表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰色探偵ユウマの放課後事件録  作者: たくわん。
第14事件 音楽室の消えた楽譜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/78

第4話『残響の告白』



夜の音楽室。

誰もいないはずの空間に、微かな“余韻”だけが残っていた。

まるで、誰かの後悔がまだここに漂っているかのように。


ユウマはゆっくりとピアノの前に座った。

ミナトが緊張した声で尋ねる。


「ユウマ……これ、本当に“告白”なんですか?」

「そうだ。――この旋律自体が、告白なんだよ」


ピアノの譜面台には、五年前の吹奏楽部の少女・東雲しののめユリが残した《灰色の旋律》。

だが、ユウマはそれをただの曲としてではなく、“暗号文”として見ていた。



「この譜面、見てみろ。

 音階の上昇と下降が、文字の筆順に似ている。

 つまり――音の高さのパターンを『五十音』に対応させてあるんだ」


ミナトが驚きの声を上げる。

「じゃあ、この曲を“文字”に変換したら……?」


ユウマは静かにピアノを弾いた。

灰色の旋律――一音一音が、まるで言葉のように繋がっていく。


曲の最後、ピアノの“ド”を押した瞬間、ユウマの口から呟きが漏れた。


「――“わたしは、罪を犯した”。」


ミナトが息を呑む。

「罪……って、どういうことですか!?」



ユウマは、譜面の下に貼られた古いメモを指差した。

そこにはこう書かれていた。


『誰かを救うための嘘は、罪になるのでしょうか?』


「東雲ユリは、消えたんじゃない。

 彼女は“部の不正”――大会の審査点改ざんを知ってしまった。

 それを公表すれば顧問も、仲間も失職する。

 だから、彼女は“自分がいなくなったように見せかけた”んだ」


「つまり……自分を“犯人”に仕立てた?」

「そう。盗難も、事故も、全部“作られた”事件だった」



ミナトが震える声で言う。

「そんな……じゃあ、ユリさんは今どこに?」


ユウマは音楽室の隅に置かれた古びたロッカーを見つめた。

扉の内側には、写真が一枚貼られていた。


そこには、数年前の吹奏楽部の集合写真。

中央には、笑顔のユリ。

その横に――今の音楽教師、鳴神なるかみ先生の姿があった。


「……やっぱり、そういうことか」

ユウマの声が低く沈む。

「この旋律を“残響”として残したのは、彼女じゃない。

 鳴神先生……あなたですね?」



扉が静かに開いた。

白衣の裾を揺らしながら、鳴神が現れる。

「……さすがだね、ユウマ君。あの曲を“解読”するとは思わなかった」


「あなたが《灰色の旋律》を再び演奏させたのは、“懺悔”のためですね」

ユウマの言葉に、鳴神はゆっくりと頷いた。


「五年前、私はユリの計画を止められなかった。

 彼女は罪を背負って姿を消した。……その旋律を、私が“消えたことにした”。

 彼女の意思を、守るために」


ミナトが涙を浮かべる。

「じゃあ、ユリさんは――」

「今も生きてる。別の街で、音楽教師をしている。

 ただ、あの夜の“沈黙”だけは、誰にも話していないそうだ」



ユウマはピアノの前に立ち、最後の一音を鳴らした。

「ド」――静寂が、再び音楽室を包む。


「これが、東雲ユリの“残響”だ。

 罪と救いの狭間に置かれた一曲。

 ――そして、あなたの贖罪でもある」


鳴神は目を閉じ、深く息を吐いた。

「ありがとう、ユウマ君。

 ようやく、この音が“止まった”気がするよ……」



雨がやみ、窓の外に朝の光が差し込む。

ユウマは空を見上げて呟いた。


「音も、言葉も、消えない。

 誰かが聴いてくれる限り――それは残響として生き続ける」


ミナトが笑って頷く。

「……じゃあ、この事件のタイトル通り、ですね」

「“灰色探偵”の仕事は、ここで終わりだ。

 ただし――また音が鳴れば、僕は聞きに行くさ」


ユウマは立ち上がり、静かにドアを閉めた。


音楽室には、もう何の音も響かない。

ただ一枚の譜面だけが、風に揺れ、淡く囁いた。


“ありがとう。わたしの旋律を、見つけてくれて。”



■この事件のトリック要素

•音階を「文字コード」として扱う譜面暗号(=曲全体がメッセージ)

•“沈黙の時間”に鳴る残響音=隠されたオルゴール起動トリック

•真犯人は存在せず、罪の「告白」を音として残した道徳的ミステリ

•“音”による記憶と贖罪をテーマにした、感情派推理エピソード

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ