撃退、解呪、スパイのあぶり出し
お楽しみ頂けると幸いです。
返答は無言。手にしたナイフを投げるのが2人、しゃがみこんで土魔法を使うのが2人。俺の足元にはまだお仲間の人が倒れてるんだけどね。
ふとトワと同じ状況なのかなと『鑑定』で見てみるとビンゴ。だとするとこのまま死なすのはもったいないな。作戦変更だ。倒れているのを掴むと飛んできているナイフを弾き、主に後ろから襲ってくる土の棘を結界で防御する。
「話が出来ないなら仕方がないよね。物理的に動けなくしてから解呪してあげるからね」
とりあえず掴んでいる男を上空に投げて、結界で包んで安全確保しておく。もちろん両手両足を動けないように拘束済みだ。そうでなくても動けないくらいにはダメージを与えているので動こうにも動けないけれど。
前回のトワのときに学んだことだ。意識がなくても体が元気なら動いてしまう。ならば体も動けなくしてしまうのが早い。あとから無事に治療する自信があるから出来ることだ。
さて、相手を殺さずに確保するなら変に制限かけている場合じゃないな。
「無傷、…じゃないけど、あいつらを殺さずに確保するから制限解除してくれない?リセルには後でちゃんと説明するからさ」
呟くと体が一気に軽くなって問題無く使えていた魔力もより力強くより繊細に使えるようになった気がする。抑え込んでいたことで余計にスッキリした感じがする。重りを抱えていたのを外したときのような感覚が近い。
「よし」
力を込めて大剣を握り締めて一人目に向かう。先程と同じようにナイフに土魔法も行く手を遮るように飛んでくるが、本来の力を発揮している状態だと防御に力を割く必要が無い。
ダメージをくらったとしても、微量に回復する魔法を使っていればそれですぐに全回復する。食らうダメージも何か当たったなというくらいでダメージを受けて気がしない。
一足飛びに一人目に近づいて先程と同じように剣の腹で打ち倒す。倒れた瞬間にそいつも攻撃対象になるらしく、一時的に飛んでくる攻撃の量が半分になる。
「そういうのって悪質だよ、ね!」
芸の無い話だが1人目と同じように空中で拘束すると俺に向かって同じように攻撃が再開される。ただ、人数が減っているので受ける攻撃は少なくなる。
あとは同じことの繰り返しだが、残した2人が女性だったため剣で殴ってよいものか躊躇いが出る。とりあえずは動けなくすること優先で電撃をお見舞いした上で拘束する。
これで5人の捕虜が出来た。まあ交渉に使うのではなくて自主的にこちらの味方になるように持っていくつもりだ。解呪するだけでほぼ間違いないとは思うけど。
奴隷にされた上に、意識が無いときに無茶苦茶命がけの仕事を命じてくるやつに対してどう思うだろうか。恨みに思いこそすれ、庇う人がいないだろうな。
トワもその辺りの記憶は無いみたいだけど、こうして新しく引き込む人が増えれば出来ることも増えるだろう。ありがたく陣営に引き込ませてもらおう。
とりあえずは帰るとするか。その辺りに散らばっているドロップアイテムを回収して新しく作るものに少し思いを馳せながら帰ることにする。
入り口で5人も抱えて出てくることに対して呼び止められたらどうしようかと思ったが、運よく周囲に見張りがいなかったので悠々と出ることが出来た。次に来るときは来やすいように楔を打っておく。これで行けるところが1つ増えた。
ちなみにここで手に入る穀物はほとんどが小麦だ。他の穀物も取れるし、一まとめに出来ないくらい色々な種類がある。今のこの国の文化ではどちらかというとパンに使われることが多いが、そこに俺が新しい風を吹かせるとしよう。
米も色々な使い道があるけれど、小麦だって色々と使い道がある。まあ厳密には俺は作り方は知らないけれどやっているうちに最適解が見えてくるだろうからな。
設置が終了するまで口元からニヤニヤが消えなかったのは見ていてさぞ不気味だったろうが周囲には誰もいないので気にしたら負けだ。再度周囲に誰もいないことを確認してその場から移動した。
屋敷に戻ると俺が連れて入った5人に驚かれはしたものの、行き倒れを拾ったということで無理矢理納得してもらった。治療は俺がするから心配しないでほしいとレイさんに伝えて広めてもらったので邪魔も入らない。
その後の夕食はそこそこにしながら、手に入れたアイテムを皆に分配する。そのあとは解呪だ。
「できれば見せてほしい」
「こう言っているんだがいいだろうか」
いざ解呪を始めようとしたらトワとコトシュさんがやってきて申し出を受けた。
まあ気持ちは分かる。トワが言い出して、コトシュさんが付いてきたのだろう。自分の記憶が曖昧になっているところが多いとはいっても同じ境遇だった人の力になりたいのだと思う。
「正直なところ、別に珍しいことも無いよ?することもあまり無いし」
「それでもいい」
「複数人やるから結構日数かかるよ?」
「べつにいい」
「おいおい。2人とも休憩を取りながらやってもバチは当たらないぞ」
「その辺りは体調と手ごたえを確認しながらやりますから」
「わたしはずっと見てるだけだし」
いつまでも嫌なものを張りつけられているのも嫌だろうから俺は少しでも早く取り除いてあげたい。トワも同じ考えかな。コトシュさんはどちらかというとトワの体調を心配している感じかな?
「とりあえずは一人目をやってから様子を見ましょう。トワのときの解呪経験があるから前よりははやく終わると思いますよ」
☆ ★ ☆ ★ ☆
結局のところ、3日後の昼過ぎで全員分が終了した。あとは目覚めるのを待つだけだ。初日の夜以外は俺も睡眠を取ったこともあって昏睡することは無かったし、トワも最後まで見守った。
必然的にコトシュさんも一緒に付きあってくれたけど、2日目以降は外回りに回ってくれた。皆の協力あっての成果だ。ありがたい。
「子どもは守るものって意識が強い人だからな。これで適度に優しくすることを覚えてくれたらもっと良いんだけどな」
「それは薙刀も喜びそうだね。コトシュさんは一人行動なの?」
「ああ。初日以降は静かなもんだぞ。いきなり全戦力を投入したとは思えないが、確実に勢力を削いだことは確かだからな」
「確かにそうだね。ここに5人で、地下には30人くらいいるんだっけ?」
「そんなもんだな」
この人数になったことと、次の段階に進めるために屋敷の使用人の人たちにもまた少しだけ口外しないことを言い含めて手伝いをしてもらっている。
「それで広がった情報はどの範囲なの?」
「今のところはまだ掴めてないな。何せ情報が掴まれたところでここに飛び込んでくる奴がいない」
スパイがいることは最初にレイさんの話を聞いた時点で分かっていた。仕入れの商人や値段もそうだし、どこと繋がっているかなんて話も含めて内部から漏れないと分からない話だ。
レイさんも疑いたくなかったのか確信が持てなかったのか。分かってはいるけど見抜けなかった時点で諦めたのかもしれない。まあ優しいだけで渡っていけないのはどこもそうらしいし。
俺たちがいることでもう一度がんばろうと思えたのなら良いだろう。彼女がまだスパイを確信していないうちにこっちであぶり出して排除しよう。いなくなった時点でバレる話だけど、ずっと疑うよりも確定情報を掴むだけですむなら精神的な負担も少なくていいだろう。
「だとすると次に打ってきそうな手段は外での襲撃かな。皆は外に行ったりしてない?」
俺たちが普通の冒険者と比較して強いことはバレてると思うけど、どの程度強いかというまではバレてはいないと思う。
「必ず戦闘できる者が2人以上で出たから問題無い。そのせいでリセルちゃんの作業が遅れているが」
「問題になってる?」
「いや、まったく。初期の在庫から出してるけど好評だ。一部の鼻の利く商人が買い占めたいと申し出てきたが、少しずつ卸している」
「なら少し遅れるくらい大丈夫でしょ。マークル商会が持ち直していくのもこれからの話だし、いざとなったら俺もやるから」
「分かった。何か考えていることはあるのか?」
「あとはね―――」
色々と相談して次の動きを決めていく。これでマークル商会の方が良品を売っているということになれば良いだろう。
長い目で見たときの対策もしないといけないか。少しオーバーかもしれないけどレイさんに話をしておくか。そうなると次はこれでいこうかな。
「明日の昼頃にもう襲撃でもしてしまおうか。夕食時にみんなに話すことにするよ」
「おっと、急だな」
「まあね。いつまでも二の足を踏んでられないからさ。面倒だし」
ロイーグさんに伝えた通り、解呪の疲れをしっかりと取った後に夕食時に明日で決着を付けることを宣言した。
そしてその日の深夜のことだった。
「こんばんは。どちらまで行かれるんですか?執事のイワンさん」
露骨に驚いた顔をした彼を呼び止めた。
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