【ロイヤルズと代理人の青年?!】02
全速力で走り切ったチャールズは、待機させていた馬車に乗り込むと同時に動き出した。
胸が大きく上下する程息が上がっている。
「はぁはぁはぁ。はははは!やっぱり王子は後を追いかけてきた。」
息苦しさで涙が出始めたが、本当にそれだけかは怪しかった。心臓の音が耳に響く中、胸元を少し緩めた。この後は、今住んでいる部屋に戻り服装を変えるだけだ。
荷物は粗方、こないだ領地から来た辺境伯と一緒に送ってあるのだ。
「はぁ・・・苦しい。」
耳に残るのは己を呼ぶ王子の声だ。悲痛な叫びのようにも聞こえた気がした。自分だって本当は王子に使えたいと思っていた。身分さえ差し障りの無い者だったらよかったんだろう。もしくは、本当に親が居ない孤児で・・・。
そんな事を夢想してしまう自分に苦笑した。平民の婚期ではもうギリギリな年齢になっているのだ、大人しく結婚しなければならない。
「・・・好きだったなー。人として、ずっと側に居たかった。・・・時が止まってしまえば良いのにって何度思ったか。う〜ん。女性を口説くのに使えそうだな」
くどき文句に書き換えながら、チャールズは王都の町並みを横目で見た。窓ガラス越しに見えるのは歴然と並んだ町並み、溢れる人々。
自分の領地とまるで違う暮らしぶりだ。
5年間社交シーズンの期間だけ来れた華やかな首都。
それは、本当にただの偶然で神の悪戯だったと思う。
*
大きな川沿いに延々と続くのは石垣。石垣の内側は草原と森があった、石垣は大きな城壁で囲まれた町と跳ね橋と繋がっており、上で行き来出来る事が伺えた。
城壁で囲まれた町の中央には要塞とした装飾も何も無い石造りの城が立っている。
その城の中、重厚な木目調の家具が並び、片面は書物で溢れ、もう片方には領地の地図が貼られているこの部屋は、辺境伯の執務室だ。
この領地を治めるアムストラ辺境伯は、ガッツリとした体つきだが、顔はまだ若い青年顏だ、今はシャツを半分だけ羽織って左腕に添え木と共に包帯で巻かれていた。
その向かいに立つのは、側近の衣装に身を包んだ青年。中肉中背のポッチャリ体型だが、顔には愛嬌があり痩せれば美青年になること間違いない、その二人は机を挟んで向かい合っていた。
「それだけで倍のお給金が貰えるんですかぁ?」
渡された紙を見ながら青年は自分の雇い主を困ったように見た。
「あぁ、社交シーズン中代理で居るだけで良い。まぁ、御使いや雑務などは頼むがそれ以外は問題を起こさなければ自由だ。」
あっさり言われ、青年はしばし目線を彷徨わせてから言った。
「・・・バレないですかね?」
「・・・今でもばれてないだろう。周りの者もお前を推薦してきたくらいにな。ついでに、シャーロットも社交デビューさせとけとまで言ってきている。何より、他に対応できるものが領内にいると思うか?チャールズ」
そう言われて、チャールズは天井に目を向けながら、事務作業やマナーなど出来ない荒事専門の者たちばかりが頭をよぎった。
両方可能な者たちもいるが、場内で重要なポジションに居る為、一時的でも外すことは出来ない。
「・・・そうですね」
お互い乾いた笑を出しながら、同時にため息をついた。
「てか、シャーロットの社交デビューにはまだ早いですよ。少女は16歳からですよ。」
「そうなのか?あれ、お前16、7じゃなかったか?」
「まだ15歳です!!忘れないで下さいよ。ったく、その推薦した奴らも僕とシャーロットが15歳って忘れてますね。」
「はははは、そうだろうな。ということは、シャーロットは来年に持ち越しだ。」
気楽にいう姿にチャールズは、ため息をついた。
「はぁ、そもそもアムストラ様が怪我なんてされるからいけないんですよ。いつもはどんな荒事でもピンピンして帰ってくるのに。」
「あ、あぁ。今回は少しへまをしてな。ハハハハハハ」
笑い方がおかしい事にチャールズは気づいたが、どっちにしろ本当に怪我はしているので、誰かしら代理として行かなければならないのは確実だった。
この辺境伯の領内はちょうど国境付近、常に小競り合いが続く場所でもあり、国の防衛戦でもあるのだ。その為、唯一代理人が身内でなくても良いというくらい、色々免除されている。
しかも今回は辺境伯自信が、先日起きたの国境付近の小競り合いで怪我をしてしまったのだ。何より不安な状況で、直接軍を指揮する辺境伯が外れるのもマズかった。
「ついでに、王宮内の動きも見聞きしといてくれ」
ウキウキとしながら言うのは、面倒な王都に行かなくて済むからだ。その様子に、チャールズはそういえば毎年この時期に近づくと嫌だ嫌だと連呼していたなーっと思い出していた。
「はいはい。」
完全に行く気がない伯爵にチャールズは諦めたように返事をした。だが、心の中では年頃らしく、王都には興味があった。代理という立場のため、マナーは気をつけなくてはいけないだろうが、貴族同士の付き合いなど最低限でいいだろう。辺境の地と違って、王都は物語のように華やかな世界だといいなと別の意味でワクワクし始めた。
貴族が読む王都の観光名称の雑誌やファッション雑誌をよく辺境伯の部屋から借りて読んでいたのだ。それを思い出しながらチャールズは、思いついた事を言った。
「しょうがないですね!あ、住む場所はアパートメントがいいです。」
「俺の屋敷もあるぞ?」
不思議そうに言う辺境伯にチャールズは小首をかしげながら聞いた。
「そこを利用するのとアパートメント借りるのと、どちらが安いですか?使用人は口が硬いですか?」
そう言われて、辺境伯は連れて行く使用人の人数や日用品などをざっと計算し、管理を任せてる夫婦を思い出した。
「アパートメントだな」
社交シーズンは各領地から貴族が集まるため、王都に屋敷を構えて居ない者や、売ってしまった人のために貴族専用のアパートメントがある。
貴族用のアパートメントであれば、入り口に警備兵やコンシェルジュや掃除婦、臨時用の侍女も居る。殆ど身一つで住みにいけるのだ。食事はアパートメントにあるレストランで済ませばいい。
「ではそこで!」
王都の屋敷で、主でもないのに召使いを引き連れて暮らすなんていう堅苦しい暮らしをチャールが出来るとは思わなかった。ならば、雑誌で読んだ貴族用のアパートメントの方が気楽だ。何よりチャールズ自身の問題もあった。
「確かにその方が安全か。」
アムストラは、かなり安上がりになると思った。王都の屋敷で暮らすとなると、料理人から護衛やら色々人数が居るようになる。その分路銀もかかる。だがアパートメントとなれば、チャールズ一人で事足りるのだ。
「あ!ただし、入り口が二つある部屋にしてください。貴方の代理という姿と自由に歩き回れる姿の為に!そういうお部屋あるんですよね?」
アムストラは、ふた部屋続きの部屋を借りても安いなと即座に計算した。
「なるほど。よかろう、2部屋続きのものを用意する。名義はそれぞれ別にしといておこう」
「ありがとうございます!!」
それがきっかけだった。
それから5年も王都に通うとは思いもしなかった。




