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健全な話し合い

本日2話目は少し短めです。お楽しみ頂けると幸いです。

【第三者視点】


場所は秘密の会合として使われるレストランだ。


「さて、では報告しますね」

「あぁ頼む」


円卓に着くのは今や国内でも有数の商人、冒険者組合でも役職は無くても指折りの猛者、様々ある組合の中で長とまではいかなくても次期幹部と目されている者たちだ。


「さて情報をくれた青年が教えてくれた『中央聖教国』なる国についてですが」

「調べなくても分かるだろう。活動内容からして正人類統制教会の仕業だろう?」

「実質ハモンギット王国は乗っ取られたってことだな」

「まあわざわざ裏取りしてもらった成果だ。これで確定になって良かった。疑いなく決断できるのは良いことだ」


参加者からは単語1つだけで既に知っている情報だと言わんばかりにぼろぼろと溢れてくる。面白くないのは報告を行おうとした者だ。


「報告させてくださいよ」

「あぁ、すまない。頼む」


代表して一人が謝罪を伝えると他の参加者も口を閉ざす。一人だけ頭をかいているが、旧知の仲のためとやかく言わずに報告を進めることに決める。


「まあ皆さんが仰ってくださったことで間違いはありません。ただ、この先の行動予定も掴めました。どうやら春先の武闘大会に参加者を送って来るようですね」

「ほう」


全員から続きを促されたことを確認して満足したように頷いて報告者は話し出す。


「どうやらマルクトで情報を集めていたようですね。邪獣人なるものの魔力を感じましたが、一瞬で消えたことから実験は失敗と判断したようですね。しかし何か騒ぎは起こしたいらしく、それに武闘大会がうってつけの様です」

「面倒な。王都の方で警備を固めるしかないな」

「冒険者の中にも出場するつもりの者が多いぞ?兵士だけでどうにもならないとはいえ…」


ハッキリ言えば王都は非常に危ういバランスに成り立っている。王族は権力に固執し、貴族は王族に取りいる者、自分たちだけの派閥を作る者、その中でも民のためを考える貴族がいないわけでは無いが数は少ない。

そこで事件を起こされてしまえば王国の基盤が揺らぐ。貴族たちが気づいていないだけで王国民たちは自分たちだけで生きていかなくてはいけない状況に気づき、何とかその体制を作っているところなのだ。

この集まりも本当に何とかするためには組織を超えて協力するために集まっているものだ。ギリギリだとしても方向性が一致しているおかげで今の状況を保っていられる。


話を戻すと武力を前面に押してこられた場合、兵士だけでは非常に心もとない。強さが突出する者は権力に取り込まれるか、権力を嫌って兵士ではなくなる。その先に冒険者を選んでいる者が多いが、その場合は王都から離れている者も多い。

だからと言って警備という名目では乗って来ない。愛国心など消えたから兵士をやめているのだ。だからと言ってこの会議で話している内容全てを打ち明けるわけにもいかない。何かの口実が必要となる。


今から兵を鍛えるにしても時間も足りず、武器を新調するにもそんな予算も材料も足りない。八方ふさがりで頭の1つや2つは抱えたくなる。


そこでのっそりと手を挙げる者が一人いる。


「えっと、ザ、じゃなかった。なあ、あいつは結局、武闘大会に出るつもりなのは変わらないんだろ?」

「そうですね。出場するつもりですし、まだまだ強くなるみたい心づもりみたいですよ」

「じゃあ心配いらねぇよ。この国なら1日で3回滅ぼすだけの勢力のやつが来るよ」

「そういえばお前たちが最近懇意にしている冒険者の子どもがいると聞いたがそいつか?」

「冒頭の青年のことですよ」


他の参加者は二人がのんびりと構えていることが不思議で仕方ない。


「さて、彼が気持ちよく協力してくれるようにするためにちょっとご相談がありましてね」


新たに資料を一枚配っていく。渡された側は順番が来ると何を渡されたのかと食い入るように見るが、ただの依頼書に困惑する。


「なんだ?グレイブ村にあるダンジョンの攻略依頼?」

「正気か?何人もの金級冒険者を飲み込んだ魔窟だろう?人材の無駄遣いではないのか?」


この反応に己の予想が間違いなかったことに心の中でほくそ笑むが、表情にはおくびにも出さない。見抜いているのは手を挙げた旧知の友だけだろうが何も言って来ない。言ったところで信じてもらうことも出来ないだろうからだ。


「これを告知してくれたらやつらも正面から来やすくなるでしょうし、国内の冒険者も武闘大会に集まってくると思いません?都合良いでしょ?」

「そういう視点で見ればそうだが、防げなければ問題ではないか?」

「大丈夫ですよ。既にそのダンジョンも中に入って攻略してますから」

「そんなバカな!?」


勢いよく立ち上がるのは王国内でも強いと認められている男だ。


「まさか…、おい!お前よりも強いってことじゃないのか!?」

「そうだよ。今の俺なら2分も持たないな」

「何者だ?……化け物にも等しいじゃないか。本当に人間か?」

「人間では無いらしいですね」

「変人だとか言ってたな」

「……冗談なら聞くつもりは無いぞ!」


本当のことなのにと笑い合うが、信じられないのも仕方ない。それではと合図して差し入れをそれぞれへと出してもらう。


「彼が言うには中では一口で虜になるほどの果実が手に入るそうです。その中でも味の薄いものをもらってきました」


全員に渡されたのはバナナだ。本来なら品種改良で食べやすいようになっている果物だが、最初からそうであったかのように木に生っていたものだ。イレブンに依頼して手に入れて来てもらったものだ。果汁たっぷりのものはいきなりだと刺激が強い。


「まあ食べてみてくださいよ。おいしいのは保証しますから」


言われる前に皮をむいて食べ始めているのは一人いるので毒見うんぬんを言う必要はない。話の流れからいってダンジョンで収穫されたものだとは分かるので物は試しだと一口食べてみる。


もぐっ。


全員がはっと気が付くと手の中にバナナが残っていなかった。さすがに皮は残っている。


「あれ?」「えっ?」「俺、食べてなかったっけ?」


でも口の中にはバナナの香りが残っている。歯で噛んだだけで固形物からジュースになったかのように錯覚したかのような感動がもう一度戻ってくる。味が薄くてこれとは一体何だ!?全員の心の声が一致した時にもう一度声がかかる。


「これだけ美味しいとなると隔絶したナニかから手に入れたって信じてもらえますかね。ちなみに、僕はリンゴが気に入ってます」

「俺はブドウだな。マスカットも捨てがたいけど」


ちょっと信じて見てもいいかなと思ったのは間違いなく。何とか他の果物を分けてもらうことができないかと交渉に入ったが、公に始まるまではダメだと一蹴されてしまう。

だったら後押しするから絶対に一番に寄越せよと捨て台詞を残してそれぞれが出来ることを最速で達成するために帰っていく。


「相変わらずお膳立てがうまいな」

「イレブン君の持ってくる物が美味しすぎるからですよ。今までで一番楽でした。あとは彼がどうにかしてくれるでしょう」

「じゃあ、俺も根本から鍛え直すとするかな。薙刀隊に混じらせてもらうつもりなんだよ」

「がんばってくださいね」


あと一つ親友に言っていないことがある。これがうまくいったとしたらおそらくグレイブ村は様々な支援を受けて村、町と発展していくことになるだろう。

そうなると移住希望が出てくることは間違いない。しかも最初からダンジョンがあることが分かっているのだ。冒険者組合が新たに作られることは間違いない。しかもある程度強い者が。


「がんばらないといけませんけど、言わないでもそのうち分かることですからね」

「なんか言ったか?」

「いえ、別に」


自分の分として持ってきているリンゴたっぷりのパイを取り出して切っていく。もう一人は中にブドウが何粒も入っているゼリーを渡されて無言で食べている。


「ゆっくり待っていれば少しは分けてあげたんですけどねぇ」


そんな親友を見て、まだみんなこいつのこと分かってないよなぁと思った男もいる。

とはいえ、もう少し落ち着いてから帰ることには賛成のつもりらしく、二人ともゆっくりと休憩してから帰宅する。


余談だが、途中で様子を見に部屋に入ったスタッフが幸せをかみしめた顔で歩いていたところを目撃されたが、中で何があったかについては決して口を割ることは無かったそうだ。

お読みいただきありがとうございました。

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