マルクトでの後片づけ
今日も長くなりました。切るところはありましたが、前半がもう膨らまなかったんです。弱音と切り捨ててください。
では、お楽しみ頂けると幸いです。
寝ころんでいたのは1分ほど、受けたダメージは治癒し、使用したMPをポーションを飲んで補充する。ステータス的に元に戻っても肉体的にも精神的にも疲れは感じる。数字で表せない何かもあるということだろう。
帰ろうかと思ったところで羽ばたく音がして目の前の地面へと着地する。
≪何してるの、あんた≫
「や、ひさしぶり。見てたから知ってるだろ?もしかして初めて見た?」
煽りでも何でもなく知らないものの可能性も考えて聞いたつもりだ。
≪正直知らなかったわね。あれは何?≫
「邪獣人って言ってさ。『邪人化毒』って見かけはポーションなのを服用して生き残っちゃうと存在そのものが変化するんだ。強さは目覚めたばかりで一対一なら今の俺でも倒せる。複数はちょっとキツイね」
≪そうなのね。私が封印されている間に作られたのかしら≫
20年ほどゆっくりと寝ていた、と言うと語弊はあるけど、確かに一体で国1つくらいは滅ぼすことが出来る生物が作られていたらさすがに心配はしてくれるみたいだ。
「それがね。本当は百年くらい先にならないと作られないはずなんだ。だからその心配は逆だね。なぜ先の時代のものが存在しているのかって考えるのが正しい」
それを聞いて少し考えると、ゆっくりと顔を低い位置から俺を正面から見上げるように構える。
≪………まさか、あんた?≫
朱雀が低い声で発した言葉に大声で反論する。
「ふざけんな、馬鹿!!んなわけあるか!俺も存在は知ってても作り方まで知らない謎のアイテムだよ!」
≪そうよね~、一応聞いてみただけよ≫
ふざけたように誤魔化したが、ちょっとイラっとしたことには代わりない。やり返す方法が思いつかないし、敵うわけないのでやめておこう。ただし、爆弾だけは投げてやる。
「ただ、心当たりはある」
≪そうなの!?≫
当たり前である。『邪人化毒』が使われるイベントはあるのだ。そこの解決まで行っているのだから背景は知っている。
「俺の知っている話だと帝国が解体された後にできた国の1つに『中央聖教国』ってやつが作った国だよ。過去にも似たような国はあったらしいけど、俺はそこまでは知らない。前身の国があるならまずはそこを疑う方が良いかな」
≪私も人の興した国まではいちいち覚えていないわ。それは調べておいて。まああんたは勝手に巻き込まれていくだろうから、そのうち解決するでしょ≫
「ちょっと待て。そんなに俺は面倒ごとに巻き込まれたくはないぞ」
≪リセルちゃんが巻き込まれそうになったらどうするのよ≫
「それは当然助けるけど」
≪今一緒にいる友達は?遠くにいる友達だとどうする?≫
「ぐ…」
答えは言わなくてもお互いに分かっている。自分が何とか出来るなら何とかしたいと思ってしまう。前の世界だと力だけでは何ともならないことが多すぎたが、今回のようにこちらは無理矢理だが力で解決できることが多い。
俺に出来ないことでもザールさんやデテゴに手を借りてどうにかできることが多い。差し詰め俺は暴力担当というところか。
「分かったよ。元々情報は提供するつもりだったんだ。ちゃんと対策はしていくよ」
≪よろしい。こっちも連携しておくから≫
「連携…?って四神獣も協力してくれるのか!それはすごい!」
悪い意味で知らないことが増えてくる中、良い意味で知らない要素の最上が目の前にいる朱雀たちだ。他の三体(三柱?)まで直接繋がっているわけでもないのに手を貸してくれるなんてありがたい話だ。
「それならまずはリセルの――」
≪それとは話が別よ。直接あの子がそれぞれに会いに行く必要があるわ。今回についてがはあなたに対してのものよ≫
「え、俺?」
≪リセルちゃんの試練を手伝ってくれる件と今回の件に関しての依頼料ね。さっき倒した魔物の件についても含まれるわ。両方ともこちらが頼む前に解決に動いているのも評価が高いわ≫
「さっき勝手に巻き込まれているとか言ってた奴のセリフか?」
≪いちいち余計な茶々入れるんじゃないわよ!≫
「はい」
さすがの剣幕と圧力に降参のポーズを取って黙ることにする。
≪というわけでこれをあげるわ≫
鳥らしい声をあげて天を仰いだかと思ったら目の前に光が現れ、光がやむところんと現れていたのは黒い石だった。俺にくれるものだとのことだったが、何か簡単に触ってはいけない気がする。
「これ、何?」
≪指でツンツンつつくのはやめなさい!それは守護獣の卵よ≫
「ほう。聞いたこと無い」
≪相変わらず知識が滅茶苦茶ね。まあ神獣と関わらないと知らないのも無理ないわね。とりあえず肌身離さずなるべく持っていなさい。しばらくしたら孵化するでしょう。その生まれた守護獣はあなたを守ることに特化した姿で生まれて来るわ。今回みたいに一人で無茶するあなたのために用意した子よ。大事にしなさいね≫
卵と言われるといつまでも地面に置いておくのはかわいそうだ。拾って掌に乗せる。片手で持てる大きさだ。特に鼓動があるとかではない。何も知らない人に見せたらただの黒い石にしか見えないが本当に卵だろうか。
「とりあえずはありがとう。……けど、遠回しに無茶する回数を減らすか、ずっとついて来る生まれたてを守れるくらいに強くなれ、って聞こえるのは、気のせいか?」
顔を上げると既に朱雀の姿は見えなくなっていた。
「朱雀?どこいった!?」
周囲を探ったがやはり俺が感知できる範囲から消えてしまっていた。
≪じゃあとりあえず、任せたからね≫
直接の音なのか、頭の中だけに響く音なのか分からないが一言だけが響いていた。いなくなったら途端に冬風が吹いてきて体を冷やしていく。さすがに火を司る神獣だ。存在するだけで温かったみたいだ、なんてくだらないことを考えた。最後にらしくない消え方をしたけど手の中に残る黒い卵が先程のやりとりが間違いなくあったことを示していた。
☆ ★ ☆ ★ ☆
マルクトに戻ったあとのことは搔い摘んで説明させてもらう。
楔を打っていたのはレイさんの屋敷だ。戻った3秒後にリセルが目の前に現れて体に異常が無いことを高速で確認された。方法は目視と触診だ。俺が反応できないスピードだった。攻撃だとしたら確実に瞬殺されてたな。
リセルが確認している間に糸太郎が頭に乗ってきた。確認が終わったリセルは大泣きが始まってしまった。慰めている間に蜂娘たちがみんなを誘導してきてくれて、泣き声が響く中で無事を喜んでもらえた。
現場を見ていたデテゴとザールさんには任せることになってすまないと詫びられた。
強さのほどはリセルが青ざめた表情をしていたことで、俺以外に対処できる人間がいないことは伝わっていたそうだ。
適材適所ということで場を治めたが、戦闘能力のある面々の顔がガッチガチの真剣モードになっていた。これはヤバいレベルでの特訓が始まるのかもしれないな。俺も自分だけではなくて色々と飽きないようにメニューを作っておこうかな。
朱雀に話した内容は、屋敷の中に移動して説明した。
中央聖教国の概要を離すとザールさんに心当たりがあるそうなので、またそれは別の話で。これからもまた邪獣人が出てくるかもしれないことに気が付いた戦闘能力のある(以下略)
俺が聞いたのは、今回のマルクトの件だが黒幕は2人だった。
名前が挙がっていた通りで、1人は俺が跡形もなく消してしまったがザスカ・トップだ。各方面にはザールさんとデテゴが口裏を合わせて報告をしてくれることになった。
少なくとも禍々しい魔力自体はマルクトにいる強者は感じ取っていて誤魔化すことは出来ない。出所不明の薬を服用して襲い掛かったため非常時と判断して現場にいた謎の人物が対処したことになるそうだ。
詳しく調べられると俺だということは分かるが、可能な範囲で隠してくれるそうだ。相変わらず未成年であることを理由にいらない横槍を入れてくる馬鹿が湧きだしてくるだろうということだ。
余談だが、俺は関わっている案件でいくつか大きなものは経験しているが公式になっているのは少ない。一番大きいものでサイクロプスの討伐だ。朱雀や国を潰したことなんて広められる方が困るから良いけど。
当日聞いたのはここまで。後日聞いたのがここから下だ。
最も悲惨なことになるのは残された黒幕のボウカツ・カンジョーだ。ザールさんの予想だと今回の全ての責任を引き取ることになるようだ。
筋書きとしてはマルクトを自分たちの思い通りにするべく冒険者組合と商人組合を私物化するつもりだったという部分に落とし込んで一旦は処理する。そこから秘密裏に他国の干渉があったのかを詳しく調べるそうだ。
表向きには2人分の罪を1人でおっ被ることになる。それだけで、ざまあ!!と叫ぶ話だ。少し叩くだけで後にも出て来るけど余罪がボコボコ出て来るし、しばらくマルクトはその清算を付けることで騒がしくなってしまうようだ。
結局はボウカツの最終的な処理はまだ決まっていない。本当に他国が原因であるなら一介の平民商人が国の商業の中心都市で売国を企てたことになる。簡単に死ねると思うなってやつだ。確定するまでは生きられるらしい。日のあたるところには出て来れないので一旦はこれで溜飲を下げるしかない。
あと、カンジョー商会で昏睡状態に陥っている魔法使いが見つかった。詳しく調べてみたらこいつが奴隷にするための呪魔法を開発した男だった。開発者と使用者はそれだけで死罪の一歩手前の刑が執行される。
解除するたびに反動がくるようにしてあったらしく自分が出来るよりも高度な魔法を使うと身を滅ぼす原因になることを学んだ。それはそうと奴隷化されていた人たちは全員解除した。
相当な人数だったが、全員トワのように錯乱することも無く目を覚ました。トワが子どもだったことと俺がまだ手探りで行ったせいだ。それに関しては俺が悪かった。ごめん。
別に構わないと本人は無表情だったが、トワのお姉ちゃんを自称するコトシュさんによれば本当に気にしなくて良いそうなので言葉に甘えることにした。
魔法使いはそれこそしばらくは死にこそしないが、目が覚める気配が全く無いのでこのまま捕縛して処置することになった。永久に魔法が使えなくなるような刑罰が下るそうだ。俺も呪魔法を悪事に使用すると同じ目に遭いかねないとそれとなく教えられた。気を付けよう。
色々あったがレイさんはマークル商会の前線に復帰することになり、アンナさんは護衛に戻るが引き続き相談しながらやっていくことになり、最初よりも笑顔を見せながらうまくやっていくことになりそうだ。
まあ使用人の方々も大変だったがこれからうまくいくようになっていくだろう。
長かったがここまでが搔い摘んだ内容だ。俺は今レイさんの屋敷の庭で今までのことを思い返している。ちょっと遠い目をしたい気分だったんだ。目の前には大勢の人が片膝をついて頭を下げている。
「この方々は?」
「カンジョー商会で奴隷になっていた人々です」
教えてくれたのはニコニコとした表情のレイさんだ。まあ最終的には庭に大きな平屋建ての中で寝かせてたもんね。そしてかかる費用は全額こっちで持ってたから臨時の良い収入になったと思うよ。この辺りは私情は挟まずにお取引きしたからね。
「で、もう一回言ってくれる?」
「何度でも言いますよ。これからをどうするか二択で聞いたんです」
「そこは自由意志で良いんじゃないかな」
「最初はそうしていました。でも、途中で2つしか出て来なかったんです。挙手してくださいねってまとめて聞いてみたら、なんとすぐに終わりました」
あ~、カンジョー商会の中枢で働いていたうちの捕縛されなかった人は全て奴隷にされてたんだもんね。憲兵立ち合いの上で俺も解呪したし、今回に関しては罪に問わないようになって良かったよね。
「事務方の仕事が出来る方々がこちらに入っていただけることになって本当に助かります」
「そうだね。良かったね」
気持ちの処理として色々あるかもしれないが、これからのマルクトを立ち直らせるためにがんばってほしい。
「師匠、あ、ザール様との繋がりもありがとうございました。」
「師匠呼びなんだね。嫌がってたから気を付けた方がいいよ」
「はい。そう致します」
業務提携というかグループ企業として傘下に入ったのか、その辺りは詳しく聞いてもよく分からない。仕組みだけ教えたので、あとは相談してやってほしい。師匠呼びは年齢的にまだそんな呼び方されたくないってザールさんの心情の問題だよ。
「で、イレブンさん。戦闘が出来る元奴隷の方々はイレブンさんの元で働きたいそうです」
「えっとマークル商会で護衛の必要とかないの?」
「大丈夫です。今回の件で冒険者組合に大きな借りが出来ましたので、有利な雇用契約を結びました。それにこんなに大きな人数抱えるよりも必要な人数を雇う方が安く上がります」
「ごもっともです」
えっと、何人いるのかな。トワだけなら抱えるつもりだったけど、他には少し早く捕まえていた5人と、他に20人ほどいたのか…。
「冒険者になってみるとかはどうなんですかね…?」
「それでもトワちゃんを抱えている限り、ずるいってなりません?黙ってついて来るんじゃないですかね」
コクコクと頷いているトワがいる。ちょおまっ、どっちの味方だ!?
その横にトワの希望通りにしろと黒いオーラを放つコトシュさん。あんたキャラ代わり過ぎ。
ロイーグさんは苦笑いで役に立たない。チッ!
「獣人の村に移住してもらう?出来れば私としても何とかしてあげたいんだけど」
「いや、それよりももっといいところがある」
リセルも苦笑いだが提案してくれるだけありがたい。ただ、人がいるならやりたいことが1つあったのでやってみるのはどうだろうか。
「グレイブ村に移住しよう」
お読みいただきありがとうございました。
イメージはド〇〇エ7(移植4)の移〇の町ですね。これは元から考えてました。このタイミングなのは思い付きですけど。冬に開拓を始めるとか何を試されているんだ…




