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思いつくままに ー短編集ー  作者: siro
野次馬の正しいマナー

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【野次馬の正しいマナー】07

ふわふわと市井の映像が流れてくる。


今年は南からのルートはダメだ。


第一王子は体調が悪いらしい。


第一、第三王子は正妃の子だが側妃の実家も力をつけてる。

また価格が上がったよ。


第二王子は卒業と同時に軍部に入るって話だ。

最近色々実績を上げてるしな。


第三王子はあと2年で卒業か。


新聞を見返して、一瞬でた黒メガネさんの表情は明らかに苦虫を噛んだような表情だった。

と言うことは、第一王子か第三王子派の可能性がある。

そう思った瞬間、目が覚めた。

時々、昨日の出来事が夢の中で反復される、見落としたものや雑多な雑音が大きくなって出てくるのだ。じっくりかみ砕いて整理すれば自ずと眉間にシワが寄った。

むくりとベットから起き上がって、今度は私が苦虫を噛んだような表情になってしまった。

「夢見悪すぎ・・・しかも気付きたくなかったぜ。」


つまり、ミーナちゃんの忠告は市井での情報収集をやめた方がいいって可能性が出てきた。で王子(仮)の人は私が図らずも何処かの王子派の黒メガネさんと接触してるから忠告してきたという事だったんだ。

えぇぇぇえ!!と言うことは、襲われたのは私が何か知ってる可能性があると思われてるって事だ。


可能性って段階だけど、あり得る。

チラホラと王の跡継ぎ問題の話が上がるほどだ。

「まっすぐ帰る?でも今日は、約束してるからだめだー」


ちょっと憂鬱な気分になりつつ、市井に変装モードでいつも通りウロウロしてお話が夜の営業に切り替るまえの飲み屋に向かう。


ここには市井の友達が働いてる。何時ものように店の奥まった所のカウンターに座れば、お茶用のメニューが出される。

「おひさ、新作メニューはこれよ」

そう言ったのは看板娘ではなく、この店の店員の一人でかつ私の友達、スノーだ。

「おひさー。じゃー新作で。」

「ほいほーい」

そう言って厨房に注文しに行くと直ぐに戻ってきた。

「学校はどう?」

「ぼちぼち」

「そっかー。なんか色々起きてるみたいだけど。市井もそれで話がもちきりよーで、どうなの?」

食器を拭きながらスノーは身を乗り出して聞いてきた。

「起きてるっちゃー起きてるけど。」

ちょっと苦い顔で返せば、スノーが驚いた顔をされてしまった。

「珍しいわね。何処にでも野次馬して行くあんたが」

「んー火の粉がかかりそうっていうか、一回かかったっぽいから自重してる」

「あらー。」

「そっちはどうなの?」

そう聞けば、身を乗り出して小声で言われた。

「んーきな臭いわね。最近移動してきた憲兵も多い」

「へー・・・」

「やな感じね。」

そう言ってると、ちょうど憲兵の人達が来た、確かに今までより人数が多く、ここら辺で見ない顔ぶれだ、明らかに日に焼けすぎて黒い人が増えていた。

そのあとに、ひょっこりと一般客が入ってきたのだがそれが。

「ぁ、黒めがね」

まさか憲兵の後をくっついてきたのか?と思うようなタイミングだった。

最近良く合うな。と思いながら料理が来た。スノーは憲兵の人達の注文をとりにいってしまった。

耳をすませば、憲兵の人達はたわい無い事しか話していない。炒めご飯を食べ終わったら直ぐに帰ろうと思いながら、モグモグしていると隣に人の気配がした。振り返れば黒めがねさんが隣に座って来た。

「今晩は」

「今晩は」

「隣いいかな?」

「聞く前に座っているように見えるけど」

「ははは、確かに」

一瞬、憲兵の人達の中から視線を感じた。気のせいであって欲しいけど。どうやら気のせいじゃ無いっぽい。むむーまた巻き込まれるのかな?

「美味しそうだね。それ、どのメニュー?」

「新作ですよ。」

「じゃー俺もそれで。」

そう言うや否や、早速注文した。

「最近、市井に出るたびに会う気がするんですけど。つけてるんですか?」

「奇遇だね、俺も出かけるたびに君が先に居るんだけど、僕の予定表でも見てるの?」

「偶然ですか?」

「偶然だね。」

「・・・」

ちょっと納得できないと思いながら、ルーナは食べる事に専念した。黒めがねさんが横に座ったらスノーとはおしゃべりできない。今日は食べ終わったら早々に帰る事にした。横に同じ商品が置かれるのを横目で見ながら、ついでに憲兵もみた。

やはり、黒めがねさんをチラチラ見てる人がいる。

「ここにはよく来るの?」

「え?」

突然話を振られて、ルーナは驚いた。しかも視線が痛い。

「・・・時々よ。ここら辺の美味しいお店はだいたい制覇したから。今日は新作日だから来たの」

「なるほど。」

「・・・貴方はよく来るの?」

「時々かな。・・・ふふ、なんか運命みたいだね。」

「どうしたの?」

いきなりロマンチストみたいな台詞にルーナは思わず眉間に皺を寄せた。

「いや、なんかこんなにも会うから。まるで運命の赤い糸に引っ張られてるみたいだなって。」

「寝言は寝ていって下さい。私の事恋愛対象として見てないじゃないですか。」

「そんな事は分からないよ?だって男女だし」

「はいはい」

軽く流すと、苦笑されてしまった。なんだろう?黒めがねさんらしくない。そんなに親しい訳じゃないけどね、なんか雰囲気が暗いなーっていうのか。

でも、さっさと去りたかったので食べ物をつめこんだ。食べ終われば、黒めがねさんも同じタイミングで終わっていた。私の方が早く食べ始めたのに、げせぬぬぬぬ。お勘定も何故か払われていた。

「払うわ。奢ってもらう理由ないし。」

「いやいや、一緒にご同伴頂いたので、お礼だよ。」

そう言って肩を竦めてみせた。一瞬視線は憲兵にいっていたの気のせいであって欲しいな。

「そう、じゃお言葉に甘えて。」

そう言って、立ち上がれば、黒めがねさんも立ち上がって腕を掴んできた。

「暗くなってきたし、途中まで送るよ。」

「結構よ。」

本能的に、去らないとまずいって思う気持ちを優先して振り払っても、黒めがねさんが諦めずに、今度は手首をしっかりと握られてしまった。

「な、何?」

「・・・危ないだろ?」

まるで置いてかれそうな子供のような目が私を捕らえた。甥っ子達みたいな目をしないでよ。

「平気よ。離して。」

「送ってく。そこの辻馬車の所まで。」

今迄、送ってくれることなんて一度も無かったのに、黒めがねさんは私を引っ張ってお店の外に出て行った。

「離して!なんなのよ!」

強めに言っても、黒めがねさんは無言で歩いて行く、後ろをちらりと見れば、やっぱり憲兵の人が2、3人見えた。

つけられてる。本当にこの人何者なの?!

ぐっと引っ張られて連れ込まれたのは、ちょっと路地裏に入る入り口。そこの壁に押さえ込まれてしまった。

「・・・くろめがねさん?」

「君はさ・・・」

まさしく壁ドンみたいなポーズだ。とか思いながら、顔が近くてさっき食べたご飯にニンニク入ってたんだよなーとか違う事を一生懸命考えてしまった。

それでもやっぱり、眼鏡と髪の毛の隙間から見える、紺色の瞳と間近に見える端正な顔立ちで相当美形な事に気づいてしまい頰が熱くなった。

「「・・・」」

「君とは変わらない関係でいたい。いや、変わったとしてもより深い関係がいいかな」

「・・・今日は本当にどうしたの?」

そう言うと、顔が近づいたと思ったら抱きつかれてしまった。ダンスや友達との悪ふざけでは触れた事が無い程の接近でルーナの思考は飛んだ。


「もしも、俺が君の事が好きだと言ったら君はどう思う?」


黒めがねさんの肩越しに見える、路地裏に差し込み橙色の光が血のように見えた。





怖くなって、私は黒めがねさんを突き飛ばして駆け出した。

なんで怖くなったのか分からない。けれど怖いと思ったのだ。知っちゃ行けない物を知ってしまうような、そんな怖さ。

それは確実に自分を傷つけるって思った。


振り返る事は出来なかった。



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