第十二話 煮込み
カウンター席に座っている顔の濃い白人男性を見た時、僕はなんだかアンコールワットあたりの石像の顔を連想した。白人にしてはよく日に焼けている。ただ焼け方にムラがあって、僕は北海道にスキー旅行に行って雪焼けして返ってきた友人を思い出した。彼はさっきからチビチビとウィスキーをロックでやっていた。
「ウィスキーはアイリッシュウィスキーに限ると思っていたが、日本のウィスキーもなかなか美味いじゃないか。こんな大きな氷を見ていると、氷漬けになりかけたあの航海を思い出すよ」
それはいい思い出なのか悪い思い出なのか僕には判断つかない。
とにかく彼は、大将が包丁で削り出した大きな氷をグラスの中でクルクル回しながら、そんな事を言う。
今飲んでいるのはサントリーのオールドなので、アイリッシュウィスキーと同じくスモーク臭くないのが気に入ったのだろう。
「でもどうしてアイリッシュウィスキーにこだわるんですか?」
そう尋ねると、彼はキッとコチラを見た。
「それは私が誇り高きアイルランド人だからだよ」
アイルランド人が誇り高いのかどうかは知らないが、要するに故郷の味だということか。
「小腹が空いたので何か頼もうと思うのだが、このメニューに載っている煮込み、とは一体何を煮込んだものなんだ?」
「ああ、煮込みですか。煮込みは豚のホルモン、この場合は小腸ですね。を野菜と一緒に味噌味で煮込んだ料理です。お酒にも合いますよ」
すると男性は大袈裟に驚いた。
「何?内臓を食べるのか。私の故郷では煮込み料理は食べるが、煮込んでいるのはラム肉や牛肉だ。だいたい内臓なんて貧困層しか食べないぞ!」
僕は煮込みの写真を見せながら説明する。
「アイルランドではどうか知りませんが、日本じゃ貧富の差に関わらず、みな内臓も食べますよ。ウチのは下処理をしっかりしてるので臭みも無くて、とっても美味しいですよ」
すると男性はしばし腕を組んで考え始めた。
「内臓かぁ、内臓なぁ。いや、しかし、何事も冒険の精神が無ければ発見はないか」
いや、そんな大袈裟な事じゃないと思う。
「私にその煮込みをくれ」
結局頼むんかいと思いながら、僕は冷凍庫で小分けされている煮込みを取り出し、レンジで温めて出してやった。
男性はいかにもおっかなびっくりといった様子で、恐る恐るホルモンを口に運んだ。
「おぉ、これは柔らかい。この味噌?の味がよく染みている」
「お口に合いましたか?この七味をかけるとまた味が変わって美味しいですよ」
そう教えてやると、彼は早速七味を振った。全体が赤くなるほどかけていたので、若干かけすぎかけすぎと思ったが、食べた本人が
「おお!このホットな感じもまた美味い!」
と喜んでいたのでまあいいか。
結局彼は二回もおかわりをして、ウィスキーはボトル一本を空けて帰って行った。
「やっぱりあっちの人ってお酒強いんですかね?」
大将にそう質問すると、
「まあ、人によるんじゃない?若い頃からウィスキーばっかり飲んでると強くなるのかもよ」
と、あまり参考にならない答えが返ってきた。
当然その日の夜は煮込みと白米のまかないにしてもらった。煮込みってお酒だけじゃなくてご飯にもピッタリなんだよね。




