屋敷に侵入を試みたとしても
お楽しみ頂けると幸いです。
【第三者視点】
屋敷の正面でイレブンが暴れ、その他のところでは糸太郎が秘かに捕まえて簀巻きにしていた。周囲から侵入できるような隙は無い。では、リセルが戦った冒険者はどこから屋敷に侵入したのか。
その答えは地下である。リセルが土精霊の力を借りて地下牢を作ったように、地下を掘って侵入してきたのだ。
この世界で魔法が使える者は秘密が多い。適性が1つしかないことが多いため大体一属性を極めることになる。複数属性使うことが出来る時点でとんでもない事態なのだ。そうなると実力者は奥の手としてもちろん隠す。加えて魔法を応用して出来る技術も秘伝として秘匿することが多い。よほどの認め合った戦友や認めた弟子でない限りは秘伝を教えることは無い。
どこでも教わるような攻撃や防御の使い方ではなく、今回のような穴掘りなんかは土魔法の使い手としては消耗が大きいこととどう働きかけるとその消費を抑えらえるかがコツとなって秘伝と呼ばれている。今回のように侵入に使うことも出来るし、追手から隠れることも出来る。バレていては対策をされることが主な理由だ。使いどころが必殺に関わるものは滅多には使われない。
秘伝と呼称する技術が広がるのを防ぐため、この方法で侵入してきたのは元から知っていた者だけで構成されている。リセルと戦った冒険者たちともう一つ別のパーティだ。
イレブンが対応している表からの襲撃が陽動、その隙を突いての裏や周囲からの襲撃は糸太郎が蜘蛛として嬉々としてそのスペックを遺憾なく発揮している。それらが防がれたとしても屋敷の中へと直接侵入して誰かしらの人質を取ることになっていた。二重三重の策だったわけだ。
しかし、その地下を掘り進めていく作業は非常に難航した。屋敷の敷地に入るくらいのころから所々に固い岩盤が存在して簡単に進めなくなった。
どれだけ力を込めても壊せなかった岩盤を避けて掘り進めることが可能なところを探り、何度も遠回りしながら進んだ。襲撃作戦開始までに間に合ったのは奇跡と言える。最終日に一気に進むことが出来たからだ。今までの苦戦が嘘だったかのようにスムーズに進んだ。
代わりに土魔法の使い手は屋敷に到着するまでにかなりの消耗を強いられることになった。残りMPはポーションで回復できても、魔法を使ったことによる精神的な疲れまでは癒せない。
屋敷への直接攻撃のために別に分かれて行動することになった。その別れた方のパーティはリセルに見事に撃破されている。
今回はもう一つ屋敷に侵入してきたもう一つのパーティが体験した恐怖の物語である。
彼らの目的はまず第一に人質を取ることで、外の戦いを有利に進めるようにすること。第二に以前襲撃を失敗して身柄を確保された人員が地下にあるとされるところ以外にも別にあり、その人員を消すことだ。
人質を取ることに関しては特に異論はない。抵抗を少なくするためなら当然のことのため何も言われなくてもその手段を取る。
しかしもう一つの目的は聞いた時に疑問符が浮かんだ。何のために消さなくてはいけないのか?それだけ重要な情報を持っているのに捕らえられてしまったのだろうか。そんな人物をわざわざ相手方に送り込むだろうか。
疑問には思ったが詳しい説明は無く、渡されたのは屋敷内部の詳しい見取り図だった。スパイから手に入れたもので、どこに誰の部屋があり、どのくらいの大きさなのかまで、全てが描かれていた。
しっかりと頭に叩き込み、今回の作戦に臨んでいる。侵入するまでにバレてしまわないかだけが心配だったが、地下までは警戒していなかったようで苦労はしたものの侵入自体は成功した。
予想外だったのは入り込んだは良いものの屋敷が見取り図と大きく変わっていることだ。侵入したのは屋敷の中にある庭だから扉を開ければそこは廊下のはずだ。しかし、なぜか玄関だった。
「どういうことだ!?」
「わからん!俺はちゃんと掘ったはずだ!」
「静かに!屋敷の中は全て把握しているんだ。静かに行動するぞ」
揉めそうになったところで、リーダーが諫めて先へと進むことになる。だが、道中にも想定外のことは起こる。人がいる部屋のはずなのに誰もいない倉庫であることに始まり、廊下のはずなのに見えない壁があって進めない。また、階段を上がっていたはずなのに気が付くと階段を下りていることもあった。
混乱と恐怖にまみれながら何とか進んでいく。この時点で人質を取ることが難しいのだから戻ればいいとも思ったが思い通りに進むことが出来ない以上、戻ることも出来ないのではないかと聞くと誰も何も言えない。
仕方が無いので進むしかないのだ。明らかに敵の手の中に陥っているのは明らかだ。何が起きても対処できるように最大限の警戒を行いながら進んでいく。
そうして辿り着いたのは、始末するように言われた5人が寝かされているはずの部屋の入口だ。
聞いた話では目を覚ました時に暴れる可能性があるので、ベッドに拘束されているということだ。聞いた時は拷問でもされて発狂したかと思ったが、この辺りの言葉は濁されてしまったので詳細は分からない。
起きられて困るなら寝ている間に始末をつけるしかない。最悪の場合は一人だけ生かして外に出ることで人質の代わりにしてしまえば良いのだ。
誰が言ったか分からないが、その言葉を聞いていくらか希望が出てきた男たちは慎重に部屋の中へと侵入する。
中に入ると聞いていた光景だった。同じ造りのベッドが6つ置かれてあり、そのうちの5つに人が寝かされている。目的の場所はここだとばかりに全員で部屋の中に入る。
物理的な攻撃力に乏しい土魔法の使い手が扉の前に残り、あとの3人で手分けして人質にする者を見繕う。
人質は女にした。仮に目覚められても押さえつけることが可能だと判断した。分からないように手足が動かないようにしておいても良いかもしれない。
リーダーがそう判断し、実行に移そうとしたときだった。
「ようこそ、おいでくださいました。ここでお寛ぎ頂けるように準備させていただきました」
女の声が響く。途端にリーダーと魔法使いを除いた部屋の中を早速調べようと動いた二人が動きを止め、ゆっくりと倒れ込む。
「どうしたんだ!?」
瞬間はじけたようにリーダーの体が動き駆け寄って倒れようとしていた二人の体を受け止める。大きな音を立てずに済んだことか、二人がまだ生きていることを確認できたことにか、少しだけリーダーはホッとする。
倒れた二人の様子を確認すると表情から意識はあるが、動くことはおろか話すことも出来ないようだった。リーダーと逆の恐怖を表現するためにわずかに変化する表情と吹き出してくる汗で、いやその目で訴えてくる。
「『体が動かない、声が出ない』と仰りたいようですね。当然でございます。屋敷に入って既に5分以上も経過しておりますので既に皆様、体の自由など利きませんでしょう」
そういえばとリーダーは思い出す。俺はさっき駆け寄る時に異常に速く動くことが出来た。いつもの俺があんなに速く行動することが出来ただろうか。それに、
「リーダー、誰の声が聞こえているんだ?」
「え?」
扉の前に待機していた魔法使いの声に反応して振り返ると、目に映ったものに釘付けになる。
「俺たちには誰の声も聞こえていないぞ」
「何かいるのか?」
声をかけてきたのは先程自分が受け止めたはずの仲間二人だ。
なぜだ?一体どうなってる?
それに今自分が支えているのは何か?腕には確かに体を支えているという感覚があるのに?
恐る恐る視線を下に写してみると何か大量の黒いものが顔目掛けて吹きだしてくる。既に支えていたはずの腕には感覚が無く、体は動かず、いつのまにか腕以外の感覚も消えてしまっている。
「うわあああぁぁぁぁぁ!!??」
自分の声だけでなく仲間の声も聞こえた気がするとどこか冷静に分析していると、自分の声すら本当に自分の口から出て来ているのかすら怪しく感じてしまう。何も信じられなくなった時にふと声が聞こえる。
「安らかにお眠りください」
意識は遠くなっていった。
お読みいただきありがとうございました。
誰がハメたのかについて18時にも更新します。残っている人員と最後の言葉で誰かなんてすぐ分かる話なんですが…。気になった方も次の話をお待ちください。




