第2話「静寂の振り子」
翌日の放課後。
理科準備室の前には、立ち入り禁止の札が掛けられていた。
だがユウマとミナトは、生徒会からの調査依頼という名目で中へ入る。
「昨日の録音機、先生たちも驚いてたよ。まさかこんな古い機械が動いてるなんて」
ミナトが感心したように言う。
「電源ケーブルは壁のコンセントにつながっていた。
つまり、誰かが最近になってわざわざ電気を通したということだ」
ユウマはケーブルの先をたどりながら、机の下にしゃがみ込む。
「犯人は理科室に自由に出入りできる人物……つまり、理科部か、用務員か、教師のどれかだね」
「もう一つ、音の“ズレ”が気になる」
ユウマは録音機を再生し、時計の音に耳を澄ませた。
カチ、カチ、カチ――。
「……あれ? 時計の音、ほんの少し速くない?」
ミナトが首をかしげる。
「気づいたか」
ユウマはわずかに微笑む。
「この音、実際の時計より約一秒早いテンポで録音されている。
つまり、“本来より時間が進んでいるように聞こえる”んだ」
「なんでそんなことを……?」
「それが、“静寂の振り子”の鍵になる」
ユウマは壁の時計を見上げた。
針は、昨日と変わらず23時47分で止まっている。
だがその下の床には、銀色の部品――小さな振り子の先端の重りが落ちていた。
「この時計、振り子式だ。
重りが取れれば、当然止まる。
だが……録音された音だけが残れば、止まっているのに“まだ動いている”ように錯覚できる」
「なるほど……。じゃあ、犯人は“止まった時計がまだ動いてるように見せかけた”んだ!」
ユウマは小さくうなずく。
「だが、なぜそんな偽装を?」
彼は机の上に置かれた封筒を手に取った。
“理科準備室の時計、止めないでください”とだけ書かれた匿名のメモ。
筆跡は――教師のものに似ていた。
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夕暮れの鐘が鳴る。
校舎全体が赤く染まる中、ユウマは呟いた。
「止まった時計は、“罪の記録”を止めるためのものだったのかもしれない」
ミナトは息をのむ。
「つまり……時間を止めたかった“理由”がある?」
「おそらく、ある教師が“過去の過ち”を隠そうとした。
その時刻――23時47分――は、その出来事が起きた瞬間の証拠だ」
ユウマは録音機のスイッチを切った。
途端に、音が完全に消える。
「……静かだね」
ミナトが呟く。
「静寂の中にこそ、真実の振り子は揺れている」
ユウマの言葉に、ミナトはぞくりとした。
まるで時間そのものが息を潜めたような空気が、部屋を包んでいた。
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