3 サカナボール登場
翌日、雲弘寺の朝は早い。
日が昇る前から起床し敷地内の掃除、それが終わると朝食の支度にかかる。
珍念は米を研いでいた、雲弘寺では米が食べられるのだ。
決まった量を毎日同じ質感に仕上げる、像念は野菜の支度。
人数が多いので速さが求められるが雲弘寺の食事は決まった調理法がありそれを守らなければならない。
留念は皿の支度、無駄な動きをせず素早く並べていく。
朝食が終われば修行に入る、まずは座禅。
そして、体を動かし型の稽古。
その後に食材を調達しに行く者もいる。
昼食を終えたら師範たちから宗教や学問などの講義。
さらに夕食まで剣術などの武術の修行をする。
弟子たちはこれらの修行を日々こなし戦う術や生きていく知恵を身に着ける。
修行を終えた者は寺に残り師範になる者や寺を離れ文学者や僧侶、兵法者になる者など様々である。
そしてしばらく経ち相変わらず珍念たちは激しい稽古に厳しい禅の修行をしていた。
剣術の修行で前腕の筋肉に痛みが出てそれに加え暑い時期は体が重くなり型が乱れやすくなる。
この時期はまだ残暑が残る時期であり禅の修行も過酷で集中力を維持するのは並の事ではない。
ある日、和尚や他の僧侶が出てきて誰かを出迎えている。
その人こそが以前に和尚が話していた外から稽古をつけにやってきたサカナボールであった!。
一同は広間に集められサカナボールの挨拶が始まった。
「初めまして、桜山社から応援に来ましたサカナボールです、雲弘寺の補佐や門弟の方々の指南を務めます。」
「サカナボール殿は桜山社の社長から非常に信頼され様々な仕事を任せられている優秀な社員だ、ここでは主に新弟子たちの字の読み書きや武術の指南をしていただく。」
挨拶が終わると師範代たちがサカナボールを案内して明日からの予定を話し始めた。
なんでも最初は門下生たちに寺の外の事を教えてくれるらしい。
正直、優男で西洋の服を着ている彼の姿を見た留念は大丈夫か?と思っていた。
翌日、門下生たちは集められ学堂の間でサカナボールの講義を受けた。
「大きな港では外国との交易が盛んで私のいる桜山社も異国からやってくる人たちを支援したり宿場を提供したりしています。」
「今、日本国は大きく動いていて異国との交易は今後の国を支えていくうえで重要な要素となってくるのです。」
後の世では当たり前のことだがこの時代の日本の片隅にある寺で生活している彼らにとってサカナボールの話は新鮮そのものだった。
「す…すごい!、サカナボール先生の話はこの国を豊かな国へと導く教えだ!、 国の外の事なんて考えたこともないよ!。」
珍念は瞳を輝かせながら話を聞いていた。
彼はどうやら武芸以外の学問にも非常に興味があるようだ。
一方留念は…。
「そりゃ日本国の外の事なんて考えた事も無いだろうさ、ここにいる奴らはここに来るまで海も見たことないような田舎者ばかりだからな。」
「そんなことよりサカナボール先生とやら!政の話なんていいから俺たちに兵法を教えてくださいよ。」
「大丈夫、明日からは武術の指南をしてほしいと師範から頼まれているからね。」
珍念はもちろん門下生たちは真面目にサカナボールの話を聞いていた。
また、武術にしか興味がないように思えた留念だが意外な事に話自体はきちんと理解しているようだ。
講義は終わり門下生は宿所に戻っていった。
皆サカナボールの講義の話題で盛り上がっていた。
「留念はすごいなぁあんな物知りの先生に早く武芸を教えろだなんて物申すんだもんなぁ。」
「僕はサカナ先生の話は難しくてよくわかんないや。」
「当然じゃ像念、俺は商人になりたいんじゃないこの腕で士官して一流になることだぞ!。」
「でも僕は感動したよ留念!像念!、凄いねサカナ先生は。」
「まるで国主が考えるような事を僕たちに聞かせてくれて、それにあの人は武芸も達人なんだよね!。早くあの人の技が見てみたいね。」
それぞれ思うことがあった三人であった、三人が目指す道とは…。




