第3話 色彩の告白
翌日、ユウマは再び美術室に足を踏み入れた。
絵筆の傾き、床の絵具跡、そして部員たちの証言を整理する。
「最初のヒントは、床の絵具の跡だ」
ユウマは指で跡をなぞる。「ここから筆を取り上げて、あちらに置いた……不器用な手つきだ。だが、意図は悪意ではない」
ミナトは驚く。「意図が悪くない……って、どういうこと?」
ユウマはキャビネットの鍵を見つめながら説明する。
「筆を“盗む”つもりではなく、失敗や汚れを心配した人物が、作品の途中で一時的に別の場所に置いた。その行動が、他の部員には“消えた”ように見えたわけです」
佐倉リナは小さく息を吐いた。
「……ああ、あの時の私の焦り……そういうことだったのね」
ユウマは静かに微笑む。
「絵筆は戻すことができました。問題は“行動の意味”です。誰かの不器用な想いが、事件を起こしたに過ぎません」
ミナトは天井を見上げる。
「なるほど……ただの消えた筆じゃなくて、みんなの気持ちの行き違いだったんだ」
部室に、柔らかな光が差し込む。
絵筆の色と同じように、事件の灰色の影は消え、心の余韻だけが残った――。
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事件のトリック要素
•絵筆は外から盗まれたのではなく、内側から一時的に移動されていた
•絵具の微かな跡・筆の傾きが伏線
•読者には床の跡や筆の状態、部員の心理描写で「誰が動かしたか」を推理させる
•トリックよりも「行動の動機・心理」に焦点を当てた感情系ミステリ
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