何かする前に相談しなさい
お楽しみ頂けると幸いです。
「ダメですよ。勝手にやったら不法占拠です。しかも村一つ?今は放棄されているとはいえ、貴族と戦争でも起こす気ですか?国への反乱を企んでいるとして討伐対象になりかねませんよ」
こういうことに詳しそうなザールさんに聞いたら一刀両断させた。危なく犯罪の中でも不穏なワードが一文の中でいくつも登場している。
「ダ、ダメでしたか。そこまで怒られるとは…」
「当たり前です。少しずれてるとは思っていましたが、ここまでとは…」
ザールさんは溜息を飲み込むようにお茶を口に含む。頭痛が発生しているかのような表情だ。原因は俺だけど。
ゲームの時はかつてグレイブ村に過去住んでいた人の血を引いている若者が開拓していくのを手助けするイベントだった。各地にいる移住を希望している人や必要な物資を渡して発展していくという長期イベントだった。
とうぜんそのキーキャラがいるわけではないが、俺が勝手にやろうとしてもいけなかったらしい。
「まず領主の許可を得なければなりません。その際に細かい話ですが税に関しても決めなくてはなりません。知らない人からすれば盗賊が村を作っていると勘違いされてもおかしくないんです。原因のダンジョンに関してはイレブン君くらいしか管理できないとしても、です」
やっべぇ。本当に大事になるところだ。思い付きで始められるから動こうとしたけど事前に相談しなかったら危なかった。どうも今すぐは無理のようだ。残念だが諦めるしかない。
「すいません。相談して良かったです。ありがとうございました」
そうなると引き取ることになったあの人数はどこにいてもらうのが良いだろうか。一度獣人の村に引き取ってもらうしかないだろうか。
まず、あれだけ啖呵切って引っ張ったくせに、切り捨てられた俺の顔は再起不能ではなかろうか。そこまで考えたときに肩を掴まれる。何事かと思って振り返るとその手はザールさんだった。
「どこに行こうというんですか」
「え?いや、移住が無理なら違う方法を探ろうかと思いまして…?」
妙に迫力のある微笑みを浮かべてザールさんが更に手に力を込める。申し訳ないけど全く痛くない。むしろザールさんの指が心配になる。いや、話はそこではなくて。
「無理とは言ってないでしょう。私が今から案を出しますから、準備しましょう。移住させる方々は一旦はこのまま住まわせてもらいましょう。いや、余裕があるなら実際に現地を見てどんな技術が必要なのかを見てきてもらいましょうか。生きていくための産業や稼ぎは……問題ないですね。イレブン君ですから」
「なんとかなるんですか?」
最初と逆のことを言われているような気がするが、希望が通るならそれが一番だ。
「そうですね。おそらく何とでもなるでしょう。こういうのは抜け道があるんですよ。じゃあとりあえず現地確認に行ってらっしゃい」
「わかりました…?」
何をどうするのかピンと来なかったので一旦言われた通りに連れて行くことにした。とは言っても俺たちにとってはしばらく暮らしたことのある場所だし、フレンドビーたちも寒さに負けずに活動も続けている。
ここで暮らす人数が増えるので拡充はしないといけないが、かつて住んでいた人数はもっと多かったようだから残骸とはいえ家の基礎は残っている。
「まあ家も作ろうと思えば作れるけど、今日は見るだけでいいか」
「もしかして最初から個別に家を作るつもりだった?」
「え?だめ?」
基本的な生活に必要なものは衣食住とは言うけれど、文明がそこまで発達してない場合は食住衣だと思うんだよね。この世界だと特にそう。様子を見ないと分からないけど1か月もすれば食の目途はつくだろう。だったら次に必要なのは住だと思って作ろうとしたのだけども。
うん、間違いのようだ。言ってくれたリセルの後ろで気まずそうにしている人たちがいる。トワが手をあげて代表として教えてくれる。
「全部やってもらったらダメ。自分たちでやる」
「うん…。分かった」
そういえばそんな話もあったな。全てを整えてもらったら逆にダメになるとかなんとか。思い当たる節が色々とあるなと振り返るとこっそりリセルに聞く。
「もしかして獣人の村でも余計なことしてた?」
「まあ、ちょっと過剰かな。そのあたりは万花ちゃん、毎果ちゃんと相談してるから大丈夫だよ」
「そうだったのか。フォローありがとう」
「構わないよ。してもらう以上に何か返せるようにがんばってるけど、イレブンがやりたいことするのが一番だよ。バランスがおかしかったらまた言ってあげるからさ」
「助かる」
思わず拝んでしまった。今日の夕食は腕によりをかけて何か作ることにしよう。
村を色々と見て回っていくつか決まったことがある。
今ある家を解体しすぎると村として認識されなくなる可能性があるので村の真ん中あたりから住居スペースを作っていく。
農地を作る。要するに食糧生産の目途を付けるわけだな。
その次に何か外に売り出すための特産品を作る。最悪の場合貨幣がなくても村の経済が成立することなんていくらでもあるが、そういう訳にも行かないだろう。ゆくゆくのために考えておく必要がある。
要望としてダンジョンの入り口は誰でも入ることが出来てしまうため、簡単に入ることが出来ないような仕組みを作っておくことを依頼された。
一番年下がトワだが、子どもが出来る可能性もあるし、他に移住してくる可能性もある。確かに必要なことだ。二つ返事で引き受けることにした。
そしてそこまで広くもない村を見回って最大の決まりごとが残っていた。
「責任者を決めないといけないのか」
「イレブンお兄ちゃんじゃないの?」
「俺はここに常駐しないからダメだよ。強いからって決め方は良くないよ。こういうのは責任もってみんなのために動ける奴がやる仕事だ」
「だからイレブンお兄ちゃんだと思うな」
いや、ここで引いたら負けだ。俺はたぶんここで満足しない可能性の方が高い。それにまだ強くなっておく必要がある。村のことばかりを考えるわけにはいかない。腕をクロスして答える。フレンドビーたちからの逆輸入だ。
「俺は無理です」
「こう言ってるから、ね」
「少なくともあなたたちの中で決めるべきだ。俺もここに自分の家を持つようにするから、何かあれば手伝うよ」
移住予定の人たちのみで話をしてもらうことにした。話し合いはどこでもできるからということで、村長を決めることもこれから誰が何をやっていくかも含めて持ち帰りとなった。
☆ ★ ☆ ★ ☆
数日かけて彼らには話し合いに入ってもらった。俺たちはザールさんから計画が立てられたと連絡を受けたので宿泊している宿へと向かう。
「私が欲を出してダンジョンの攻略する冒険者を募集することにします。人選は私が権限を持つことにして冒険者組合に依頼を出します。武闘大会などで見繕うことにしても良いですね。今話し合いをしている彼らはその受け入れる場所を作る先遣隊兼住民として住居や宿を作る人材として送り込むことにしましょう」
「それは…、ザールさんに悪くないですか?」
かかる費用や手間が明らかに面倒なことにしか見えない。
「そうですか?これが攻略できることを知らない人から見ればどう見えますか?はい、リセルさん」
「えっと、飛ぶ鳥を落とす勢いの商人であるザールさんが無茶なことを始めようとしている?」
「正解です。イレブン君が入れるようになっていることを知っている人間はほぼいません。イレブン君と知り合った時点でこの策は成功と同じです。むしろこれは僕がイレブン君の偉業に乗っかっているんですよ」
「あ~、なるほど」
「理解してもらえたようで何よりです。ま、面倒な交渉を私に任せてください。何とかしましょう。今回の件で組合2つに恩も売れましたし、今の僕が言えば通りやすくなるでしょう」
成功が約束された件だから、ザールさんはほくほく顔だ。俺はレベル上げが出来れば良いし、あの人たちが穏やかに済むことのできる場所が出来ればなお良い。
他にも考えることはあるけど、これで希望の状況は作れるようだから乗っかかることにさせてもらおう。
「まだよく分からないところはありますけど、よろしくお願いします!」
「こちらこそ助かります。他にもこういうダンジョンがあるなら確保してしまいたいですね」
「あるにはありますけど、他の国です。この大陸の地図ありますか?」
「詳しいのはありますがこの国のものだけです。大陸となると概要図すらありませんね」
それはそうか。通ったところが記録されていくなんて不思議アイテムなんかは無いか。地図もあった方が良いから何か考えておこうかな。
その後は公表する建前の情報を詰めていくことになった。まとめるとこうだ。
そもそも原因のダンジョン(極上の果実のこと)を攻略できないからと放置している状況は良くない。人間の住居に張られている結界らしきものの効果がなくなったときに、直接魔物が野に放たれる現状は危険と言わざるを得ない。
攻略を狙って入って行った凄腕の冒険者たちが戻って来ないと冒険者組合の記録に残ってしまっているが、将来の国のことを憂慮して有望な冒険者を募って攻略に乗り出すことにした。
先だっての宿泊場所を準備することにしたので、冒険者は現地に来てもらうだけで構わない状況を作る。ただし、持ち出したものに関しては一定の交渉権をザールさんが持つとする契約を交わしてもらう。
ザールさんが持っている元々の権力に加えて、今回の件で色々な方面からもらえたらしい報酬を受け取らずにこの提案を受け入れてもらうことにすることにした。
正直なところ欲しい褒美が無い。貰うよりも自分で作る方が高性能なものが手に入るだろうし、どうせなら魔国と取引する方が良いものを手に入れられる。
「こんなところでしょうね。封じ込めることが出来なくなってしまうかもしれないという一言でほとんどの者の口は塞ぐことは出来るでしょうし、向かってくる者がいるとしたら僕ではなくイレブン君のところに行くでしょう」
「え?」
大筋の理解が済んだところでザールさんが小声でぶっ込んできた。俺にだけ話したいみたいなので、リセルに断って二人だけにしか聞こえないように消音結界を張る。
「申し訳ないですが、僕に手を出してくる者は僕を知らない小物だけです。そんなのの処理はいくらでも出来ます。そうなると僕が抱えている人材で崩しやすい者に注目が集まるでしょう」
「見た目だけなら俺ですか」
「もしくは」
そう言って目線が俺の横へと移る。あ~、それはダメだわ。
「武闘大会を含めたのはそのためですか。まあ確かにそれなら俺も含めて手を出してくることは無いでしょうね」
「僕と繋がりがることでためらうならそこまでですが、それすらも考えられない者もいるのでね」
「武闘大会を待たなくても名を売ろうとは思ってたんですけど」
「構いませんよ。名に箔が付いている方が僕も指名しやすくなるのでね」
「メタルマウンテンの詳細地図を作ってます」
まだ石と鉄と銅までしかないが途中の物を見せるとさすがにザールさんの表情が変化する。
「たぶんイレブン君がすることは大体驚く準備をしておく方が良いのでしょうね」
「時間もらえたらすぐに出来ます。ちょっと全容まで把握するのと、誰にどこまで公開するのかってところで考えはしますけど」
「デテゴを介して途中経過だけでも伝えておくと良いですよ。ひっくり返るでしょうからね」
「え~?ビックリさせたいので出来上がるまでは秘密でいきます」
「くっくっく。まあ僕が何を言ったところで変えないでしょう。ご自由に」
よし。お墨付きをもらったのでそれでいくとしよう。
お読みいただきありがとうございました。




