第3話『沈黙のエチュード』
校舎の電源が落ちたのは、午後11時ちょうど。
一瞬で世界が闇に沈み、静寂が訪れる。
だが――その静寂の中で、ひとつだけ確かに響いた音があった。
ピアノの「ド」の音。
誰も触れていないはずの鍵盤が、確かに沈んだのだ。
ミナトが息をのむ。
「ユ、ユウマ……今の、聞こえましたよね!?」
「……ああ」
ユウマは懐中電灯を手に、ピアノの奥を照らした。
中に仕込まれていたのは、古いオルゴール。
ねじが切れて動かないはずなのに、ほんの一瞬、ゼンマイが震えていた。
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「このオルゴール……五年前の《灰色の旋律》と同じ旋律だ」
「つまり、これが“音源”……?」
ユウマは首を横に振る。
「いや、これは“鍵”だ。真の音源を隠すための」
ピアノの譜面立ての裏を確認すると、小さな焼け焦げた紙片が貼られていた。
そこには五線譜の断片――だが、音符の一部が左右逆転している。
ユウマの目が細くなる。
「反転譜……つまり、鏡で見ると正しい譜面になる仕掛けだ」
彼は音楽室の鏡――生徒たちが使っていた姿見の前に紙を持っていった。
すると、譜面の上部に浮かび上がる言葉。
“沈黙の中に在りて、真の旋律は響く”
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ミナトが不安げに辺りを見回す。
「真の旋律……って、何を指してるんですか?」
ユウマは答えず、ピアノの鍵盤を三音だけ叩いた。
「ラ、ド、ミ」――音が響かない。
代わりに、壁際のスピーカーから低い雑音が流れ出した。
「……聞こえるか、ミナト。このノイズの中に“声”が混ざってる」
「えっ? ノイズに……?」
ユウマは携帯レコーダーを取り出し、再生速度を下げた。
すると、かすれた声が浮かび上がる。
『き……え……た……の……は……わた……し……じゃ……な……い』
ミナトの顔が真っ青になる。
「これ、五年前に消えた吹奏楽部の子の声……?」
「恐らく、そうだ。彼女は“消えた”のではなく――消された。
《灰色の旋律》は、真実を隠すための曲だったんだ」
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その時、音楽室の扉がバンッと閉まった。
突風が吹き、楽譜が宙を舞う。
その中の一枚がユウマの足元に落ちた。
裏には、たった一行のメッセージ。
“ユウマへ。次に鳴る音は、あなたのために。”
ミナトが悲鳴を上げる。
「これ、誰が……!? まさか、ユウマを狙って――」
ユウマは静かに指を立て、ミナトを制した。
「落ち着け。これは“挑戦状”だ。……犯人はまだ、この学校にいる」
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雨音が、音楽室の窓を叩く。
外の世界と遮断されたこの空間で、再び“沈黙の旋律”が始まる。
ユウマはピアノに手を置き、目を閉じた。
「いいだろう。君のエチュード(練習曲)……聴かせてもらおうか」
灰色探偵の耳が、沈黙の中の真実を捉えようとしていた――。




