坑道型ダンジョンの中で起きる事変とは
お楽しみ頂けると幸いです。
勘違いされてもいけないが、質の良い石にも需要はある。壁や要石として建築材料に使うことが出来るからだ。自然界に存在している石よりもゴーレムの一部になったことが理由だろうか、丈夫であるらしく使い道はあると聞いた。
言わずもがな鉄は鍛えて冒険者の武器防具に多く使われる。冒険者でなくても、フライパンや鍋などの生活の中で役立つ製品へと姿を変える。
銅に関しては鉄と同じように扱われていることもあるが、最近では学術都市で研究に使われるとか大口の取引が行われている。組合でも割の良い常設依頼として扱われている。
銀や金に至っては主に装飾品に使われる。強度が無いので単純な装備品には使われない。何か魔法的な処置を擦れば別だが。そのあたりは自分のイメージと変わらない。ただ、大量に持っていると余計なものまで引き付けそうなのでマークル商会に卸すにしても気を付けなければいけないなと思う。
どの金属も常に一定以上の需要がある。『採掘』で手に入れていくような運頼みのやり方でもある。11周目なら他に比べても確実に利益を出すことは出来るが、低レベルクリアでも考えていない限りは無駄だ。
そんなことをするくらいならいつも通りドロップアイテムを狙っていく方が速いし確実だ。
微々たる経験値であろうともらっておくに越したことは無い。ということでゴーレムを倒して集めるのだが、ここで挑発は使わない。今いるエリアのゴーレムしか寄ってこないし、ただ魔法を打ち出すだけの脳死プレイにしかならない。
それならば初回の今日はどこでどんな金属が手に入るのか、地図作りと見本集め兼疑われたときの証拠集めをしておいた方が今後の活動の目安になる。
「坑道内のマップを作りながら行こうかな、っと!」
ストーンゴーレムを真っ二つに切り裂きながら周囲の確認をする。
入ってすぐの入り口付近に関しては大きな体育館くらいはありそうな空間になっている。正面から向かって左側が鉄や銅などのそのまま使える金属が手に入る坑道だ。割と数が多いのが特徴である。
右側は数こそ少ないが、属性を宿した金属、通称はそのまま属性金属を手に入れることが出来る坑道だ。当然その属性を宿したゴーレムが立ち塞がるが、加工次第で武器も防具に付加価値が付くため高価での取引が期待できるため欲しがる人は多い。難点は加工できるだけの技術を持っている人が少ない。手に入りにくいため育ちにくいとも言う。
どの道を選んでも途中で枝分かれをしており、行き止まりもあれば奥まで通じているものもある。正解であれば休憩場所とばかりにまたちょっとした空間が存在している。
最終的にはどちらに行っても一番奥で合流することが出来、そこで行き止まりになる。坑道の数が相当に多いので余程のことが無ければ取り合いになるようなことは起こらないだろう。
話を聞いた感じだと、今俺しかここにはいないみたいだし。
念のためドロップアイテムの石を回収しながら進む。さっそく誤算が起こる。それも良い方の。
「魔石が大きくないか?……良いねぇ」
ゴーレムが通常の生き物ではなく魔力ありきの魔物であるからか、手に入った魔石は今まで手に入れたことのあるものよりも一回り大きかった。
金属だけでなく質の良い魔石も手に入り、王国と魔国の貿易の地にもなっている。マルクトが商業の地として栄えていることに納得する。
自分の持っている物量から考えていると微々たるものだが、ブツに関しては無いよりは有る方が良いに決まっている。残さず拾うと看板を見て『鉄はコチラ』という看板を見つけるとためらいなく奥へと進む。
少し進んでも何も出て来ない。枝分かれした道が途中にあったが、どれも行き止まりだったのでまだ先が有る方へと進む。広場にはまだ何を原料にして燃えているのか分からないが火の明かりが付いていた。
坑道の中だって僅かながら光を発する苔やら石のおかげで三日月の夜くらいの明るさはある。夜目が利くわけでは無いが視力強化と、どちらかと言えば聴力強化が役に立つ。止めに探知を使えば不意打ちをされることはまず無い。
とはいえ、念のため歩くくらいのスピードで進んでいく。ある程度進んでいくとわずかな地響きを感じ取る。
「ん~、後ろから?」
魔物の湧きはランダムに起こる。生物のような魔物は生殖活動でも増えているらしいことはコチラに来てから聞いたが、ゴーレムのような魔物に関しては完全に『いつの間にか』そこに存在しているそうだ。
少なくとも誰もいないところで発生するが、何もないことを確認して通り過ぎたらそこからゴーレムが飛び出てきたなんてことはマルクトであればの5歳の子どもでも知っているらしい。
そんな現象でも起きたのかなと思って立ち止まって後ろを振り返ると確かに後方から大量に追いかけてくるような足音が聞こえてくる。ついでに揺れてもいるので確定だろう。
曲がった筋のところから一体目が現れるとすぐにその後ろから二体目三体目とわらわらと現れてくる。
広場ならともかく坑道を移動中に出会うのは一体くらいかと思っていたが、そういう訳でもないらしい。まだ見えない範囲で動いている気配を感じる。
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坑道タイプのこのダンジョンの出現の法則は、周囲に生物がいないところに魔力が溜まることで近くにある金属を参考にゴーレムが生み出されるというもの。
基本的に通り過ぎた後に生み出され原因となった生物を追うか、近くの生物に向かって行くという性質を持つ。基本的には行きはよいよい帰りは怖いを地でいくダンジョンである。
挑発も使っていないのに大量に現れているのはイレブンの魔力だけが原因ではない。
身に付けている『精霊の腕輪』に宿る精霊たちの無意識に放っている魔力による影響に加えて、ゴーレムの倒しにくさにより冒険者があまり立ち入っていなかったことの相乗効果だ。
あまりのゴーレムの数に愚痴がイレブンの口からこぼれるのも仕方ない。
「なんだ、この数…。俺が原因か?聞いてたよりも多い気がするんだけどなぁ」
元から洞窟タイプに溜まりがちな魔力を、イレブンと精霊たちの純度の高い魔力が刺激してしまったことがきっかけだが、そんなことを知らないイレブンがゆっくりとはいえ踏み入った結果、諸々の影響がダンジョン内に及ぼしている。
滅多にあることではないが、彼がしっかりと攻略しない限り銀級冒険者どころか金級冒険者でも相性の悪い者にとってはトンデモないレベルの確殺ダンジョンが完成した。普通なら超危険地帯だが…。
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「『圧壊』」
命中した個体の打ち抜いた箇所に向かって重力を発生させる魔法だ。生物には自分で使用を禁じている魔法だが、俺はゴーレムは無機物の魔物だと認識しているため使用にためらいは無い。
ゴーレムから飛び出した欠片も地面に落ちることなくもう一度引っ張られて命中箇所へと落ちていく。頭2個分高く横幅は自分の2人分はあるゴーレムがおよそ一抱えくらいの大きさまで圧縮されたとき倒したときの反応を見せて消滅する。
坑道に影響を与えず倒すことを考えるとこれがベストだと考える。確認が済めば二体目以降を押しとどめていた結界を解除して次の攻撃を準備する。
「『圧壊』『圧壊』『圧壊』『圧壊』『圧壊』『圧壊』『圧壊』『圧壊』『圧壊』『圧壊』…」
撃ち込みながら元来た道へと戻っていく。ドロップアイテムの回収を考えると場所を移動するのは得策ではない。ある程度の距離を保つことが出来るなら、一か所に留まって倒していくのがトータルで見たときに一番効率の良い狩りだ。表情が暗い理由はただ1つ。
「暗いところで身体を動かすわけでもなくひたすら同じ作業の繰り返し…」
気分が落ち込んでいくのも無理はない。
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30分ほどでアイアンゴーレムの出現が治まる。回収も済んだところで進むか帰るかの結論が出ていない。正直飽きたという思いが拭えない。もう少し動きがあると思っていたが数の多さを考えるとあまり余裕が無い。
「しかしまだ午前中…。今帰ったら早すぎる…。行くか」
消費アイテムかエリアの金属から出来上がる装備品くらいしか落ちていないはずなのでダンジョン内のアイテムは全て無視する。
探知を使いながら、マップを手元の紙に記入しながら進んでいく。奥までどんな道になっていて行き止まりなでどれくらい歩くのか。入り口付近に立って分かるならそのまま記入して終了すれば次へと移動をくり返しているとエリアが切り替わる。
一度鉄エリアでは大規模に倒したため途中に湧いてくるアイアンゴーレムは少なかった。出てきたところでどうということは無いが、魔法しか使っていない上に重力魔法の制御は難しい。MPの消費と精神的な疲れはそこそこある。
「ここから先は銅エリアね。銅でも同じことが起こるようなら今日は帰ろう。俺が原因になってる可能性があるし。そうじゃありませんように!そうじゃありませんように!」
出来る限り聞き届けてもらえるように願いを口に出して祈っておく。その行動の何が悪かったというのだろうか。
1時間後に黙ってアイテムボックスに魔石と大量の銅を入れている俺に対して何があったか聞きたいか?語るのもめんどくさい。
お読みいただきありがとうございました。




