挫けたときでも誰かが代わりにがんばっている
お楽しみ頂けると幸いです。
翌日の昼ごろ、屋敷の中はお通夜と言っても納得されてしまうほどに暗い雰囲気が漂っていた。
始まりはもちろん俺からレイさんとアンナさんに伝えたことから始まっている。レイさんの朝食時にはいつも執事は控えて当日の予定を伝えていた。その彼がいなければ違和感を抱くのは当然だろう。
いくら俺の言葉とはいえそれまでに積み上げた期間がある。2人ともすぐには信じることが出来なかっため、収監している場所に行って直接問いただすことを信じる条件とされた。
「いくら何でも子どものころから面倒を見てくれた彼がスパイだなんて信じられません!」
「一応聞きますけど、戦闘能力高めであることは知ってました?」
「え…」
一体いつからこの計画が始まっていたのか分からなくなりそうだ。そうなってくると色々と疑いが生まれてしまうが、それはまた今度秘密でやろう。
このレイさんを連れて行く一回だけを乗り切れば大丈夫なはず。妙なことにならないように気を付けようとだけ心に留めておく。
朝食を取る気力すらなくしてしまったレイさんを連れて閉じ込めている場所に連れて行く。
入り口すぐには色々とやらかした男たちのスペース、そこから少し進んで個別牢として整えたところに件の男が入れられている。
簀巻きにした上で椅子に座らせて縛り付けている。詳しく設定していないので分からないが、まだ幻の中でさ迷っている状態だ。
「はい、こちらです。一応話くらいは出来ますよ」
執事にかけていた幻魔法を弱める。精神的に摩耗している状態だから長時間の会話は難しいが、逆に嘘を言う余裕が無い状態くらいにはなっている。
レイさんが牢の前で膝をついて問いかける
「シッジ、あなたがマークル商会に送り込まれたスパイなの?」
「…そうです…」
一言で真実がもたらされた。レイさんは項垂れてしまってもう頭を上げることが出来ない。アンナさんの肩をつついて気が付いたところでレイさんを指差し、外へ出るように連れて行ってもらった。
姿が見えなくなってからリセルに聞いたのは父親をケンカした時に仲裁に入ってくれたり、両親を亡くして呆然としていた時にも支えてくれたそうだ。その彼の本当の姿がスパイと言われると正直なところキツイだろう。
その場に残ったのはリセルとロイーグさんと俺だ。コトシュさんはレイさん達と、トワも一緒について行っている。
「で、一応聞いておくけど、レイさんの両親を殺したのはお前か?」
「イレブン!?」
「…違う…」
あ~、良かった。もしそうだったらさすがに俺も正直どんな顔してレイさんを会話したら良いのか分からないところだった。
「直接手を下した者は始末したが、毒を準備したのはボウカツ、その計画を立てていたのはザスカ・トップだ」
「爆弾発言…」
「ザスカ・トップって誰?」
「マルクトの冒険者組合の一番偉い人」
「組合長かよ!やっべぇな」
この騒動の規模は確かに大きい。けれど概要を掴んでさえしまえばこちらの打つ手は簡単なものだ。
「まあいつでも潰すことは出来るよ。俺の活動はカンジョー商店が潰れてもこの街が機能するようにマークル商会のカバー範囲を広げることだったんだけど」
「でもレイさんのダメージは大きいね。普通に動かすのは難しいんじゃないかな」
「でも商会のことだ。そこまで俺たちが手を出すわけにはいかないしな。がんばってもらうしかないか」
「戻るか」
手に入れた情報から受けた衝撃を何とか処理出来た俺たちは一応死なないように処置だけして地上へと戻る。
屋敷の中に入るとやはりレイさんは寝込んでしまっていると聞いた。そればっかりは仕方ない。
その代わりに何とか奮闘しようとしていたのはアンナさんだ。普段は食堂になっているところにメインどころとなる人たちを集めて今回の件について、レイさんが体調を崩したということで代わりの陣頭指揮を臨時に取ると宣言していた。
普段はレイさんと話をしている人たちと相談しながら何とかしたいと声をあげていた。
「アンナさんが勝手に決めても大丈夫なんだろうか?」
「どうなんだろうね」
入った入り口の近くに立っていた使用人のおばちゃんが教えてくれた。
「アンナさんはね。レイ様の従姉なんだよ。自分には商才は無いけど、家のためにがんばるレイを支えると言ってずっと横にいたんだ」
「なるほど。二人がすごく信頼し合っているのはそういうことだったんだ」
「似てるんだし分かるでしょ」
「自慢じゃないけど俺はそういうのを見破るのはすこぶる苦手だ!」
「本当に自慢にならないから言うのはやめておけ、な…」
リセルにもロイーグさんにも、ついでにおばちゃんにも呆れられてしまった。
まあアンナさんもレイさんの横にいただけあって断片程度の知識しか内容だけど、それを正直に言うことで何とか決定を下している。商人たちもここでズレたことを言うと周囲から何を言われるか分からないから突拍子も無いことは言わなさそうだ。
現状はこのままがんばってもらおう。
「俺らは俺らでがんばりますか」
「分かった。コトシュさんとトワにも俺から言っておいたらいいか?」
「お願いします」
「今日でしばらく分のストックを完全に作っちゃうね。完成品を薄くしたら大量生産になるから」
「そういうのって有りなんだ。くれぐれも効果の薄すぎるものを作るなよ?」
「まっかせといて!」
決まったところで一回手を叩く。
「よし、がんばろう!解散!」
そして怒られた。
「イレブン!うるさいぞ!私たちはまだ会議中だ!」
「ごめんなさい!」
レイさんも何も信じられないくらいにやるせないと思う。正直1年くらい立ち直れなくても誰も文句言えない話だと思うし。
でも戻ってきたときに全部解決しておくからね。具体的な日数でいうなら、まあ数日ってところかなぁ。
☆ ★ ☆ ★ ☆
「ということでやって参りました。金属の取れるダンジョン『メタルマウンテン』、通称夢の国!」
今回は受付にちゃんと人がいた。俺の名前を出したときに少し反応されたが、特に何かをされることも聞かれることも無く中に入ることが出来た。
ここは今までの、洞窟を抜けたらそこは広い世界でしたってものではなく、鉱山風のダンジョンになっている。
まずメインストリートがあって、どこまでも奥まで続いている。途中で無数の脇道があるが、その先に何が取れるかが違っている。ある程度エリアごとに決まっているのとイレギュラーな採掘はあるが、どの道を行くかで採れるものは決まっている。
鉱脈を探して掘ることで手に入れることが出来るのが1つ。基本的に希少価値のある金属は奥の方まで進まないといけないし、手に入る量も少ない。
まあ現実と違って『尽きる』ということは無いので、一攫千金を夢見てコツコツやっていれば運が良ければ手に入る可能性がある。
しかし、それ以外に手に入れる方法がある。というか、普通に掘っているだけであるならそこはダンジョンとは呼ばない。魔物は当然のように出現する。
どんな魔物かというと系統は一種類だけだ。ただし、すごく不人気なやつなのだ。何が原因かというとその倒しにくさにある。HP高い、防御力も高い、魔防も、腕力も高い。低いのは敏捷と魔力のみ。
ただ、人が通るには不便が無い通路も魔物と戦うには狭すぎる。だから敏捷が低くても関係なく接近される=死と同義というくらいに魔物側にアドバンテージがあるせいで、遅々として攻略は進まない。というよりも誰も目指していない。
そんなダンジョンだから俺が行くというのが分かっていても邪魔する者を派遣できなかった可能性は高い。
ああ、何が出るかだけ言い忘れていた。
ゴーレムです。多種多様なゴーレムが出ます。
最初は練習用のウッドから出現する。大きさと動きの練習用だね。主に入り口で出る。
少し奥に進むか、枝道に入ったばかりはストーンが出る。ここからは少しレベルが上がるぞってことだね。そこからはアイアンが出てくる普通の金属の方向と、ファイアやアースなど属性の宿った魔法金属の出てくるエリアに分かれる。
現状で知られているのはそこくらいだが、どちらかを奥まで進んで2つが合流する地点まで進むと、希少金属のエリアがある。ここはそれこそミスリルやダマスカス、アダマンタイトや発掘確率は低いけど、ヒヒイロカネやオリハルコンも出てくる。
もう一度言うけどここは『メタルマウンテン』、通称夢の国。
だからと言って、夢を見させ過ぎて死人を量産するのは嫌なので、色々手に入れた上でどこまでなら現状の職人たちは扱うことが出来るのかを確認して売ろうと思う。
別にここ以外にも手に入れるところはある。だから職人たちは取れた金属を取り合って武器や防具を作り上げている。
ちなみに本来ならストーリーの進行具合やサブイベントの進行具合で持っているツルハシのレベルで採掘できるエリアが解放される。
そしてそんなことは今の俺、イレブンには関係ない。というかツルハシ無くても掘れちゃうのも確認済み。いやぁ、これは困ったね。
金属を扱う職人なら確実に俺の傘下に入るだろう。自分が存分に扱ったことの無い金属をいくらでも出してくる上に、俺も加工もやればできる。
少々面倒を見る必要はあるかもしれないけど、供給さえしっかりとしてあげたら問題無いだろう。
「と、ここまでが前提です。ではいざ、夢の国へ!!」
お読みいただきありがとうございました。




