ってるだろ?」
そう言ったのはジェームズだ。
「というか、怯えてるしな。アムストラ辺境伯も了承していない。別の女性にしろ。お前が無理に婚約でもしようものなら修道院か、悪くて自殺でもしそうじゃ無いか。見ていて痛々しいから、やめろ。」
彼らは、嫌がるシャーロット嬢を追いかけ回すウェルズを何度も見かけ、何度か助けたので知っているのだ。
「いや、諦めないね。嫌い嫌いも好きのうちって言うじゃないか。」
悪びれた様子も無く言う様ウェルズに二人は大きなため息をついた。
「「それは絶対にない」」
思わず二人の声がだぶる程だった。
*
そう、チャールズが護っている少女は、アムストラ辺境伯に住む男爵令嬢のシャーロットだ。
元々、シャーロット嬢の護衛兼影武者用に、アムストラ辺境伯が似ている子供を見つけてきたのがチャールズだったと、ハイリンヒは聞いていた。
それは、シャーロットが社交デビューした翌年、ウェルズが配属される少し前の出来事だった。
「なんで近衛をロイヤルズのメンバーに入れるんですか。」
そう言ってきたのは、いつもの遊戯室でチャールズとチェスをしていた時だ。
「ん?・・・あぁ、俺の新しい近衛の話か。耳が早いな。」
小気味よい音をさせながらハイリンヒは駒を置いた。
「侍女の方達から聞いたんです。せっかくのロイヤルズのメンバーに、あのがさつな騎士が入ってしまうって。僕に訴えてきたんですよ。」
いつのまに、ご令嬢だけでなく王宮の侍女達と仲良くなったんだ?とハイリンヒは思いながらも、ため息をつきながらチャールズが置いた駒を奪っておき直した。
「しょうがないだろ?父上の命令なんだから。”ロイヤルズ”っていう名は勝手に周りのご婦人方がつけたっていうのに、グループを作ったんな入れろってさ。有力な貴族の子息を仲間にいれないで〜とかなんとか言われたんだよ。途中で眠くなって詳細は忘れたが」
面倒くさそうにハイリンヒはため息をつきながら、チャールズを見れば盤上の苦戦っぷりで顔を顰めているのか、今の会話で顰めてるのかどっちだろうかと思いながら眺めた。
「・・・・」
流石に国王命令ではチャールズも文句は言えない。
「もちろん、差別化はさせてもらうけどな。向こうは無理矢理入ってくるんだ。それぐらいやっても良いだろ?向こうは箔付けしたいだけ、なんだろうからさ。」
そう明るく言うも、チャールズの顔は晴れない。
「・・・そいつは四六時中ハイリンヒの近くに居るのか?」
不機嫌そうに言う様に、ハイリンヒは頰がゆるんでしまうのを感じた。幸いチャールズの目線はチェス板に向けられてるが、横で読書してるジェームズには、ばっちり見られている。しかも呆れ顔をされてしまった。
「まー近衛と言っても、仕事中は部屋の外で待機させるから平気だ。休日遊戯室に入り込むかもな。」
「仕事中は絶対遊戯室の中に入れないってことですね。」
確認するように言うチャールズに、ハイリンヒは笑顔で言った。
「あぁ、来ても追い出すから安心しろ。」
ご機嫌な様子のハイリンヒにジェームズは飽きれながら、気になっている事を聞いた。
「なんで、そんなに近衛が嫌なんです?今も廊下に待機してるのに」
その言葉に、チャールズは目線を彷徨わせながら言った。
「・・・別に、近衛が嫌なわけじゃない。」
ちょっとふてくされたような様子に、ジェームズは考えながら一つの結論に至った。
「・・・今回入ってくるメンバーが嫌いな人ですか。珍しいですね。チャールズが毛嫌いするって」
どんな人物なのだろうとジェームズは気になり、ハイリンヒに目線を向ければ、肩を竦めて本当はまだ言っちゃいけないんだけどなーと呟いてから言った。
「今回入ってくるのは3人のうち一人が年が近いってことで、ロイヤルズメンバーにごり押しで加盟予定だ。名前は、ウェルズ・シュヴァリエ・メモナードゥだ」
その名を聞いて、ジェームズは頭の中で貴族名簿を開いて思い出した。
ウェルズ・シュヴァリエ・メモナードゥは、騎士らしく体格がよく、威勢もいい。女性の扱いが下手で、気遣いができないのが難点らしいが、それでも顔も良く家柄もよく陛下の覚えもめでたい家なので、一部の女性には大変人気なのだ。もちろん舞踏会や茶会など大の苦手で、女好きだが形式張った付き合い方が苦手で、飲み屋の女とかと付き合っているという噂だ。もっぱら男達と酒を飲んだり腕試しが好き。あとは、研究者や学者をしている貴族を馬鹿にしたりと、一部の男達には筋肉馬鹿と嫌われている。
ロイヤルズのメンバーは舞踏会に出ればそつなく女性陣をエスコートし、一緒に踊る、楽しく会話をした後はロイヤルズのメンバーで会話を楽しんでる姿をご婦人方に見せるというのが、いつの間にか出来た習慣だった。面倒な貴族が居る時はそのまま遊戯室に遊びに行ってしまうが。
明らかに、ウェルズには苦手な分野で、悪態をついて嫌がりそうだ。
そして、そういう男がチャールズが嫌いなのはこの2年ちょっとで知っていた。女性に無神経で、学問を馬鹿にする筋肉馬鹿な男を。
「あぁ。チャールズは、苦手そうな人ですね。」
その言葉に、ハイリンヒはやっと今回入ってくるウェルズについて記憶を掘り返した。
「自国に帰ったら、そういうやつらばっかだろ?」
二人の言葉に、チャールズは苦々しい顔をしながらも答えた。
「筋肉馬鹿は馬鹿でも自国の男達は、ちゃんと女性をたてますし。女性には優しくエスコートするのが当たり前です!帰ってくる家や田畑、子供達を護ってくれているのは女性ですからね!そういうのを、あいつは馬鹿にしたんですよ!だから、途中で追い出されたってのに!」
苛立たしげにチャールズは力強く駒を弾いて、大きな音をさせて置いた。
「つまり・・・」
「チャールズは顔見知りか。」
「天敵です!!」
その言葉に、ハイリンヒとジェームズは顔を見合わせた。
「詳しく聞かせろ。それによっては対策してやる。」
楽しそうにハイリンヒは聞いてきたので、チャールズはむっとしながらもこのままでは、侍女達の話ではひと月後にはこのメンバーに入ってきてしまうし、顔を合わせたら、しつこい程絡んできて喧嘩になる事は間違いなかった為、今のうちに話してしまおうと思い至った。
「僕って、シャーロットの身代わりなのは前に話しましたよね。
で、あいつは武者修行だかなんだかで、僕たちの領内に居たんですよ。たしか、僕が9歳くらいのときです。
何故か、廊下ですれ違ったシャーロットとに目を付けて、後を追いかけ回したり。暇さえあれば苛めてきたんですよ!!ブスだのちびだの猫目みたいに気持ち悪いとか、カエルを投げつけたりとか酷かったんです。で、僕がこっそり訓練の時にボコってたんですけど!!何処からか、シャーロットと僕が一緒の屋敷に暮らしてるって知ってからは、負けるたびにずるしただの、木の堅さが違うだの、しまいには教官と付き合ってるとか!!言いがかりが酷かったんです!!で、あまりにも酷くて、他にも色々あって、辺境白の耳に迄入るまでの事になって追い出されたんです。」
饒舌に語るチャールズは怒りのせいか鼻息荒く、顔が赤くなっていた。
「「・・・・」」
その内容にハイリンヒとジェームズは顔を見合わせた。アイコンタクトすれば同じ事を思っているようだ。
「つまり、嫉妬されたのか。」
「嫉妬?」
不愉快さを隠しもしないチャールズに、二人は苦笑しながら言った。
社交デビューの時にあったシャーロットは、まだ幼さ残る貴族の令嬢だった。可愛いさと美しさ半々を合わせ持つ少女は、男だらけの場所では目立った事だろう。
「だな、修業先でまさか可愛い子がいて、ちょっかいだしてたら」
ジェームズがおかしそうに笑いながら、チャールズの頭に手を置いて撫でた。
「自分より一つ年下の奴が、好きな子の騎士だったなんてな。しかも王都では負け知らずだったのに、自分より強くてしかも」
ハイリンヒは、チャールズの手を掴み自分の方に寄せた。その反動で盤上の駒は転がり落ちてしまった。
「一緒に暮らしてる。しかも自分より、かっこいいとかな。」
チャールズは顎を持ち上げられて、近い場所でハイリンヒと視線が合う。
その3人の姿をポットのお茶を入れ替えにきた侍女が目撃し、顔を赤らめ小さくガッツポーズをしながらゆっくりと自分の仕事をやり始めた。
ハイリンヒとジェームズは侍女の様子にきづいていたが、気にせず会話を続けた。
「「嫉妬だろ」」
その言葉に、チャールズは心底嫌そうな顔をした。
「しかも名前がな、シャーロットの男名のチャールズだろ?しかも辺境伯が連れてきたとなればな。」
不意打ちに甘い声で言われ、チャールズは顔が赤くなるのを感じた。
その様子に満足した二人がチャールズから離れれば侍女は、後ろ髪引かれるように退出していった。扉の閉まる音でチャールズも侍女が居たとこにやっと気づいた。
そして、この二人が時々、男同士の距離感を狭くして周りのご婦人方を喜ばせるという、そういった悪戯を時々するのを思い出し、またやられたと思った。
「・・・それより!!それでシャーロットは男性嫌いになったんですよ!引き籠もりになったし!」
気持ちを切り替え、チャールズが強く言えば、やっと二人は少し考え始めた。
「それは・・・災難だな。」
「うーん。じゃーチャールズとシャーロット嬢とは顔合わせ無い方が良いのか。」
ジェームズの発言に力づく頷きながらチャールズは言った。
「です!!シャーロットと鉢合わせしようものなら、シャーロットが泣く迄追いかけ回して酷いですよ!!」
「なるほど。」
そう良いながら、ハイリンヒは複雑な思いで友人であるチャールズをみた。自分にも影武者になる少年はいる、このロイヤルズのメンバーに紛れているが、普段は変装させているために誰も似ているとは気づかない。王族だからこそ、必要なのは分かっている、だが男爵令嬢に影武者が必要なのかと問われれば必要ないと答えるのが普通だ。
男爵令嬢身代わりになるために拾われた少年。しかも、あのシャーロット嬢になるのだ。
中性的なチャールズは、ご婦人方によくモテた。しかも女性の流行のスタイルをよく熟知しているのでお洒落をしてきた女性の褒め方も上手い。しかも、関係は口づけまでと清い付き合いまでしか、しないために女性達が安心して夢を見させてくれる相手として見られているというのは、周りからくる情報だ。
男でも、チャールズの流し目にどきりとしない者はいないというほど。不思議な色気があった。それなのに、初心な反応も時々する。
ハイリンヒは友人の中で、チャールズを常に側に置いている。もちろん、幼なじみのジェームズもいつも一緒だが、チャールズは別の意味で特別な存在になりつつあった。
最近のハイリンヒの中でのブームは、チャールズのヘーゼルの瞳を見る事だ、いつみても見飽きない程奇麗な瞳で、吸い込まれそうな程澄んだグリーンの中にライトブラウンがキラキラと輝いてる。それは太陽光の元で、近くでしか見れない。
双子のようなチャールズとシャーロット。きっと昼間の元で二人を並べて座らせたらどんなに美しい絵が出来上がるだろうかと思うと、並べてみたくなった。
向かい合わせに、鏡のように座らせ。それを絵に残せないものだろうか。
「見たい。」
思わず呟いたハイリンヒに、チャールズは小首をかしげた。
「え?」
小首をかしげるチャールズに、ハイリンヒはシャーロット嬢を思い出した。ふくよかな胸元に目が行きがちだが、チャールズと似た少女の顔でキツめのメイクをしているが、意地悪な質問をした時に同じように小首をかしげて見上げてくる。彼女が夜会にくると、チャールズは夜会に参加しないか、彼女が来る前に帰ってしまう。
「お前の女装姿をみたい。シャーロット嬢と並んでは男装させて俺に見せろ。」
「嫌だね。」
即答したチャールズに、ハイリンヒは詰め寄った。
「何でだよ。」
「何で俺が女装で、シャーロットを男装なんだよ。そんな事したら違いが分かるだろうが、何の為に僕たちが外で鉢合わせしないようにしてると思ってるんだ。バレない為なんだよ。男女の違いっていうのがあるんだから。だから絶対に嫌だ。文句があるなら辺境伯に言ってくれ」
「・・・」
むすっとしたハイリンヒを横目にみながらも、ジェームズが口を開いてきいた。
「へーというか、ずっと疑問だったんだが、なんで男爵令嬢に身代わりが必要なんだ?」
その言葉に、チャールズは視線をさまよわせた。
「・・・それは辺境伯しか知らないけど。」
言葉を濁しながらチャールズは視線をそらすとすかさずハイリンヒはいった。
「その顔は知ってるな。」
「そりゃー身代わりをやってるからね。大人達が欲望を持って話しかけてくるんだから、なんとなく理由がわかるさ。」
「ふーん。で?」
「まー・・・調べればわかるからいいか。」
崩れ落ちたチェス版に、キングとクイーン、そしてポーンを置いた。
「両親が他界、子供はシャーロット一人。男爵は金持ち。ということは?」
そう言って、キングとクイーンを指で弾いて倒した、残ったのは弱いポーンだけ、そこにゲーム用のコインを重ねて横に置いた。
「金か。」
ハイリンヒの言葉に、ジェームズがなるほどと呟いた。
「そう。我が国は、娘一人の残った場合、20に成る迄に婚姻しなければ貴族の称号を剥奪。お金は国へ寄贈になる。でも、それまでに婚姻を結べば夫の持ち物になり、貴族の称号も持続。」
そう言って、チャールズはポーンの横にナイトをコツリと置いた。欲望まみれの大人達をから、力を持たない少女を唯一護るのはたった一つのナイト、自由に動ける自分と自由に動けないシャーロット。
駒を手で払いのけ、気持ちを切り替えるようにチャールズは言った。
「で、話戻すけど。ウェルズをメンバーに入れない対策は作るの?」
それに乗るように、ジェームズも言った。
「どうする?ハイリンヒ、ちょっとロイヤルズのメンバーにはアイツの性格上全く合わないのは俺からも断言できる。貴族的な形式張った事が出来ないしな。」
その言葉に、ハイリンヒは悩んだ。入れるのは簡単だが、明らかにメンバーと不満がでるのは間違いない。腕試しは好きだが、それと同じく書物も読むし研究所に通っているメンバーも居るのだ。せっかく心地よい友人達の集まりが出来ているのに、それを壊すような事はしたくない。
「ん〜・・・自分から嫌と言わせるか。」
「どうやって!」
「そうだな・・・確か貴族的な形式張った事が苦手ならば・・・入団試験ならぬ、メンバー試験でも作るか。」
ニヤリと笑みを浮かべたハイリンヒは、王子とかけ離れた悪役のような笑顔に、チャールズとジェームズは若干引いてしまった。
ジェームズは心の中で、お気に入りのチャールズを苛める人間は絶対入れないだろうな〜何よりチャールズも毛嫌いしてる。そして、普段ならチャールズは、ハイリンヒに頼まないのに、頼む程だもんな〜変に張り切ってるな〜と思っていた。
チャールズは、やっぱりハイリンヒって時々怖い雰囲気だすよな〜王族は違うなと思っていた。
それからメンバー試験を作った事は瞬く間に広まった。
誰かの推薦があって、初めて試験を受けられ、メンバーがだす課題をクリアする事。
それが試験内容として広まった。そしてウェルズには、夜会で女性を優しく3人エスコートしてダンスを踊り女性が気分よく終わるようにする事と、いざこざを起さない事だった。
そして試験の日の夜会は、チャールズは参加せず、そのかわりシャーロットがその夜会に来ていた。
前日に、チャールズは二人になるべくウェルズにシャーロットを近づかせないように念押しする程心配していたが、今回は貴族だけの招待なのでチャールズは呼ばれていないのだった。
ハイリンヒはグラスを傾けながら、壁によりかかるジェームズに寄りかかった。
「酔うのはまだ早いですよ。」
「酔ってない。はぁーチャールズが居ない夜会はつまらないな。」
「何言ってるんですか、今日はウェルズのメンバー試験中ですよ。」
「そんな事言ったってなー、ウィスコットとピーターが今あいつを監視中だろう?」
ロイヤルズのメンバーであるウィスコットとピーターもウェルズが入るのは歓迎していなかった、メンバー試験を作ったといえば喜んで監視員になると言ってきた程だ。他のメンバーは、二人の勢いにおされて、どう思っているのか不明といったところだ。
「えぇ、凄いやる気を見せてましたね。」
「あの二人もウェルズが苦手みたいだしな。俺たちのやる事はあと、ご婦人方とおしゃべりとダンスだけだ。」
「えぇ、そうですよ。なので俺はシャーロット嬢を探しにいきます。」
「は?!」
思わず見返してしまった。
「お先に」
そう言って、ジェームズはハイリンヒがいた壁から離れて、人の波の中へとはいっていった。
ハイリンヒは呆然としながらも、こうしては居られないとお酒を飲み干して後を追いかけた。
「はぁ。帰りたい。」
ぱたぱたと扇子を扇ぎながら、シャーロットは天使の燭台の影に隠れていた。先ほど王都で仲良く成ったご令嬢達と楽しくおしゃべりをしていたのだが、天敵であるウェルズを見かけてしまい、しかも自分たちの方に向かってきたので、逃げてきたのだ。
いつもなら、この華やかな世界を思う存分楽しんで、時々ロイヤルズのメンバーの誰かと踊ったりして楽しむのだが、今日だけはそうもいかないようだった。
他の友達もウェルズの見た目に驚いて蜘蛛の子を散らす様に、散って行ったのでもう帰っても平気だろうとは思うが、馬車がある方向と違う方向にきてしまった為またあの人の波に戻らなければ成らない。
天使の燭台の隙間からみれば、近くでウェルズがきょろきょろと周りを見渡しているのが見えた。身長が少し高いウェルズは目立っていた。
「あれって、絶対探してるわよね。もうーいやー。なんで私ばっかり。」
また大きなため息が口から漏れた。他にも女性はたくさん居るというのに、何故かウェルズはシャーロットに絡んで来る。去年から、王都に居る時に会おうとしているというのは、知っていた。だが、鉢合わせしないようにチャールズの予定と調整して逃げ果せたのだが、今回ばかりは被ってしまった。
「王妃様のご招待じゃ、断れないわよ〜うぅ〜。」
外を眺めようと窓ガラスに近づいて、夜の庭園を眺めれば後ろから声をかけられた。
「相変わらず気が強い顔してるなー。少しは美人になったかと思ったらブスはブスのまんまだな。」
窓ガラスに反射して見えるのは天敵のウェルズだった。シャーロットは、さっき迄離れていた場所に居たはずなのに、と思いながらも、社交場である場所での暴言とあまりの近さに固まってしまった。
「おい、無視かよ」
そう言って、シャーロットの肩を力強く掴んで振り向かせた。
「触らないで!」
思わず扇子でウェルズの手を叩き落としてしまった。
苛められ続けられたせいか、ウェルズに触られると気色悪くてなってしまい思わず激しく拒絶してしまうのだ。そしてその後いつも逆上されてしまうのだ、あれから何年もたって大人になったずと思いつつウェルズの顔を見れば、変わっていない事が伺え、シャーロットは顔を青くした。
「俺が声をかけてるんだぞ?!男爵のくせして生意気な!」
そう言って、シャーロットの細い手首をひねり上げた。
「きゃっ!!」
あまりの暴挙にシャーロットは叫び声を上げた。
「やめろ!!ウェルズ!!それ以上の無体を働くようなら、即刻俺の近衛から外して構わないだぞ。」
そう言って現れたのはハイリンヒだった。
「はっ!!ハイリンヒ王子、無体なんて失礼な、彼女と俺は幼馴染のようなもので」
「違います!離して下さい!!」
その言葉に、睨むようにウェルズがシャーロットを睨んだ。怒りのあまりか、シャーロットの手首はキツくしめられ、痛さで涙が溢れ始めていた。
「直にシャーロット嬢から手を離せ。これは命令だ」
その言葉に、舌打ちしながらもやっとシャーロットの手を解放した。すかさずシャーロットはハイリンヒの背中へと逃げれば、今度はハイリンヒに優しく手を握られて捕われてしまった。
「王子、誤解です。彼女とはちょっとした行き違いで」
「ロイヤルズのメンバー試験を忘れているようだな。女性には優しくエスコートしなければならないとあっただろ?それとも、もう3人エスコート出来たのか?」
ハイリンヒが言うと、近くにいたウィスコットが告げた。
「いいえ、王子。まだウェルズは誰一人エスコートできていません。女性には逃げられてばかりです。」
その言葉に、ウェルズは小さく馬鹿馬鹿しいと呟いた。もちろんその言葉はハイリンヒにも聞こえたが、聞こえない振りをした。
「そうか、しかも女性を泣かせているしな。」
そういって、ハイリンヒは背に隠していたシャーロットの手を優しく手前に引き寄せ、腰を抱き寄せれば、涙目になっていた目尻を手で拭った。
「残念ながら試験は不合格です。」
そうピーターが言えば、ウェルズが鼻で笑って言った。
「王子、私は近衛としてロイヤルズに入れと命令されているのです。それを王子の一存でなどと」
「俺には権限が無いとでも?ロイヤルズは本来俺が信用出来る友人達だけなんだよ。それなのにお前はごり押しで入ってきた。だから、ご夫人方がいわれる正式なメンバーではないんだよ。別に入らなくても近衛の仕事は出来るだろう。他の者達だって出来ているんだ。優秀な騎士を排出するメモナードゥ家の人間ができないはずがないだろう?これ以上ごねるようであれば、近衛としての資質もなしだと父上に伝えとくぞ。」
不愉快そうに早口に言い切ると、ハイリンヒはシャーロットを抱きしめたまま、手の指に口づけをした。
「もう大丈夫ですよ。シャーロット嬢」
そう優しく手を握りしめたハイリンヒは正しく絵本の中の王子様だ。思わずシャーロットは見とれてしまい、頰が染まった。瞳は先ほどの恐怖と痛みで涙目だったが今は違う意味で瞳が潤んでしまった。
「私と一曲いかがです?」
「喜んで」
嬉しそうに微笑むシャーロットにウェルズは驚愕した。ウェルズが知っているシャーロットは決して男の前で笑わないのだ。しかも、恋する乙女のような顔なんて見た事が無かった。
「なっ・・・シャーロッ」
「おやおや、騒がしいと思ったら、ココに居たのか。ウェルズ君。僕たちのメンバーに入りたいというから試験を行ったが・・・どうやら落ちてしまったみたいだね〜。僕たちは貴族だからね、ちゃんと舞踏会に出席して、女性を気持ちよくエスコートしないとダメだと言ったじゃないか。」
そういって肩を叩いて、追いかけようとするウェルズを止めたのはジェームズだった。もちろんその前にはウィスコットとピーターもいる。
シャーロットは王子と夢のような時間を過ごした。
ダンスの輪の中でクルクルと回りながら、楽しく会話してそのまま出口までスコート迄して貰えた。
「今日はありがとうございます。ハイリンヒ王子。」
「いいえ、こちらこそ。楽しい一時でした。不愉快な思いもあったでしょうが、私としては役得でしたね。」
にっこり笑って手の甲にキスをされ、シャーロットは嬉しげに笑った。
「ふふふ、まるで絵本の中の王子様みたいでしたわ。ピンチな時に助けてくれる。」
「それはよかった。一応本物の王子ですからね、物語の王子には負けられない。」
「まぁ!ふふふ、でも本当にありがとうございます。私、あの方がとっても苦手でしたの、しかも馬車の所迄おくって頂いて、王子と会う前は帰りたくてしょうがなかったんですけど、何だか名残惜しいですね。」
そう笑顔で言えば、ハイリンヒがふと真面目な顔をして呟いた。
「・・・私も」
「ぇ?」
視界が覆われて、口の中にぬるいワインの味が広がった。
ちゅっという音と共に、唇にひんやりと夜の風がふれていった。
何がおこったか分からず、シャーロットはぼんやりと王子を見つめてから、キスをされた事に気づいた。
「ぁ・・・」
自覚した瞬間顔が熱くなった。
顔を真っ赤にさせたシャーロットにハイリンヒは悪戯が成功したように笑みを浮かべて、抱きしめ耳元で囁いた。
「今の事は二人だけの秘密だよ。もちろんチャールズにもね。」
「はい。」
「ありがとう」
そう言って、耳を甘噛みしてから、シャーロットを馬車に乗せた。シャーロットは腰が抜けたように馬車の中でへたり込んでしまった。




